幼馴染と添い寝フレンドになった件について。
白深やよい
幼馴染と添い寝フレンドになった件について。
「やっぱり、聖也と寝るの気持ちいいなぁ……」
そう隣で寝ているのは、俺の幼馴染、|花目咲〈はなめさく〉、生まれた頃からの付き合いで、最近同棲を始めてしまった。
今思えば、あの時の選択は間違っていなかったと、自分を称賛してあげたい。
「……今日はもう寝ちゃうの?」
そうして俺は、咲に束縛されて──
◆
今日から俺は高校生になる。
中学生とは違い、おそらく、勉強も、もっと難しくなっていくだろう。
だからこそ、俺は、もっと気を引き締めないといけない。
そんな決意を固めて、家を出た時、
「おはよ~、聖也、今日も元気ないね~」
俺とは違い、朝からテンションが高い俺の幼馴染。
俺と住む世界が違うとは言え、なんでこんなにテンションを上げられるのか不思議で仕方ない。
「……おはよう」
「元気ないね~あ、いつもか」
ここまでのやりとりはテンプレなので、あまり気にせず通学路を歩く。
正直な話、咲と登校していると、様々な人から注目をあびるためできるだけ一緒に登校はしたくないのだが、咲自身、
『聖也と一緒じゃないと学校行かないよ?』なんて言ってしまったため、安易に断ることができない。
(なんで俺なんだろうな……)
俺が言うのもなんだが、咲は誰もが認めるほど可愛い。
そんな咲なら、俺よりも良い人を見つけるのは容易いだろう。
なのに一体、なんで俺と登校してくれるのだろうか?
「ほらっ、行くよ!」
そんなことを聞く暇もなく、咲は俺の手を取りいつもの道を走り出す。
「おい、そんな焦らなくてもいいだろ」
「いいのいいの」
ふと見せるその笑顔が、胸にグサッと刺さってしまうのは一体何故だろうか──
◆
学校での一日が終わり放課後。
俺はいつも通り一人で帰れるわけなく、咲と他愛のない会話をしながら家に向かっていた。
「今日の数学のテスト難しくなかった?」
「最後の問題ガチで難しかったわ」
そんな今日の出来事を話しているだけで、時間はどんどん過ぎ去ってしまう。
気がつくともう家の前。
「あ、もう着いたのか、じゃあなー」
咲に別れの挨拶を交わす──と言いたいところだが、俺と咲の家は隣同士。
しかも俺の部屋と咲の部屋は窓にこんこんとノックをするだけで会話することができてしまうほどお互いの部屋が近い。
最近はよく、授業で分からなかったところを聞いてきたりする。本当に困ったやつだ。
お陰様で自分の時間が全くと言っていいほど無い。
「ん、じゃあ後でね~」
そんな会話を交わし、家に入ろうとしたところ、家の中からドタバタと足音がこちらに向かってくる。
「ちょっと、聖也早く来て! あ、後咲さんも!」
そう俺と咲を急かすのは、俺の実の姉。いつもは「勝手にやっとけば?」という自分のことにしか興味がない人間なので、こんなに慌てているのは珍しい。
一体、何があったのだろうか。
「聖也、とりあえず行こ」
俺と咲は、少しひやひやしながら家に入る。
もしかしたら、俺は咲に何か危ないことをしてしまったのだろうか。
少しずつ背筋が凍り始める。
「えっと、失礼します……? って、なんでここにお母さんがいるの?」
リビングに入ると、俺の父母、咲のお母さんが何故か、少し冷たい空気を纏ったまま座っていた。
(この空気は不味いやつなのでは……?)
自分でもあまり味わったことがない雰囲気に冷や汗をかいてしまう。
それは、咲も同じだった。
「ちょっと、ここに座ってもらえる?」
言われたとおりに俺と咲は座り始める。
チラッと咲の様子を確認しただけだが、咲の顔は青ざめていた。
きっと、俺と同じ気持ちなのだろう。
「大事な話……って言えばいいのかな? 二人にお願いしてもいいかな?」
「……なんでしょうか」
咲のお母さんは、一つ深呼吸をし──
「一週間、二人で生活してほしいんだ」
「「え?」
まさかのお願いに俺と咲は間抜けな声を出してしまう。
当たり前だろう。てっきり、何か怒られるという「然り」ではなく、「頼み」だったのだから。
一応、咲も幼馴染とはいえ、女の子なのだ。
俺が咲を襲うなんていうことはあり得ないが、危ないだろう。
普通に考えて、納得することができない。
「二人で生活してほしいってことは、つまり、同棲ってこと?」
「そうだ。少しの間、同棲していてほしい、金銭面は心配しなくてもいいからな」
「ちょ、ちょっとまってくださいよ」
そう言うと、咲の父と俺の母は、すぐに家を出てしまった。
取り残されたのは俺と咲だけ。
「えっと、どうする?」
「そりゃ……同棲なんてできるわけないだろ」
「そうだよね……」
「とりあえず、解散する?」
「そうだね、この後のことは明日考えよう」
そう言う咲は、椅子から立ち上がり、玄関へ向かっていく。
俺と咲は一体この後どうなってしまうのだろうか。
これから、じっくりと考える必要がある……。
───そう思っていた時だった。
「なんで、なんで、なんでぇ……」
壁越しに伝わってくる咲の悲鳴。
俺は、考えるよりも先に体が動いていた。
「──咲、どうした、大丈夫か?」
「ハメられた……ハメられた……」
咲の呼吸は少しずつ早くなっていくのが見てわかる。
「どうしたんだよ」
「……家の鍵、持っていかれた」
その言葉を聴いた瞬間、自分に雷が打たれたかのような衝撃が頭の中を走る。
『家の鍵を無くした』ではなく、『持っていかれた』ということは親に仕組まれていたということだろう。
一体なぜ……?
考えれば考えるほど謎は深まっていくばかり。
とりあえず、今できる最善のことを尽くさないと。
「とりあえず、親に電話してみるわ」
そう言いながらスマホを出し、母親に電話をかける。
──ツーツーツー
電話に出る気配が一切無い。
普段は電話に出ないことなんて一切無いのに、こういう時に限って電話にでないのは明らかにおかしい。
これが意図していることは──母親達に仕組まれたということ。
思えば思うほど理解ができない。
「「……」」
二人の間に沈黙が流れる。
流石に咲を追い出すわけにもいかない。きっとそれは咲もわかっていることだろう。
この空気をどうにかするために、どうにか咲と会話しようと試みる。
「きょ、今日は良い天気ですね……」
「そ、そうですね……」
会話終了。
流石に酷すぎるのではないのだろうか。
いつもだったら簡単に咲と話すことができるのに、こういう大事なときに会話ができない。
どうにか、どうにか会話をしないと……
「えっと、服とか持ってる?」
「……玄関に置いてあった」
なんでだよ。
本当に準備が良すぎる。
一体、俺の母親は何をしたいんだ……?
そんな考えを拒むかのように、一つの可愛らしい音が鳴り響く。
「ぐぅぅぅ…」
可愛らしい空腹を知らせる音が部屋を充満する。
この音は俺が出した音じゃない。
つまり……。
「うぅ……」
この耳を真っ赤にした可愛い生き物だろう。
時刻は夕ご飯にはちょうどいい時間。
後のことは後で考えよう。
「とりあえず、夕ご飯にしようか。もちろん食べるよな?」
「……貰っとく」
腹が減っては戦ができぬ。なんて言うし、まずは夕食だ。
腹いっぱい食べて、ゆっくり考えよう──。
◆
「「ごちそうさまでした」」
二人で夕食を食べた後、俺と咲はゆっくりとテレビを見ていた。
一度落ち着いて考えてみたが、よくよく考えてみれば、咲が俺の家に遊びに来ることは多々ある。
その延長線と考えれば重く考える必要はないことが、冷静に考えてみるとわかった。
何も、そんなにあせる必要なんてなかったのだ。
「夕食作ってくれてありがと、美味しかったよ」
「そう言ってもらえたなら嬉しいよ」
今まで咲に手料理を食べてもらうことは無かったな。と思いながら、チャンネルを回す。
適当に押したチャンネルで放送されていた番組は、恋愛ドラマだった。
『好きだよ……』
『えぇ……私もです……』
この男女二人きりの空間で恋愛ドラマは不味いと本能的に感じ取った俺は、すぐさまチャンネルを変える。
さっきみたいに沈黙しないように、咲との会話の話題を切り替える。
「えっと……風呂入ってくる?」
「……そうする」
そう言い残し咲はそそくさと脱衣所に向かっていった。
俺はもう少し緊張感を持ってもいいのかもしれない……。
◆
そそくさと逃げるように脱衣場に逃げてきた私。
流石にあの空間にいるのは荷が重すぎる。
まさか、 好きな人 と一週間寝泊まりするなんて、全く想像していなかった。
(うぅ……今でも胸がドキドキしてるよ……)
この感情、聖也にはバレてないよね?
この恋心を知ってるのにも関わらず、あんなかっこいい態度をとっていたとしたら、本当に恐ろしい。
(まぁ、聖也はそんなことはできないか)
心を一回落ち着かせるために、風呂に入る。
初めて聖也の家の風呂場を使うけど、自分の家の風呂場より広くて使いやすい。
おそらく、聖也が入れてくれたのだろう入浴剤も入っていて疲れが取れていくのがハッキリと分かる。
(本当に、こういう気遣いは凄いんだよなぁ……あいつ)
聖也の家での入浴は、これから一週間同棲することを忘れさせるほど心地よかった。
───そして、数十分後。
長い入浴の時間を終え、ようやく風呂から上がろうとした時、私は思わぬ失態に気づいた。
(パンツが、ない……)
親が用意してくれたバッグには下着が入っていなかった。
(そういえば、もう一つバッグがあったような……)
もしかして、もう一つのバッグに入っているってこと?
(どうしよう、どうしよう……)
本当に不味い。
少しでも選択を間違えれば、聖也に嫌われてしまう可能性がある。
本当にそれは阻止しないといけない。
(でも、どうしたらいいんだろう?)
流石にこの格好で脱衣場を出ていくわけにも行かない。
やっぱり、ここは聖也に頼るしか、ない?
少し深呼吸をし、大きく口を開ける。
「聖也ぁ……ちょっと、下着持ってきてくれない?」
そう叫んでから数秒後。
キッチンの辺りからガラガラという音が聞こえてくる。
きっと、慌てて来ているんだろう。
私のためにこんなに急いで来てくれるのは本当に嬉しいが、正直危なっかしい。
「これ、俺、入って良いのか……?」
どう考えてもだめでしょ。
流石に好きな人とは言え、心の準備ってあると思う。
まぁ、聖也にそんなことを言っても仕方ないのかもしれないけど。
「んー、ちょっとタオル巻くから待って」
別にタオルを巻けば裸ではないはず。
早くタオルを巻いて、聖也から下着を貰おう。
「あ、入ってきていいよ」
タオルを巻いた私が、そういうと、目の前にある扉から顔を真っ赤にした聖也が入ってきた。
「えっと、これ」
聖也が渡したものは、もちろん下着。
そんな下着を受け取った時、あることに気づいた。
(これ、割りと危ないやつなのでは?)
聖也が持ってきた……というか、バッグに入っていた下着は、どこからどう見ても私がいつも使っているのではない。
私が何かあった時用……という建前のもと、結構激しめのやつを買ったことがあったが、まさかそれが入っているとは思わなかった。
てっきり、まだ親にバレていないと思っていたけど、まさかバレていたなんて。
こんな激しめの下着を見られたなんて、恥ずかしすぎて死ぬ。
私は一体、聖也とどんな顔をしたらいいのだろうか。
(でもそれ以前に……)
この激しめの下着を見て、聖也は一体どんなことを考えたのだろうか。
まさか、こんな激しめの下着を持っていたなんて……とか?
もしかして、咲って、性欲が強いのかな? とか?
それともそれとも……抱きたくなったとか?
考えれば考えるほど恥ずかしくなる。
と、とりあえず受け取らないと……。
「あ、ありがと……」
「だ、大丈夫だから、心配しないで」
───なんで私は、あの時あんなに焦っていたのだろう。
別に、自分のタオル姿なんて、見られてもよかったのに。
本当になんで、なんで、
───タオルを持っている方の手で受け取ってしまったのだろう……。
(あ、不味い)
私がとっさに出した手は右手。
そして、その右手は、タオルを持ってる手。
つまりそれが意味していることは……。
「あああああああああああああああああああ
見られた、見られた……私の裸見られたぁぁぁぁ」
つまり、私の
まだ、心の準備なんか一切してないのに。
もっと、関係を深めてから見せようと思っていたのに。
本当に、何やってるんだよ。私。
でもそれ以上に───いつもの数十倍恥ずかしい。
もちろん、異性に裸を見せる───というのがこんなにも恥ずかしかったなんて。
これから、一体、私はどんな顔で聖也を見たら良いの?
そして───
(私の裸見て、聖也は一体どう思ったのかな?)
聖也にデブなんて思われていたら、きっと私は立ち直れない。
でもどう思ってるかなんて、聖也にしか分からない。
(はぁ、もう死にたい……)
そんなことを考えながら、私は着替えを始めた───。
◆
(やってしまった、やってしまった、やってしまったぁぁぁぁ)
そう心の中で叫び続ける俺。
故意だとはいえ、女の子の裸を見てしまったのだ。
とてつもない罪悪感が、自分の胸にすっと入ってくる。
今回のことが原因で、絶交とか無いよね?
これでも一応、咲とは結構長い付き合いなんだ。そんな簡単に縁を切るわけにもいかない。
きっと、絶交しないにしたって、俺と咲の距離感は、少し───いや、結構変わってしまうだろう。
(と、とりあえず、謝らないと……)
とにかく、しっかりと誠意をもって咲に謝らないといけない。
もちろん、女子にとって、異性に裸を見られるという行為は、絶対にしてはいけないものだと分かっている。
咲に許してもらおう。というわけでは決してないが、自分が謝らないと気が済まない。
かといって、曖昧な謝罪をしたところで、何も変わらないのは目に見えている。
(何て言えば許してもらえるのだろうか……)
咲と俺との間で、ハプニングが起きてしまうことなんか、今までで一度もなく、咲になんて言えばいいか分からない。
(やっぱり、普通にごめん。って謝るのが一番いいのか……?)
自分でもしたことがない謝罪をして、変に舌を噛んだりしたら、きっと誠意は伝わらない。
そんなことを考えているうちに、着替え終わった咲がやってきた。
「……風呂、上がったから、入っていいよ」
「あぁ……」
そんな会話を交わす二人の間には、気まずい沈黙が広がっていく。
やってはいけないことをしたのは、どう考えても俺の方。
だったらまず、俺が話しかけるべきなのではないか?
「その、咲……?」
「は、ひゃいっ……何でしょうか?」
「その、見てしまってすまん。悪気はなかったんだ……」
できるだけ誠意が伝わるように。
頼むから、咲との関係が壊れるのだけはやめてくれ……。
神にすがるような気持ちで、咲に謝罪をする。
そんな謝罪を受けた咲は、はぁ……と一息ついてから、俺に一歩近づいてくる。
「そんなの気にしてないって、ほらほら、風呂入ってきなよ」
咲は強がるようにそう言ってるが、咲の耳はどこからどう見ても真っ赤。
こんなに強がってくれているが、きっと内心恥ずかしさで悶ているんだろう。
咲にこんな思いをさせてしまって、本当に申し訳ない。
でも、ここでまた謝ってもきっと同じだ。
ひとまず、俺も風呂に入ろう。
「じゃあ、俺、風呂入ってくるね」
「ごゆっくり」
そんなやり取りを交わして脱衣所へ向かった……。
◆
肩を湯船にゆっくりと入れる。
何も考えずに、ゆっくり、ゆっくりと。
(余計なことを考えるな……考えるな……)
この湯船は、決して咲が咲に入った湯船ではない。
至って普通の湯船だ。
入浴剤の心地いい匂いが、風呂場を充満する。
そんな匂いを吸って、吐いて。心を落ち着かせる。
(これから、咲と暮らすことになるのか……)
こんなことが毎日続いてしまったら、自分の理性がどうなってしまうのかが全く分からない。
今はなんとか理性を押し殺すことでなんとかなっているが、決して長く続くものではないだろう。
(なんとかして対処法を考えないと……)
同じ過ちを繰り返さないために、とにかくひたすら考える。
(何かいい方法はない、のか?)
脳をひたすら働かせる。
自分が今使える脳をフル活動させる。
────その行動が、まさか自分を苦しめるなんて、思いもしなかった──。
風呂場のドアに浮かび上がる人の影。
脳を別のところにフル活動していたため、その人影に全く気づくことができなかった。
この家にいる人間はただ一人。
そう、咲しかいないのだ────。
「……聖也、入るよ」
「え、ちょまっ」
どうやら俺には、はいもいいえも言う権利が無いらしい。
俺の言葉なんか聞く耳を持たない咲が、風呂場のドアノブにそっと手を握る。
「せ、背中、洗わせてほしいんだけ、ど……」
タオルを巻いた咲が、こちらにやってくる。
さっきとは売って変わり、耳だけでなく、顔も赤くなっている。
咲に体を洗ってもらえるなんて、願ったり叶ったりだが、咲が羞恥心を我慢してまで、そんなことをする必要は無い。
一刻も早く辞めさせないと。
「ちょっと落ちつけって。咲の気持ちは嬉しいけども、そんな無理してやらなくても良いんだぞ?」
「……無理してないもん」
「顔、赤いぞ?」
「~~っ うるさいっ」
時間が経つごとに、咲の顔はどんどん赤みを増しているが、一向に風呂場から出ていく気配がない。
咲が動かないならば、自分から動き出すだけだ。
「あー、体温まったからそろそろ出ようかな」
咲に無理させたく無いってのもあるが、このままだと俺の理性が危ない。
「だ、ダメっ」
風呂場から出ようとした時、「風呂場から出させないよっ」と言いたげな咲が俺のことを抱きしめてくる
。
「ちょっ、咲ッ、色々と危ないからッ」
何がとは言わないが当たっている。そう、当たっているのだ。
「いいから、そこに座りなさいッ」
咲によって、風呂場に強引に戻された俺。体をガシッと掴まれてしまった俺は、もう成す術が無かった。
「なんで、俺の背中なんか洗おうと思ったんだ?」
「いつもありがとう、的な?」
お世話になっているのは、どう考えても俺。どう考えても、咲が謝る必要は無いだろう。
幼馴染という関係があったおかげか、今でも咲とは繋がりはあるが、この関係が無ければ、きっと、咲は自分に愛想を尽かしてしまっただろう。
幼馴染という関係にしてくれた神様には感謝しかない。
───それは置いておいて。
一体この状況、一体どうするべきだろうか。
正直、ここまで大丈夫と言っているのにも関わらず、咲が拒否するということは、無理矢理やっているわけではないのだろう。
だったら、別に咲に体を洗ってもらうぐらい良いのでは?
咲を大事にしたいからこそ、理性を封じ込めて我慢してきたが、本人が無理していないのなら、別に気にする必要なんか無いのではないのだろうか。
「本当に良いのか?」
「別にいいよ」
こうして、幼馴染と一緒に風呂に入るという普通じゃありえないようなラブコメ展開が始まった────。
「えっと、痒いところとか無い?」
「あぁ、今のところ大丈夫だぞ」
今、俺は女子に背中を洗ってもらっている。
しかも、超絶美人の幼馴染に、だ。
今までずっと理性を抑えることが出来ていたが、今回ばかりはどうなるか分からない。
「聖也って、大きい……」
(やめろぉぉぉ)
絶対に俺じゃなかったら理性が壊れていただろう。
本当に危なかった。
「聖也って、硬いなぁ……」
「……」
きっと、咲はこれが危ない発言だなんて微塵も思っていないのだろう。
これが天然って言うのかは分からないが、本人が気づいていない分、本当に厄介だ。
また、咲からの天然発言を貰ってしまったら、そろそろ俺の理性が持たない。
ひとまず、話題を変えなければ。
「今日は大変だったなぁ……」
「そうだねぇ……」
改めて見返して見ると、今日は色々と濃い一日だった。
幼馴染と同棲を始めた日。
言葉では簡単に表せるが、自分の感情は上手く纏まらない。
一体、俺と咲はどうなってしまうのだろうか。
俺の理性が持てば良いんだが……。
◆
ようやく風呂場から出ることができてから一時間後。
俺と咲は思い思いの時間を過ごし始めた。
自分はどうにも落ち着かないため、読書でもしようかな、と思っていた頃、リビングで座ってくつろいでいた咲がこちらに寄ってきた。
「聖也っていつも何時に寝るの?」
「んー、一時ぐらいかな?」
「えっ、おそっ」
「まぁ、やることがあるからな」
やることと言っても、最近はプログラムを組んでいる。
自分の得意なことを仕事にしたいと考えたときに、真っ先に思いつくのがPCを使って何かをすることだった。
自分はタイピングをすることが好きなので、タイピングを活かせる仕事を調べてみたところ、プログラムを組むのがおすすめ。と出てきたのだ。
初めはやはり難しかったが、慣れるとこれが本当に楽しい。
そんな趣味をp見つけることが出来たからこそ、もっとできることを増やしたい。という気持ちが徐々に増えてきたことにより、最近は夜にプログラムを組んで少しでも覚えているのだ。
「えー、夜更かしは体に悪いよー」
「まぁ、体調管理には気をつけているよ」
「ふーん」
どうやら納得できていない咲だが、これは未来に関わることなので、仕方ないだろう。
そんなことを考えていると、何やら考え事をしていた咲があっと何かを思いつくように話しかけてきた。
「じゃあ私がこの家にいる間は早く寝かせてあげるよ」
「……え?」
「私、いつも寝るのが十二時だから、一緒に寝よ」
俺の幼馴染は何を言い始めるのだろう。
一緒に寝よう。この言葉を異性に言っても良いのだろうか。
(もしかして、俺は異性として見られていないのかも……?)
そう考えると合点がつくが、あまり考えたくない。
俺の勘違いかもしれないので、一応聞いておく。
「寝るって、どこで寝るんだ?」
「え、聖也の布団だけど」
正直、ここまでくると天然の枠を大きく外れてしまっている。
ここは、断るべきなのではないのだろうか?
幼馴染だとはいえ、何も無い保証はない。
しかし───
「ほらっ、寝る準備をするッ」
背中をバンッと押され、強制的に考えることを中断させてしまう。
どうやら、俺に拒否権は無いらしい。
(まぁ、どうにかなるだろ……)
この状況になってしまった咲を止められない。
自分のメンタルのためにも、ここは大人しく従うほうがいいだろう。
何も考えず、寝るだけ。
とりあえず寝る準備をしようと、ひとまず俺は洗面所に向かった──。
◆
時刻は既に十時五十分。
あらかじめ、「ちょっとやることあるから先聖也の部屋行ってて」と言われ、咲を待つ羽目になった。
(俺は、咲のことをどう思っているんだろうな……)
もちろん、恋愛的な意味で咲のことを、自分はどう思っているんだろうと考えてみた。
(咲は、美人で、何でもできて、俺の憧れの人で、俺を助けてくれた人──)
できることなら、咲を恋人にしたい、と考えたことは何度もある。
でも────もし断られてしまったら、縁が切れてしまったら───。
そう考えるだけで、手の震えが止まらない。
(はぁ……)
思わずため息が溢れる。
自分にもっと勇気があれば。
自分が一歩踏み出せたら。
本当に、本当に、自分が憎い。
────そんなことを考えていた時、俺の部屋の扉がコンコンとノックされた。
「どうぞー」
「こ、こんばんわ……」
ちょっと眠そうな顔をした咲がこちらに俺の部屋にやってきた。
過去にも、咲を俺の部屋に入れるということは何度もあったが、流石に状況が違う。
意識をするな。と言われる方が難しいだろう。
「それじゃあ、寝ようか」
動揺を隠すように、布団に潜り込む。
いつも自分が使っている布団なのに、何か違和感がある。
正直、寝れる気がしない。
「お邪魔します……」
流石に、俺一人用の布団、ということもあってか、どうしても咲の体に当たってしまう。
「狭くないか?」
「うん、大丈夫」
無事に二人とも布団に入ると、自分の胸の奥から、色々な思いがこみ上げてくる。
(俺と咲は心が繋がってるんだな……)
咲と居ると心地良い。
いつの間にか、布団の違和感が消えてしまうほどには、咲との関係が心地良いだろう。
そう考えていたのは俺だけではなかった。
「なんか聖也といると落ち着く」
「そうか……」
似た者同士、考えていることは変わらない。
「ははっ、俺たち、似た者同士だな」
「だね」
もっと、この時間が続けばいいのに、
明日も、明後日も。
でも、俺たちは一応男女だ。
きっと、そんなことは叶わない。
でも───
「たまには、お泊り、ってのも良いのかもな」
思わず漏れてしまった本音。
だけど、自然と後悔はない。
それはきっと──
「奇遇だね。私もだよ」
咲も同じ考えだからだろう。
──咲が少しこちらに寄ってくる。
「ねぇねぇ、提案なんだけどさ、私達、添い寝フレンドにならない?」
「なんだそれ」
「一緒に寝る友達のこと」
「そのまんまだな」
ふふっ、と咲は笑みを見せる。
そして、一呼吸置いて──。
「どうする? 私達、添い寝フレンドになる?」
もちろん、俺の選択に決まってる。
「いいな、それ」
「交渉成立だね」
寝る前まではあんなに「今日は寝れない」なんて考えていたのに、いつの間にか睡魔が襲ってくる。
それは、咲も同じのようだ。
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみね、聖也」
お互いがお互いを安心させるために、手を握り合う。
咲の手は俺のとは違い、温かい。
もう、俺達は幼馴染という枠を終えてしまった。
でも、今日からはもっと深い関係、「添い寝フレンド」というのが始まるんだ。
(きっと、この先何があっても大丈夫)
俺は、そんな事に安堵しながら、いつもより深い、深い眠りについた───。
幼馴染と添い寝フレンドになった件について。 白深やよい @yayoi_san
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