第4話 プロメテウス山田
異世界…なんともまぁ現実味のない話だ。トールキンやルイス=キャロルではあるまいし、怪物や異人種が闊歩する世界などそうそうあってたまるものか。
しかし、今目の前にある死体は間違いなく現実なのである。
俺は狼狽えながら、過去鈴木と談笑したときのことを思い返していた。
######
「山田さん!これ、見てくださいよ!」
「ん…鈴木これはなんだい?」
「知らないんですか?開戦前に刊行された本ですよ!クラスの中でハズレスキル持ちとして追放された俺、押しかけ女神と契約して無双しちゃいました…ってやつ」
「タイトルが長いな…それだけで中身が分かってしまうではないか?」
「まぁそうですね。2023年頃まではこういうのがウケてたんですけどねぇ。その後はハードボイルドなイケオジものが流行ったんですよ!落第中年invisible gameとか!」
鈴木は興奮しながら、いつにもなく饒舌に語り続けた。
「…いつかまた、ゆっくり楽しめるようになるといいな。そういう異世界モノ?とかイケオジモノとかそういったのを」
俺たち2人は歩哨中であるため、任務に専念すべく鈴木の話をやんわりと遮る。
いつも笑顔を絶やさない強メンタル人間である鈴木は珍しく少し寂しそうな様子で頷いた。
######
確か、その時鈴木は異世界モノの耳が長い妖精や亜人のことを”エルフ”と呼んでいたか?
そんな回想をしている間に、ゆうげ(夕飯)が出来上がったようだ。
(謎の菜っ葉と未知の偶蹄類モドキの汁)
手近なところで採れた植物と、投槍で仕留めた鹿に似た生物の肩肉をふんだんに使用したスープである。葉は毒を含んでいないか、まず茎を折った際に出る分泌液の色を確認。(基本的に乳白色の液が出るものは避ける)次に、手に葉をのせ10分、汁を手の甲に塗り10分、唇の上にのせ10分、一口含んで30分ほどして身体に異常が出ないか様子を見るなど自分なりに厳選した食材を利用した。
鹿に似た生物は臓物の利用は避け(脂溶性のビタミンなどによる過剰症を防ぐため)、骨格筋の部分のみ食用として利用する。脊髄液や脳漿は水分や脂肪分に富むような気がするものの、異常蛋白などの影響を加味して入念に除去した。
正直、元の世界での常識が通用することはなさそうだが、現状保有している見識を最大限利用せずに失敗するよりはマシだろう。
その後偶蹄類モドキの臓物の一部は、即製括り罠の餌として使ってみた。幸運にもリスのような小動物を短時間で捕獲できたので、いくつか発見した薬効成分を含む植物の試験等に活用するつもりだ。
何匹か捕獲出来れば、複数の薬を使用した際の薬物相互作用の参考になるだろうし、あの化け物(ミミナガヒトモドキ改め黒エルフ)の群れに遭遇する可能性もあるから切れるカードは多い方がよいだろう。
「安全安心のために圧倒的優位に立てる手段が欲しい…通常の武具に加えて早急にBC兵器を製造せねば…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます