第52話 再会
翌日、ルーク達は再び王国と魔族領の境にある森へ探索に再び訪れた。相変わらず森には生物の気配はしなかった。
「何もいないな」
ハラルトは草木をかき分けながら辺りを探索しながらそうぼやいた。ルークも特にこれといった生物も見つからなけらばその痕跡すら見つかっていない。ここまで探して何もいないとなるとこの森が不気味に思えてくる。
「未確認の生物はもうすでにこの森から移動したのかもな」
一旦捜索の手を止めたミカルがそう呟いた。指令のあった未確認生物がこの森にいないのかと思い始めた時、近くの草木が揺れて何かの気配がする。
ルーク達全員はその方向に向いて武器を構える。何が出てくるかと思うとそこから吸血鬼種の魔族が現れた。
一旦休戦となっているとはいえ敵対している魔族との遭遇にルーク達に緊張がはしる。魔族と見つめ合いお互いに武器を構えて様子を伺う。ふとした拍子に戦いが始まりそうな雰囲気を醸し出している。
魔族との緊張が限界に達そうとした時、再び草木が揺れてそこから新たな吸血鬼種が現れた。ルークは見覚えのある少女の姿をした魔族を見て声を上げてしまう。
「あっ! エリザベス!」
ルークのあげた声により緊張が一時緩む。現れたエリザベスは驚いた顔をしながら最初に現れた魔族の前に立つ。
「ルーク、久しぶりね。こちらとしては戦う気は無いのだけど武器を下ろしてくれないかしら」
エリザベスはそう言って背後にいる魔族に武器を仕舞う様に指示をして魔族もそれに従った。ミカルは疑いの眼差しをエリザベス達に向けていたがルーク達も武器を仕舞う。一触即発の雰囲気もなくなりお互いに状況を整理することになった。
「俺たちはここに未確認の生物の調査に来ているんだが、そっちは何で魔族領の近くとはいえ人類領に来ているんだ?」
ルークは代表として自分達がここにいる理由を簡潔に言い、続けてエリザベスに質問をした。それに対してエリザベスは真剣な表情で答える。
「今、獣鬼種のトップであるジュシュが行方不明なの。そこで捜索するにあたって王国領近くでジュシュらしき人を見たと言う情報があったから調査に来ていたの。捜索に必死になり過ぎて人類側まで来たのは私たちのミスね」
エリザベスからは驚くべき事が話された。魔族のトップの一人が行方不明など只事では無い。
「昨日からに調査でこの森に入っているが貴方達以外魔族は見ていない」
驚きで固まっていたルークに変わりミカルがエリザベスにそう言った。エリザベスは少し残念そうに瞳を曇らせて「そう」とだけ言った。
「我々もこの森に入ってから生物とは何も出会してない」
エリザベスの後ろに控えていた魔族は情報のお礼と言わんばかりにこちらにも情報を教えてくれた。結局はこの森には何もいないかもしれないと言うことだけがわかった。
お互いに有益な情報を持っていない事が分かり、エリザベス達が魔族領の方へ戻ろうとした。その時エリザベスの後ろにいた魔族が何かに引っ張られる様に森の奥へと引き摺られていく。
「うわあぁぁ!」
魔族は叫び声を上げながら引き摺られる。ちかくの木にどうにかしがみつくがそれでも強い力で引っ張られているのか少しずつ手が木から離れていく。
「今、助けるわ!」
エリザベスは魔族へ駆け寄り魔族の手を掴もうとするがギリギリの所で手が木から離れて森の奥へ魔族は連れ去られていく。
エリザベスは辛そうな顔をしながら急いで森の奥へと駆けて行った。
「俺たちも行こう!」
ルークの言葉に三人は頷きエリザベスの後ろに着いて行った。しばらく森を走るとアラン達ハーフが住む村で見たドブ色をした人形の化物が今まさに魔族を飲み込んでいた。
エリザベスが血の槍を出して人形に投げ放つがそれは最も容易く人形に掴まれてしまう。人形は完全に魔族を飲みこ込み、液状であったその体を変化させる。その姿は魔族の獣鬼種の様であったがよく見ると角鬼種の特徴もあった。
顔は獣鬼種であるが額からは角鬼種の特徴である角が生え、胴体は毛はなく腕と足には毛が生えていた。
「何だあの魔族をごちゃごちゃに混ぜた見たいな化け物は?」
驚愕の表情を浮かべたハラルトはそんな疑問を口にした。誰かから答えは返ってくることはないと思っていなかったがそれは返ってくる。
「私のぉ最高傑作ですぅ。名前はそうですねぇ、角獣なんてどうでしょうかぁ? 少し安直ですかねぇ」
そう言いながら背中に蝶の翅を生やした女性が姿を現した。
「フレイヤ! 何であなたがこんな所に?」
「ふふふふ」
エリザベスはフレイヤに質問をするが彼女は微笑むだけで質問を返さない。
「貴方いい加減にしなさい。それにその化け物の顔どう見てもジュシュでしょ!? 一体貴方は彼に何をしたの?」
「ふふ。ちょっと実験に協力してもらっただけですよぉ〜」
怒りを露わにするエリザベスに比べてフレイヤは笑みを浮かべながら解答をする。その光景を見ているルークはフレイヤに対して今までに感じたことのない悍ましさを感じて後退りをしてしまう。
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