第7話 ハイエルフ
「ふぅ…これは不味いな」
俺はこの状態を悲観し溜息をついた。ハイエルフの後ろには、その他の一般エルフ戦士が10匹ほど控えている。
どのエルフも殺意に目をぎらつかせ、凶器を握る手にも力が入っている。それも当然か…普段自分たちが喰らっている素材によって集落が壊滅したのだから。
「アドゥム…エル」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
ハイエルフが呟くと、周りのエルフ達も雄叫びをあげた。
まったくもって予想外の事態。”生き残り”がここまでいるとはな…。
奴らが遠間にいるうちに仕留めねば。
そう考えた俺は投槍器を瞬時に構え、右腕を思いきり振りぬいた。放たれた槍は緩やかに回転しながら、ハイエルフの頸を捉える。
キンッ!
高い音がして高速で放たれたはずの槍が撃ち落される。
そう、奴の脚によって―。
「なんという早業…」
俺はハイエルフの恐るべき技に思わず感嘆の声をあげる。
手持ちの中で最有力の飛び道具を封じられ、俺は純粋な”白兵戦”を余儀なくされた。
俺はかわって、黒エルフから鹵獲した鉄剣をスラリと抜く。
刃渡り40センチほどと少し小ぶりの剣。片手で扱うのにちょうどいい重量と全長。エルフも外道のくせになかなかいいものを作る…と今回の襲撃前に感心していたものだった。
構えは左手足を前に、右手足を後ろに引く。会敵時には得物を相手から遠い位置にもってくる、一方で前に構えた手足で敵の攻撃を捌き攻めの好機を狙う。これは俺が従軍していた際に白兵戦のイロハとして最初に学んだことだった。
ハイエルフは、俺をまっすぐに見つめながら目を細めて口角を吊り上げた。
笑っているのか?俺の事を…。
奴はまるで準備運動でもするかのように、トントンと二回ほど軽やかにその場で跳躍する。
ドゥッ!!
ハイエルフが地面を蹴る音―。
「速いッ!」
視界からハイエルフの姿が消え、次の瞬間あまりの衝撃により意識が遠のく。
左足による前蹴り。奴は足の
「くッ!」
俺は身体にめり込んでいる奴の脚に向かって剣を払いながら後退する。
さらに奴は右回し蹴り。それが避けられて蹴り足が着地した瞬間、俺の正面に向かってそのままサイドステップをするように右足で地面蹴り上げ足刀蹴りにつなげてきた。
それらの巧みな技の数々を俺は息を整えつつ躱していく。
今度は左からの斬りつけ。ハイエルフの腕は奴の肩から膝まで届くほどの
長さがある。よって、その腕から繰り出される斬撃は非常にリーチが長く、遠心力も相まって恐ろしい威力を誇るのだった。
3度鉄剣で蹴りや斬撃を受け、握る手がしびれ始める。
奴の”聖戦”の邪魔になるからか、それとも弓矢の斜線が俺と重なるからか、他の黒エルフは手を出してこない。
奴は右脚から左手、左脚から右手と対角線状のコンビネーションをフェイントやブラフを交えながら行ってくる。
うむ、これはなかなかの技巧派だ。
闘いの最中、そのようなことを考えながらひたすらに攻撃を躱す。
剣を奴へ突き出すものの、奴の身体は鎧もなく剥き出しの胴体ですら傷一つつかない。
奴の攻撃はさらに勢いを増し、スーフィーダンスのように剣を持った両手を伸ばしながら高速回転する。
そこから左回し蹴りを放ちつつ、倒立し今度はブレイクダンスのように両足を旋回させながら足の甲に付けている棘で俺を刺し貫いてくる。
俺は柔法の前回り受け身のように、その猛攻からエスケープし距離を取る。
一度立て直しを図らなければ…。
俺が3メートルほど奴から距離を取り、次の攻勢のために吸息したその瞬間!
ヒュッ!
倒立から体勢を立て直した奴は剣を俺に投擲した。
「あっ…」
虚をつかれた俺の喉笛に深々と奴の鉄剣が突き刺さる。剣の柄尻(持ち手の後端)には縄が結わえ付けられており、それが奴の手甲まで伸びて繋がれていた。
ハイエルフが素早く腕を引くと剣は俺の身体から抜け、奴の手に再び握られた。
「迂闊ッ…!」
己の不覚を恥じるものの、意思とは関係なしに意識が遠のいていく…。
俺がまた死を覚悟した、その時―。
「闘うんだ…山田くん」
俺の思考に何者かが介入してきた。
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