第43話 教国侵攻

 ルークがエリザベスと共に行動していた頃、教国の魔族領近くの上空を凄い勢いで飛ぶ人影があった。


 真っ白な一対の翼をはためかせながらその人影、教国の翼の遺物使いアダムは目的地に向かい飛ぶ。先程まで魔族達の侵略を防いでいた為か疲労が見える。


 教国の遺物使いは三人おりその内まともに戦闘ができるのはアダム一人であった。そのため、各地で起こる魔族からの侵略に対抗する為彼はひっぱりだこであった。


 今までにない大規模な魔族からの攻撃に加え薬により強化された魔族に苦戦を強いられている現状アダムに休む暇はなかった。


 疲労を感じながらも必死に遺物を動かして今まさに魔族に落とされんとしている場所へとアダムは向かう。


「くそう! まさかあっちは陽動で塔の遺跡が本命だったとは!」


 悪態をつきながらアダムは疲れた体に鞭を打ちながら戦場へと向かう。


 塔の遺跡とは教国内にある魔族領と程近い天ほどの高さのある遺跡であった。調査の結果その遺跡自身が遺物ではないかと言う結論に至った重要な遺跡である。


 もしその遺跡が魔族の手に渡ればどうなるかはわからない。万が一でも塔の力を使える者が魔族内に現れれば更なる危機が人類に訪れる事は間違いなかった。


「頼む……。間に合え。もし、間に合わなければあの計画も頓挫してしまう」


 焦りを感じつつ更にスピードを上げて塔の遺跡を目指してアダムは遺物を使う。体を酷使したおかげか予想よりも1時間ほど早く塔の遺跡が見えてくる。


 アダムの眼下に広がるのは無数の教国兵の死体。大地は兵達の血で真っ赤に染まり、我が物顔で魔族が闊歩している。


 間に合わなかった。アダムの脳裏にその言葉が浮かんだ瞬間地上から火球が飛んでくる。どうやら、魔族の魔法使いがアダムに気がつき、火球を飛ばしたようだ。


 アダムはそれを回避し、お返しとばかりに羽を降らせ羽が魔族と接触した瞬間爆発が起きる。爆発を直撃した魔族は木っ端微塵となり肉片が飛び散る。


 爆発の音を聞いたためか周囲から魔族が集まってくる。上空にいるアダムは有利であるが魔族は数が多く彼自身も疲労が溜まっている事からいったんその場を後にする。


 間に合わなかった事に悔しさを感じ強く握り拳を作る。あまりにも強く握りしめ過ぎたためか血が滴り落ちる。


「一刻も早く塔の遺跡を取り返さねば」


 アダムは急ぎ後方の味方達と合流する。その場所には教国の杖の遺物使いである聖女ザスキアの姿があった。彼女は負傷した兵士達に回復魔法をかけて治療を行なっている。杖の遺物のおかげで他の聖女より早く尚且つ完璧に治療を行なっている。


 後方支援であるがザスキアも休む暇など無く傷ついた兵の治療を行っていた。いつも綺麗な修道服も今は治療の時についた血でどす黒い染みを作っている。


「聖女様。申し訳ありません、塔の遺跡を魔族に奪われました」


「そう」


 ザスキアは治療の手を止め目を瞑る。再び目を開いたとき彼女は何かを決意した顔をする。


「他国に救援を依頼しましょう。塔の遺跡の奪還なら各国も協力してくれるでしょう」


「よろしいのですか?」


「仕方ないです。一刻も早く奪還をしなければ……」


「……わかりました。では、こちらで王国と帝国へ救援依頼を送っておきます」


 各国へ救援を依頼する事が決定する。アダムはザスキアへ一礼した後その場を後にする。

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