8話 遭遇は闘争に

「人間の道具に頼るなどっ!」


飛びかかってくる雷狼を左右別々の方向に避けて挟む。

どうも最初とは口調が違う気がする。最初は普通にメスの口調だったのが今はオスの口調っぽい。


「いっけえーっ!」


焔が抜き放った法剣の刀身が鞭のようにしなって雷狼を切る。鞭の軌道を描く斬撃に戸惑った雷狼はほんの少しの傷に驚いた様子だ。

そりゃ打撃だと思ってたら斬撃だったんだか驚くか。


「面妖なっ!」


俺もやるか。

俺用に調整された2丁拳銃を腰から抜く。同時に雷狼に走り寄りながら乱射する。

注文通りに射程は短そうだが放射状に弾が発射され、至近距離だった雷狼に全弾命中。殴れる距離まで近付いたところで殴打する。


「飛び道具で殴るだとっ!」


飛び道具舐めんな! 某ハンターゲームのボウガンはちゃんと殴れるんだからなっ!

反撃とばかりに振るってきた爪をバックステップで避けながら銃を乱射、側面からは焔が法剣を連続で振るっていた。

圧倒的(2対1)じゃないか我が軍はっ! 言ってみたかったんです。


「くっ、このっ!」


ムキになって攻撃が雑になり反撃され余計ムキになる。完璧に悪循環に陥っている。

でも何か弱い者苛めみたいで罪悪感あるな。

幻狼の戦闘力は人化していようが狼だろうが基本は同じだ。多分この雷狼の戦闘力は俺より少しだけ低い程度、焔は俺と同じくらい。雷狼が爪や体当たり、噛み付きしか攻撃方法がないのに俺と焔は中距離からでも攻撃できる。

……完全に弱い者苛めだな。


「なあ、もう止めないか? 間合いが違い過ぎるぞ」

「五月蝿いっ!」

「ゴガツバエいっ!」

「は?」

「何でもない」


何となくやってしまった。いつも思うんだ、あの特殊な読みは何なんだ? 小鳥遊(タカが居なくて小鳥でも平和に遊べる場所)と同じようなものか?


「それよりもお前は黒スライムなのか? それとも雷狼のメスなのかどっちだ」

「黒スライム? ああ、俺は雷狼ではない。この雷狼の体はもらったがな」

「そうか。だけど俺も雷狼には用があるんだ、出ていってくれ」


出れんのか? 出れなかったら食材になってもらおう。幻狼種の肉なんて中々口にする機会ないしな。


「はいそうですかと出ていくとでも思っているのか?」

「出なかったら殺して焼いて食べる」

「……何だ、その脅しは?」

「脅しじゃない。俺の趣味だ」


何か馬鹿を見る目で見てるな。実に不本意だ。


「凍、あんなの食べたらお腹壊しちゃうよ! そんなに食べたいなら私のこと食べていいから、ね?」


焔にお姉さんぶった口調で注意されてしまった。いくら俺でも知り合いを殺して食べる趣味はないんだが?


「その顔は通じてないね。しょうがない、あの黒いのには雷狼から出ていってもらわなきゃね」

「そう簡単に、」

「黙っててよ」


焔が法剣を一閃し雷狼の口を閉じさせた。

容赦無いな。


「私は今、凍と話して、るんだよ? 部外者は、口を挟まないで、ほしいな?」


言葉を区切る度に法剣の切っ先が雷狼を襲う。

あれ、おかしいな。焔って炎狼なのに周りの気温が下がった気がするぞ。


「たかが寄生虫の分際で態度がデカイよ、虫は虫らしくクシャっと潰されてなよ」

「ぎゃああああああっ!」


焔が炎狼としての能力で法剣に炎を纏わせ雷狼に振るった。その軌道は今までのように単純な鞭のものではなく、1振りで何度もヒットするような複雑な動きで雷狼に迫り、全方位から蹂躙した。

え、そんなことできんの? もしかして俺も銃に氷纏わせたりできる? 氷の散弾とか超やりたいんだけど。


そんな妄想に浸っていたら雷狼の口から黒スライムがフヨフヨと出てきた。また動き出す前に焔が焼き切った。両断された黒スライムは煙みたいに霧散し、消えた。

電気を纏った雷狼のパンチは平気で焔の法剣(炎付き)は駄目なのか。もしかして炎が弱点なのか?


「凍、終わったよ」

「そうだな。お疲れさま」

「うんっ!」


さっきまでの冷たい笑顔ではなく普通の明るい笑顔。

良かった、俺氷狼だけどあの寒さは耐えられなかったんだ。


「さて、コイツには色々と聞かないとな」

「え? 何を聞くの?」

「いや、雷狼なんだから炎狼の村の情報何か持ってるかもしれないだろ?」


忘れがちだが、元々俺が村を出る羽目になったのは雷狼と炎狼の抗争が本格化するかもしれないからだ。それに雷狼から炎狼の村までの行き方が聞ければそこから氷狼の村に戻ることもできる。焔に案内してもらえばいいだけだからな。


「そうだった。お父さんのこととかすっかり忘れてたよ」


薄情だな、おい! 最近の子供はみんなこうなのかね? 全く世界はどうなってしまうのか。俺もその代だっつの!

お約束の1人漫才も終わったところで雷狼を起こすか。そしてこっち覗いてた人間は……いつの間にか逃げたな。臭いで追えるかと思ったけど強烈な香水を一帯に撒いたのか鼻が利かん。


「おい、起きろ」


とりあえず雷狼を揺さぶる。

起きない。


「凍、私が起こすよ」


んじゃ頼むとするか。焔相手ならペチペチ叩くんだが他のメスにはやっちゃいけない気がする。なんとなくだが。


「ほら、起きて」


ガスッ!


「ゴフッ!」


ん? 何かバイオレンスな光景を見たような気がする。


「もう、起きない気かな?」

「お、起きたわっ! 起きたわよっ!」

「あ、おはよ」

「え、ええ、おはよう」


何だか顔が引きつってるな。狼見知りするタイプなのかもしれないな。何だこの造語?


「なあ、あんた雷狼だよな?」

「え? ああ、そうよ。そう言うあんたは氷狼であの娘は炎狼ね」

「そうだ。で、聞きたいんだが雷狼は炎狼と敵対してるのか?」


親父さんと村長にはそう聞いたけど俺は自分の目で見たものじゃないと自身が持てないから確認する。

本当に敵対していて襲ってきたらさっきみたいに2対1に持ち込めばいい。正々堂々なんて自然界では通じません!


「ふ~ん、聞きたいの?」

「ああ、是非聞きたいね」


何かを企むようないやらしい笑みだ。美少女だけどお近付きになりたいタイプではないな。


「なら私のペットになりなさい」

「お断りだよっ!」


俺がツッコミ入れる暇が無かっただとっ!?


「私のご主人様は凍だけなんだからっ!」


何だろう、雷狼より焔にツッコミ入れるべきな気がしてきた。


「ならペットのペットはどうかしら?」


俺はペットになる気は無いぞ?


「なら良しっ!」


良いのかよっ!


「さあさあ、知りたいことがあるのなら私のペットになりなさい」


もしかしなくても、俺は凄く馬鹿なことに関わってるんじゃないのか?

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