第14話 嫌がらせ
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「お客さん!」
あたしは、悲鳴を上げた。
「何をされるんですかっ!」
言ってはみたが、理由はわかっている。
どこかの大手商店が送り込んできた嫌がらせだ。
うちの店の真似をして、複数の大手商店がダンジョン深くへの無料配達サービスを始めたはいいが配達人の遭難が相次いだ事件は、当時、探索者ギルド内で大問題になった。
配達人の遭難だけならば、店の経営や雇用上の問題になるだけだが、二次被害として、地下深くでアテにしていた配達商品を受け取れなかったパーティーの遭難も相次いだ。
普段であれば、決して編成されることのない救援隊が、ギルドにより地下へ送り込まれたばかりか、救援に要した費用全額の支払いを、配達員の安全に配慮せずに安易な営業を行い、遭難を起こした大手商店側に非があるとして、ギルドは大手商店に請求した。
断れば、『
大手ではない中小の商店は、最初から地下への無料配達などという、身の丈に合わない営業は行わなかった。大手商店であればこそ、賠償金を支払ったとしても、倒産しないだけの体力があるとギルドは踏んだのだ。
ギルドに救援費用を支払わざるを得なかった大手商店側は、危険な営業活動であったとして、地下への配達行為の自粛を発表するとともに、ボタニカル商店に対しても、配達を自粛するよう要請した。
唯一、配達人の遭難事故を起こさなかったボタニカル商店のみは、ギルドから賠償の請求は受けていない。
ボタニカル商店が自粛を断ると、大手商店は、探索者ギルドに対して、ボタニカル商店にも配達を自粛させるよう働きかけた。自粛を強制している時点で、既に自粛でも何でもなくなっている事実は、気にしないようだ。
だが、ギルドは、大手商店からの要請を、あっさりと拒否。
当時も今も、最深探索記録パーティーとして名高い『
深く潜れる探索者たちほど、地下への配達に有効性を感じて、必要としていた。事実、ボタニカル商店の配達を利用したパーティーに限れば、帰還率は向上している。
最終的に、地下への荷物配達の強制的な自粛は行われず、配達員の安全確保の徹底を行えば、大手商店であっても、配達を行って良いとされた。
良いも悪いも、もともと自粛なのだから、当たり前だ。
とはいえ、大手商店は配達の自粛を解くことはなく、以後は、地下一階での細々としたアイテムの出張販売のみに留まっている。
その結果、名うての高深度探索者の多くが、現在では、ボタニカル商店を利用してくれていた。知名度が上がるにつれて、他の探索者たちによる利用も増えている。
以来、顧客を奪われる形となった大手商店からの嫌がらせが、陰に陽に続いていた。
今回暴れている二人も、そんなところだろう。
何も知らない新米探索者に報酬を払うか騙すかして、うちの店の営業を妨害するよう指示したのだ。
まったく、こんな坊やたちを利用するなんて。
そもそも、ボタニカル商店の商品は、ほぼ自家製だ。
配達人も一人だし、一日で取り扱える商品の数にも限界がある。
顧客を奪われたなどといっても、大手商店の売り上げ減少は、たかが知れているだろう。
それでも嫌がらせを続けるのは、大手商店としてのプライドか?
新参者のボタニカル商店の後塵を拝するのが気に入らないのだ。
おそらく、この二人の坊やたちは、この店がどんな店かも、あたしが誰かも知らされてはいないのだろう。
ただ、いくらかの金銭を渡されて、商売の邪魔をするよう言われたぐらいか。
はたして、具体的な、嫌がらせの方法まで、指示が出ているのだろうか。
陰で、うちの悪評を流すぐらいならまだしも、直接、店の商品を壊すなんて、後のことは何も考えていないに違いない。少なくとも、この街で、探索者を続けることは不可能だ。
うちの顧客の誰かが事件を知ったら、地下から戻っては来られまい。
ああ、だから、探索者ではないのか。
あくまで、探索者風。
中身は、やっぱり、どこかの街のやんちゃ者たちだ。
嫌がらせの代償に大手商店から小遣いをもらって、元居たどこかへ戻るのだろう。
だとしても、お痛が過ぎる。
あたしは、右手で車椅子の肘掛けを軽くトンと叩いた。
ギ、と車椅子が動き出す。
車椅子の後輪の後ろには、木製の後足がついていた。実は、自家製のゴーレムだ。
右肘掛けを一度叩くと『すすめ』の合図、二度叩くと『とまれ』の合図だ。
左肘掛けを叩いた場合は、動きが前進ではなく、後退になる。
左右への旋回は、車椅子の向きを向けたい側の側面を叩く。
一度叩くと『旋回開始』、二度と叩くと『旋回終了』だ。
もちろん、ゴーレムは、それぞれ口で言っても動作をするのだが、タップでも動くように教育してあった。
手や目はない。あたしの指示で車椅子を押すためだけに特化したゴーレムだ。
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