第53話 角獣との戦い

「それではぁ、実験をはじめましょうかぁ〜」


 フレイヤはのんびりとした口調で話ながら角獣に合図をする。角獣は檻から放たれた獣の様にルーク達へ襲いかかってくる。

 襲い掛かる角獣の攻撃を避けるため各自分散してその場から離れる。全員がバラバラに飛び避けたためか角獣は一瞬その場に止まっていたが直ぐに狙いをペトラへと定めて襲い掛かる。


 角獣の爪がペトラへと襲い掛かるがそれをギリギリでペトラは避ける。しかし、避ける事に集中しすぎて背中に大木が当たる。避ける場所がなくなったペトラへと角獣は追撃をかけた。


「ペトラ!」


 ルークは叫び角獣の元へ駆けるが間に合わない。角獣の爪がペトラに当たると思われたがハラルトが間に合いペトラを突き飛ばして何とか回避できた。


「ルーク以外は早く逃げなさい。ルークは私とあの化け物をやるわよ」


 エリザベスは血の槍を出して角獣へと向けながらルーク以外に逃走を促した。ペトラとハラルトは素直にそれに従い人類領側へと駆け出した。

 しかし、ミカルはその言葉に従わずに剣を構えるのであった。


「悪いが俺はお前も信用していない。ここでルークを一人にするわけにはいかない」


 ミカルの言葉を聞いて少し納得できていない顔をするエリザベスであったがため息をついてから角獣に向かい槍を投げる。


「足手まといにはならないでね」


「ふんっ」


 少し雰囲気が悪い中角獣との戦いは激しさを増していった。

 角獣の攻撃は苛烈でルーク達が避ける度に大木へ当たり大木を倒していった。次第に周りの木々は少なくなっていった。ルーク達も角獣へ攻撃を仕掛けていたが皮膚が硬く攻撃は殆どが通らなかった。僅かに傷を付けれたと思っても直ぐに傷は塞がり何もなくなってしまう。


「勝てるイメージがつかない」


 ルークは苦虫を潰した様な顔をしながら角獣と距離を取った。エリザベスは槍を投げながら角獣へ牽制をするが槍は角獣に当たってもささる事なく地面へ落ちる。


「ハーフの村で見た時は炎に弱かったけど今はどうかしらね?」


「もちろん〜、対策しましたよぉ〜」


 エリザベスの呟きにフレイヤは反応した。フレイヤは後方で紙にメモを取りながら戦いを見物していた。


「お前は随分余裕だな!」


 ミカルは落ちていた石を拾いフレイヤへと投げるがそれは角獣が庇い防がれる。


「この子はぁ、私を守る様に調教しているのですぅ〜」


 この場に相応しくない口調でフレイヤはのんびりと話す。自分が負けるとは微塵も思っていないであろう態度にルークはイラつきを感じた。


「だったらこの数ならどうだ!」


 ルークは声と同時に剣の遺物の黒い欠片を放った。しかし、角獣は姿を液状へと変えて黒い欠片を全て防ぐ。防ぎ終わると角獣は元の姿へと戻っていく。

 いくつもの黒い欠片を食らったにも関わらず相変わらず角獣にダメージを与えた様子がなかった。


「二人ともどうする?」


 ルークはエリザベスとミカルへ質問をするがその答えは返ってこなかった。二人とも角獣へと対処方法は思いつかなかったのであろう。


「フレイヤ、貴方の目的は何?」


 エリザベスは角獣を倒すのを諦めたのだろうか、血の槍を納めてフレイヤへと語りかけた。フレイヤは自分を守らせる様に角獣を立たせる。


「目的は、魔族の繁栄ですよぉ」


「だったら何故、ジュシュを犠牲にしたの? 人類と話し合いになろうとしているのに未だに反対するの?」


「だってぇ、人類と和解なんてありえないですものぉ」


 フレイヤは和解があり得ないのが当然と言わんばかりに話を続けた。ルークとミカルも武器を構えはしていたがそれに耳を傾けていた。


「人類は領地の返還を譲らないでしょうねぇ。けど、領地を返還した場合は魔族は生きていけませんよねぇ。

 だから、交渉は難航しているのでしょう? 今でもぉ一部地域では食糧難な現状、土地が豊かな元人類領は手放せれないですよねぇ?

 交渉なんて無意味なんですよぉ〜。なのにみんな話し合いだとかふざけた事言っているので私が代わりに戦争を始めるだけですぅ」


「話し合いを続ければいつか二つの種族がともに納得する所に落ち着くはずよ! そんな同胞すら犠牲にする実験なんかしなくても」


「無理ですよぉ、時間を掛ければ掛けるほど人類は有利になりますぅ。それにぃ、強力な遺物が発見でもされたら私たちは滅びますよぉ?

 それなら、私たちが先に人類を滅ぼすだけですぅ」


 エリザベスとフレイヤ共に自分の意見を曲げるつもりは一切ない雰囲気であった。ルークはフレイヤが言いたいことはわかるがそれでもエリザベスの意見を応援したかった。


「フレイヤ、貴方の言いたいことはわかったわ。でもその前に一つ聞いていい? 貴方ほどの魔族なら食糧問題を解決できる新種の植物は作れないの? それさえあれば争わなくていいのではないの?」


「……」


 エリザベスの質問にフレイヤは黙り込んでしまう。しばらく経ってからフレイヤはため息をつく。


「相変わらずめんどくさい女ですねぇ。どうせなんとなく察しはついているのでしょう? まぁ、いいですよぉ〜。建前はこの辺にして本音を話しましょうか……

 戦争が起こっていないとこんな実験出来ないではないではないですかぁ〜。私の欲求を満たすために戦争が終わっては困るのですよ」


 

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