生き延びろ山田ァ!〜なんだコレ違うんですが〜?俺の知ってる異世界と全然違うんですが〜

アボリジナルバタースコッチ

第0話 ありがとう鈴木

「投降シテクダサーイ。ワレワレ貴方達ウチマセーン」


 扉を叩く音、そして白い壁に囲まれた部屋。そこに窓はなく、リノリウムの床がこの空間を歪んだものとして映し出す。

 俺は中央に雑紙ニュースペーパーを敷き、正方形の装置を弄りまわしていた。一辺30センチほどのソレは米ロッキード・マーティン社内にある先端技術研究部門「スカンクワークス」、及び独ダイムラー・三菱重工業の合弁会社によって開発された製品R―2029。ありていに言えば”時空転移装置”と呼ばれる代物である。


 過酸化アセトンや硝安と軽油の混合物を傍らに置きながら組み立て作業を続ける。「コレを届けてくれた鈴木には感謝しなくてはな」

 俺はポツリと呟く。鈴木は旧伊藤忠から派遣された社員の一人であり、俺の戦友ほうゆうでもある。アイツが装置をここまで持ってきてくれたお陰で希望を、非常に僅かな可能性ではあるが見出すことができた。そんな鈴木もここにくる途中でその命を散らしてしまった。さらば鈴木!ありがとう鈴木。


 R―2029自体、中身は非常に複雑な装置であるものの、前線での使用を想定しているためコンポーネントをいくつか繋げるだけで起動が可能だ。あと3分もすれば完成させることが出来るだろう。まぁ漫画に出てくるような未来の道具を手にしていると言うと興奮しそうなものだが、自身がこの国の救世主として任務を果たす必要があることを鑑みるとそうも言っていられない。


 ”奴ら”が扉一枚先に迫っている。指先の震えが止まらない。

「よし!イケるッ!」

 装置が組みあがった。回路の接触を確認するための赤色LEDが煌々と輝く。真ん中にあるダイヤルを希望する年月日に合わせ、側面の絶縁体を外せば準備完了。黒い板をずるずると抜いていくと、冷却用のファンが音を立て始め甲高いアナウンスが響く。


「Account number 003 ・・・have a nice trip!! (それでは良い旅を!)」

 何がハバナイストリップ~だこの野郎!と感想を抱いたのと同時に閃光が部屋全体を包む。

「いよいよか・・・」

 任務の達成に向け、俺は再度気を引き締めたのだった。




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