5話 出会いは武器に
王子と会ってから1時間くらい歩くと王都が見えてきた。ちなみにもう夕方。
道中の王子の話だと王都の中央に見える低いモンサンミッシェルみたいなのが城らしい。塔2つってかなり面倒じゃないか?
まあ塔同士は近いし間に空中通路みたいなのもあるから平気なのかもしれないな。
「王都に着いたら宿を確保するぞ。ギルドの登録は明日にする」
確かに今からだと説明とかが終わったら真夜中になってしまう。それは面倒だ。
「王都キスタニアの大通りには街灯が設置されていて夜でも外出できる程度には明るいが、やはり昼よりも問題が起こりやすいからな」
今日明日の金は出してくれるらしい。あと俺たち用の家も用意してくれると言っていた。焔への下心を隠そうともしない対応だな。ん? 隠してなかったら下心とは言わないのか?
どっちでも良いな。
王都の入口に居た見張りは王子の連れということで俺たちのことはスルーした。王族万歳。
中世ヨーロッパみたいな石畳の街並みにオサレな街灯が等間隔で並んでいる。パトロールの騎士が果物屋のオバチャンと気安く挨拶しているところを見ると治安は良さそうだ。しかし騎士は鎧で一般人はジャンパーとかチェックのシャツやパーカーってどんな文明レベルなんだ?
相場よりもちょい安の宿を騎士に紹介してもらい明日迎えを寄こすと言われた。と同時に王子が騎士から金の入った袋とシンプルな指輪を2つ受け取って俺たちに渡してきた。
金は分かるが指輪は何だ?
「キスタニアの王族はいつ誰に助けられてもきちんと礼ができるように目印を常備するのだ。その指輪は私を助けた証というわけだ」
ちゃんと通じるんだろうな? お役所仕事で知らない奴が多かったりするイメージがあるんだが。
「あ、王子。何でウチの前に?」
何か宿から体格の良いオバチャンが出てきた。しかも王子に対してかなりフレンドリーだ。
「ああ、私の恩人を泊めて欲しくてな。部屋は空いているか?」
「2人部屋なら空いてるよ。晩飯まで少しあるけどどうするんだい?」
「ならば武具でも見に行くとしよう。その部屋は空けておいてくれ」
「はいよ。若い男女が同じ部屋~っと」
あ、王子の表情が曇った。オバチャンはニヤニヤしてる。勘鋭いな。そして焔はしょっちゅう俺と一緒に寝るぞ。狼の状態でだが。
やっぱ人間と狼じゃ価値観違うな。
オバチャンに挨拶してから王子に連れられ武器屋と防具屋が並んでいる通りへ。
しかし武器か……俺も焔も武器使わないから剣とかかえって邪魔なんだが。攻撃されても幻狼の体って人間の鎧より丈夫だから防具も意味ないしな。
「お前たちは剣など使わないみたいだがそれでは怪しまれる。最低限の装備はしておいた方が良いぞ」
心遣いには素直に感謝して武器を見る。剣にナイフ、斧に槍、ハルバートなんかもあるな。遠距離武器では弓やボウガンに銃……銃!? 何か急におかしな物が出てきたぞ。
それも拳銃サイズからライフルサイズまで色々だ。
実はこの世界の武器にはどれも宝石みたいなのが付いている。魔石と呼ばれる魔獣の糞だ。これが無い武器は魔獣にダメージが通りづらい。色は様々だが属性がどうこう言うわけではない。ただ魔獣の体内で固まる成分の色が違うだけだと言われている。詳しいことは知らん。
ちなみに魔石の力が切れたら交換する必要がある。武器を持っている人間は大体自分の武器に合う魔石を2個くらい常備しているらしい。そもそも魔石の力はよっぽど使い込まないと切れないから交換するのは年に1回くらいだと聞いたことがある。
「あのボウガンの隣に置いているのはなんだ?」
「銃だな。小さい物は弓やクロスボウよりも小さい動作で使えるが射程は20メートルもない。逆に大きい物は射程が長く威力も高いが狙いが難しい、完全に狙撃用だ。他にも放射状に弾が出る散弾なんかもあるが、これは近距離用だな。ついでに言うなら普通は年に1度の魔石交換が半年に1度は必要になると言われている」
燃費悪いな!
「王子、その知識はちょっと古いぜ。ここに置いてあるのは改良型で10ヶ月に1度くらいだ」
店主のオッチャンが訂正を入れてきた。半年から10ヶ月って大分伸びたな。
あ、この銃は、
「坊主、その銃に惹かれたのか」
「ああ」
俺が惹かれた銃はリボルバーみたいなデザインの拳銃タイプだがバレルが分厚くて衝撃に強そうにできている。何故か俺はリボルバーが好きだった。あの回転弾倉にどうしようもなく惹かれるのだ。どう考えてもデザートイーグルのようなマガジンタイプの方が装填の効率は良いと思うのだがこればっかりは好みの問題だ。まあ玩具の銃すら持ってなかったがな。
「オッチャン、この銃って殴ったりしても壊れないか?」
「そいつは殴ることを想定して作られた銃だ。ちょっと離れた距離も攻撃できる棍棒みたいなもんだぜ」
オッチャンがニヤリと俺を見ている。
まさか銃衝術用の銃をこの目で見れるとは思わなかった。漫画の世界の産物だと思ってたからな。
「代わりに射程は15メートルだ」
「弾は単発か? 変えられたりするか?」
「今は単発にしてるが、一応変えられるぞ」
「威力を低くする代わりに散弾みたいにできないか?」
「何ぃ?」
俺は玩具の銃すら撃ったことがないからまともに当たるとは思えない。そもそも普通の銃としての機能を望んでない。
弾はあくまで牽制、メインは格闘で良い。そもそも人目がなかったり敵味方全滅させるだけなら武器なんて無い方が良い。だからこれは俺の趣味。今まで漫画やアニメで使われてきた戦術を俺が試したいだけだ。
「……3日だけ待ってろ。それまでに坊主の望む調整をしてやる。クックックッ、楽しみにしてろよ」
良い数字だ。技術者根性を刺激したみたいだがこの際だ、俺の趣味に付き合ってもらおう。最後ちょっと不安な笑い方だったが……気にしたところで何もできないのだから好きにやらせておこう。
「凍は武器決めたんだ。私も決まったよ」
オッチャンの妻と思われるオバチャンと話してた焔が選んだ武器を持って寄ってきた。何を選んだんだ?
ん? 普通の剣だよな?
でも何か突き刺したら抜けなさそうな返しが刀身一杯に付いている。扱いづらくないか?
「こうするとね」
持ち手を少し捻りながら剣を振るうと刀身が少し離れ、鞭のような軌道を描き元の形に連結した。
蛇腹剣かよっ! この店色物多くないかっ!? 個人的には法剣(テンプルソード)でも可! どうせなら焔には修道服を着てもらいたい!
「あれを一発で使いこなすとは末恐ろしい嬢ちゃんだな。坊主といい嬢ちゃんといい何者なんだよ、王子」
「私も詳しくは訊かなかった。だが、面白いだろう?」
「へっ、そりゃそうだ。人の素性なんざ面白さの前にゃ無意味だったな」
ちょっとは気にしろ。有難いけどな。
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