第56話 決着
ルークの剣と角獣の爪が交差する。今までは薄皮一枚切るだけで精一杯であったが今回は角獣の腕ごと切り落とす。切断された部位からはドブ色の液体が滴り落ちる。
「そんな! バカな!」
フレイヤの顔が驚愕で染まる。ルークは再び角獣へと向き直り剣を振るう。腕でそれをガードしようとする角獣であるがその腕ごとルークは切断する。
両腕を斬り飛ばされてよろける角獣にルークは追撃とばかりに首を跳ね飛ばした。首が切断された角獣は全身が液体へと変わって行きその姿はスライス状になってしまう。
スライス状になってもまだ生きているのかウゴウゴと蠢きながら斬り飛ばされた首と両腕を飲み込んでいく。
「角獣の防御力を突破するとは思いませんでした。けど、何度斬ろうと角獣は復活しますぅ」
フレイヤの言った通り首と両腕を飲み込んだ角獣は再び元の姿へと戻っていく。そう時間が経たないうちに完全に元の姿へと戻ってしまう。
元に戻ってしまった角獣に対してルークは再び剣を振るう。角の両手足が切断されてスライス状になり斬り飛ばされて部位を飲み込む。今度は完全に元の姿に戻る前にルークは角獣を何度も切り付ける。
「無駄ですよぉ? 何度切ろうとも角獣は復活しますぅ」
何度斬ろうとも元に戻って行く角獣に対してルークは少し悲しい気持ちになった。フレイヤに利用されて化け物の餌となった魔族達、その魂が未だにこの化け物の中に囚われているのではないかそんな気がしてならなかった。
ルークは祈る様に剣を角獣に向けて振り下ろした。
「もう眠ってくれ……」
「……不思議な人間だな」
今まで一言も話していなかった角獣から声が聞こえた。この声はきっと獣鬼族のトップであるジュシュの声だとルークは思った。ジュシュとの面識はないがきっとそうだと思った。
「人間にそんな顔を向けられた事は今まで一度もなかった。お前の様な者がきっと世界を変えるのだろうな」
それだけ言うと角獣は溶けていった。再び元の姿に戻る事もなくそこにはドブ色の水溜まりが一つ残されただけであった。
「は?」
ルークと角獣との戦いに決着がついた時、素っ頓狂な声が聞こえた。今目の前で起こった事が受け入れられないという顔をしたフレイヤが発した言葉であった。
「あ……ありえない。ありえないでしょ? いきなり強くなってしかも角獣を殺した? 何それ? 意味がわからないわ……」
フレイヤは頭を抱えながらよろめく。そんなフレイヤを見つめながらルークは剣を構える。
「見たところ戦闘できるタイプでもないだろ? もう角獣もいない、降参しろ!」
「はは……は、はははははハハハハァ」
降参することを促すルークであったがそれが耳に入ってないのか突如フレイヤは笑い声を上げる。狂った様に笑うフレイヤにルークは怪訝な表情を浮かべる。
「角獣を一匹倒したくらいでいい気になるな! こっちにはまだ兵は残ってますぅぅ!」
フレイヤはパチンと指を鳴らすと彼女の周囲の地面が盛り上がり、地面から複数の動物をぐちゃぐちゃに丸めた姿をしたアビサルが三体姿を現した。
「ぎしゃゃや!」
不快な叫び声を発したアビサルはルークへと向かい突進してくる。ルークは落ち着きながら剣を振るい三体のアビサルを粉々にする。粉々になったアビサルは液状になり地面に染み込んでいく。
「……っく、まだですぅ。みんなやっちゃいなさぁい!」
再び穴からアビサルが複数体這い出てくるが今やルークの相手にはならなかった。這い出るアビサルを片っ端から切り刻みやがてアビサルは地面から出てこなくなる。
「こんなところで諦めるわけにはいかないのですぅ!」
フレイヤはルークに背を向けて走り出す。ルークはそれを追おうとしたが地面からアビサルの腕が生えて行く手を阻む。
このままではフレイヤを取り逃してしまう。そう思った瞬間フレイヤに向けて赤い槍が飛んでいき、フレイヤの足へと刺さる。足に槍が刺さったフレイヤはその場で転倒する。
ルークは地面に潜むアビサルを倒すと槍が飛んできた方向を見る。そこにはエリザベスが立っていたのである。
「エリザベス! 何でいるだ?」
「これは魔族の問題です。ルークだけに任せるわけには行かないですから」
エリザベスは怪我をしている右腕を押さえながらフレイヤへと近づいて行く。フレイヤはまだ逃げようとしているのか這いつくばりながら森の奥へと進んでいた。
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