4話 王族は協力者に

鎧を着た人間が何人か倒れてる。鎧の隙間から矢の羽の方が見えてるな。ご愁傷さま。


「くっ、山賊風情がっ! 隊列を乱すな! 盾部隊は周りと協力して守れ!」


1人だけ装飾が違う鎧の人間が怒鳴りながら指示を出している。騎士の隊長か何か?


「馬車にゃお姫様が居んだ。お前等、今日は楽しむぞっ!」

「「「おおおおおっ!!」」」


分かり易い動機だな。


「凍、見つけちゃったよ?」


顔近づけて可愛らしく言わないでくれっ! まさか最初に会うのが山賊と人間の国の王族だなんて思わなかったんだっ!

王族なら幻狼についての情報も簡単に集められるか? しかしアングラな情報なら山賊も負けてないかもしれないし…………悩む。

とりあえず様子見だな。どっちも俺たちのこと攻撃してきそうだし。


山賊と騎士団(?)の戦いを眺めていると山賊が優勢だと分かった。武器に毒を塗っているみたいで掠り傷しか負ってない騎士が少ししたら急に動きが鈍くなる。その隙を突かれて殺されている。

しかも騎士の弓兵は真っ先にやられたみたいで山賊に遠距離から好き放題攻撃されている。

これはお姫様終わったな。

残りの騎士は3人、山賊は9人。

馬車の中に居るとしても2人くらいだろう。前衛に釘付けにされてる間に弓で攻撃されて終わりだ。

すると馬車から誰か出てきた。ここで援軍出しても遅いだろ。

出てきた人間は騎士とは明らかに違う高級感溢れる服を着ていて、金髪碧眼でレイピアを持っていた。慣れた動作で山賊に向かってレイピアの切っ先を向ける。


「私はキスタニア王国第3王子、ギルバート・キスタニアだ。山賊共、相手をしてやろう」

「男かよっ!」

「「「男かよっ!」」」


王女じゃなかったのかよ! しかもイケメンかよっ!

…………はっ! しまった、つい大声でツッコんでしまった!

山賊も騎士も王子とやらも俺たちの方を見ている。こっち見んな。


「親方っ、女が居ます! 女!」


あ、焔に気付いた。


「おっしゃーっ! 野郎どもっ、馬車はハズレだったが女は居たぞっ! 今夜は寝かすなっ!」

「「「おおおおおおおおっ!」」」


何だか凄く馬鹿な光景を見てる気分だ。


「彼らを守れ! 一般人を巻き込んだとあっては騎士の恥だ!」

「「「おおおおおおおおっ!」」」


元気だな。とりあえず焔の手を引いて逃げる。

戦っても良いが人間じゃないとバレると面倒なことになりそうだ。

山賊だけなら1人だけ残して殺せばいい。情報提供者って大事だよな。

問題は騎士だ。王子殺したら捜索隊が編成されてどっかで足止め食らいそうだし生かしておいたら礼がしたいとか言い出しそうだし……関わらないって無理か?


「今日は大胆だね」

「そんな甘酸っぱい展開じゃないだろ!」


焔さん超呑気。多分人間が触ろうとすれば灰になる程の炎を纏う気なんだろうな。それやると目撃者消すのが面倒なんだよな……でも1番確実か。

考えることを放棄して追ってくる山賊の方を向く。短剣で切りかかってくる山賊の右腕を氷の爪で切り落とす。

俺に向けて放たれた矢は避ける前に炎を纏った飛び蹴りで焔が消し去った。

山賊の絶叫が森に響く。


「ば、化物だ!」


人間には炎も氷も扱えない。一応転生者の俺から見て魔法のような攻撃はあるのだがよっぽど強い奴が最終手段のように使っているのしか見たことがない

あれは今だになんなのか分からん。

そんな風に考えごとをしながら体を動かしているといつの間にか山賊は全滅していた。鋭利な刃物で切られている者、炎で焼かれた痕がある者など死に方は2通りだ。

そんでもって騎士と王子にその一部始終を見られた。

うわ、騎士たちは化物見る目だけど王子はwktkした顔にしか見えない。この変態め!


「そこの娘、私の嫁になれ!」

「死ねば?」


随分と短いやり取りでした。


「きっ、貴様! 王子に対して不敬であるぞっ!」


あ~あ~、隊長っぽい人が凄い怒ってるよ。マスクの下じゃ顔真っ赤だろうな。


「何言ってるの? 私はその人が統治してる土地の住人じゃないんだから敬意なんて払わないよ。あなただって自分とは無関係の統治者に敬意なんて払わないでしょ?」


騎士たちがポカーンとしてる。あんな風に正論言われたらどうしようもないか。


「くっ、はははははははっ! 益々気に入った! 見た目ばかり着飾って内面を磨かない欲の塊のような女には飽き飽きしていたのだ! おい娘、どうしたら私のモノになる?」


あいつ、焔をモノ呼ばわりしたか?

……それにしても王族の男って女に苦労しないのな。こちとら前世の13年間で彼女が居たことがないからその辺の機微が分からん。


「死んでくれたら1秒くらい悲しんであげる。2秒で忘れるけど」


何とまあ、思いやりのない優しさだな。


「ふっ、どう足掻いても死ぬしかなさそうだな。この話はここまでにしておこう。

さて、私を助けてくれたのだ。礼くらいさせてくれ」

「凍、どうする?」


お約束! そしてここで俺にフルな!

騎士たちが『え、来るの?』的な視線になってるし、隊長に至っては『王子の申し出断るなんて有り得ないよな?』と訴えている。王子はライバル見るような感じだし焔は心底どうでも良さそう……四面楚歌?


「じゃあ幻狼の情報くれ」


城に招待するなんて言われたら堪ったもんじゃないから当初の予定通り幻狼の情報を聞くことにした。


「ほう、面白い要求だな。私としては城に招待して食事でもと思っていたのだが」

「そんな堅苦しくて居心地の悪い礼は迷惑だ」

「ふっ、そうれもそうだな。あのような格式張った場所では礼にならん。だが生憎私は幻狼の情報を持っていない。すまんな」

「幻なんて言われているんだ、そう簡単に見つかるとは思ってない」


さて、どう探したものか。


「だがそう言った情報が手に入りやすい場所ならば心当たりがあるぞ」


お、有力情報?


「ギルドに入れば魔獣の情報も聞けるだろう。紹介状と寝床の確保くらいはしてやるぞ」


つまり焔のところに通いやすくしたいんですね、分かります。分からねえよ!

思わず1人ノリツッコミしてしまった。


「ギルドに入るには紹介状が必要なのか?」

「有ったほうが怪しまれないというだけだ。お前たちの髪は目立ちすぎるからな」


確かに。こんな怪しすぎる2人組の素性を訊かない辺りこの王子踏み込む距離は上手く測ってくるタイプみたいだな。人間の髪に青白いとか紅いとかないからな。


「では、王都に行くか。付いてくるかはお前たち次第だ」

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