第50話 終戦後

 塔の遺跡奪還作戦は結果から言えば成功であった。魔族は塔の遺跡から魔族領まで撤退した。人類、魔族共に多くの犠牲者を出しながら一旦は争いが収まる。


 ルークが気絶させた魔族は教国の捕虜となり捕らえられている。今までは捕虜となり捕らえられる事は人類も魔族もしてこなかった。基本的には対話は不可能と決めつけ皆殺しにしていたためだ。


 ルークの言葉に感化されたのか聖女ザスキアはそれをよしとせず、捕虜を交渉に使おうと行動を始めた。人類と魔族の交渉それは魔族との戦争が始まって以来初めての出来事であった。


 聖女ザスキアと角鬼種代表のコスタスが武力ではなく言葉での対話をして塔の遺跡での戦争は終結となった。その出来事から魔族との戦争を終わらせるためには武力ではなく対話が必要という流れへと変わっていった。


 ルークはここまで上手く事が運ぶとは思ってもいなかった。病院のベッドで目覚めて対話により戦争が一時終結したと聞いたときは驚きで声を上げる事さえ出来なかった。さらに、教国でのこの動きが王国と帝国に伝わりその両国でも戦争が一時中断されたとルークが耳にした時笑みが溢れてしまった。

 

 隣のベッドではルークと同じように驚愕するマークとアダムの姿があった。二人とも重症ではあったものの命に別状はなく順調に回復していった。


 各国での大規模な魔族による襲撃が終わり、ルークはゲガが治り次第未だケガが治りきっていないマークとアダムへ挨拶をしてから王国へと帰還した。


 聖女ザスキアにも会いたいと思ったが戦後の処理に忙しい彼女とは挨拶も出来ずに教国を離れる事になった。


 王国に帰るといつもの日常がそこにはあった。戦争が一時終わったとは言え警戒を緩めてはいないが学生を使うほどの緊急事態も終わったため普通の学校生活へと戻った。


 学生の多くは後方支援であったため死傷者はほぼ出ていない。それでも、実際の戦場を目の当たりにして学校を辞めて騎士の道を諦めた者が出ていた。

 幸い、ルークの知り合いに学校を辞めた者は居なかった。


 そして、時は経ち魔族との大きな争いも起きずに完全な戦争の終結に向けて各国と魔族の代表が交渉を進めていた。その頃ルーク達は学校を卒業してバルベリの元で騎士となるのであった。


 ルーク、ハラルト、ペトラ、ミカルは同じ部隊の所属となりバルベリの下で働きながら訓練に勤しんでいた。







 魔族領の会議室。そこではつい先ほどまで今後について魔族の代表四人が会議を行なっていた。しかし、今そこにいるのは獣鬼種のジュシュと精霊種のフレイヤのみであった。他の二人はもうすでに会議室から出て各々の仕事へと戻っていた。


「人類との和解で意見がまとまりそうですけどぉ、貴方はそれで良いのですかぁ?」


 相変わらず妖艶な笑みを浮かべているフレイヤはジュシュへそう語りかけた。ジュシュは元々人類に強く恨みを持つ魔族の一人であった。彼と同じ獣鬼種が人類に殺されていた事が我慢ならなかった。


「教国との戦争で多くの同胞が死んだ。それに対して憎しみも怒りもある」


「でしたらぁ……」


 フレイヤが何かを話そうとしたがそれを遮る様にジュシュは言葉を続けた。


「だが、殺されずに帰ってきた者も多くいる。俺たちは……いや、俺たちも変わるべきなのかも知れない」


 そう言ってジュシュは会議室から出て行こうとする。しかし、足が上手く動かずに足がもつれて転倒してしまう。フレイヤはジュシュへ近づいていく。


「はぁ〜。全くつまらないですねぇ。貴方なら戦争に賛成すると思ったのですが残念ですぅ」


 そう言うとフレイヤは懐から注射器を取り出してジュシュの首へ突き刺して中の薬品を注入していく。


「何……を…………する?」


「ふふふ。貴方なら良い餌になりますよ」


 フレイヤは不気味に笑いながら意識を失うジュシュを見守る。完全にジュシュの意識が無くなったのを確認して彼を担いで何処かへと消えていった。

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