第28話 前線

 ゼルパ砦の会議室、そこにゼルパ砦を任されている上位の騎士達が集まっている。集まっている騎士の中には輸送部隊の隊長と槍の遺物使いであるバルベリの姿がある。


 重苦しい雰囲気の中、真剣な表情で搬送された物資のリストを見ながら集まった騎士は頭を抱えていた。


「予定より物資が少なすぎる。早急にもう一度輸送してもらう必要があるな」


 この砦の総責任者であろう一番奥に座る騎士は隊長へそう言う。既にそう言われる事を予想していた隊長は頷き、事前に追加での輸送を後方へ連絡を入れていた事を伝える。


 隊長の手際の良さと追加で物資が来る安堵により会議室の空気が若干軽くなる。しかし、総責任者の表情は暗いままだった。


「物資はどうにかなるとして人手が足りなすぎる。このまま攻められ続ければいずれこの砦が落とされかねん」


 総責任者の悩みに対して隊長が口を開く。


「焼け石に水かも知れませんが学生四人を使ってはどうですか?」


「学生だと?」


 隊長はルーク達をこの砦で使ってはどうかと進言する。その言葉に対して眉間に皺を寄せ総責任者は怪訝な表情を作る。


「はい。輸送部隊としてこちらに来た学生は正直学生レベルを超えています。この砦でも十分にやって行けます」


 隊長のルーク達への評価は高いものであった。


 まず、ルークに関してだが命令に従わず一人で突っ込む節はあるがその戦力は圧倒的である。普通の魔族では手に負えない強さがあり後方支援に使うにはもったいなかった。


 次にミカルだが、彼の実力は騎士並みであり命令を忠実にこなし冷静に魔族と対峙していた。先の戦いでは常に不利な状況にならない様に立ち回り確実に魔族にトドメを刺していた。


 3人目にハラルトについて、彼は周りを見る事を怠らず不利になっている所へ駆けつけて援護に回っていた。彼のおかげで死なずに済んだ騎士も少なくはない。


 最後にペトラは弓の射撃精度もさる事ながら立ち位置も完璧であった。力で言うと他の3人に比べて劣っていたが自分が劣っている事を理解して上手く立ち回っていた。


 そんな四人の評価をそのまま総責任者へ伝えてこの砦で使う事を隊長は進めた。学生である四人を前線で使うのに抵抗があるのか総責任者は首を縦になかなかふらない。


「ワシは本人がやる気あるなら賛成じゃ」


 総責任者が悩み唸っていると槍の遺物使いであるバルベリが口を挟んだ。白い髭を触りながらバルベリは言葉を続けた。


「ここを落とされればこの先被害がどのくらいになるか分からん。他国からの救援も厳しい現状少しでも兵力はほしい。学生でも覚悟があるなら使うべきじゃ」


 バルベリの言葉を聞いて総責任者は渋々という表情を作り頷くのであった。






 休憩も終わり、後方へ帰る準備をしているルーク達の元へ隊長がやってくる。


「君たちちょっといいかね」


 隊長に呼ばれたルーク達は作業を一旦止めて隊長の方へ振り向く。


「君達次第にはなるがこの砦に残り前線での任務に就いてくれないか」


 前線での任務に就く機会があるとは思ってもいなかったルーク達は驚く。最初に我に帰ったミカルが了承の返事をする。それに続いてルーク、ハラルト、ペトラの三人全員が了承の意思を伝える。


「君たちありがとう。そして命運を祈る」


 そう言う隊長と別れ砦で任務に就く騎士に四人はとある部屋へと案内された。その部屋にはバルベリが席に座っていた。


「師匠!」


 短い間であったがバルベリから遺物の使い方や戦い方などをルークは師事されており、彼のことを師匠と呼んでいた。


「ルーク、久しいのう。取り敢えず全員向かいの席に座ってくれ」


 バルベリに促されるままルーク達は向かいの席へ座る。全員が座った事を確認してから彼は懐から見覚えのある錠剤を机の上に置いた。


「前線で戦う以上知っておかないとならん事がある。それはこいつじゃ」


 険しい表情をしたバルベリは机に置いた錠剤を指で指しながら話を続けた。


「これは突如魔族が使う様になった薬でこれを魔族が飲むと飛躍的に身体能力が向上する。コイツのせいで我ら騎士団は劣勢になっておる」


 ルーク達はこの砦に来る途中での事を思い出す。懐から取り出した錠剤を飲んだ魔族が急激に強くなり苦戦した事を。


「御主らも一度これを服用した魔族と戦ったと聞いておる。これの怖さはわかっておるだろうが更に言うとこの薬は服用すればするほど肉体が強化されることじゃ」


 一錠飲んだだけの魔族はルークにとっては多少強くなった程度であったが大量に服用したガルクは違った。もし大量に服用した魔族が一斉に攻めてくると考えると冷や汗が背中を伝う。


「副作用は無いんですか?」


 ミカルがバルベリへ問う。その表情は険しくもしバルベリから無いと言われれば絶望するであろう。


「恐らくじゃがある。感覚的だが服用すればするほど活動時間が短く、反動は大きくなる。5錠以上飲んだ場合間違いなく薬が切れれば死ぬ。通常は1錠が限界じゃろ」


 バルベリの話を聞いて少し安心するルーク達。しかし、普通の人間より身体能力が高い魔族が更に強くなるのは脅威以外の何者でもない。


「とりあえず知っておくべき事は以上じゃ。それとこの砦では御主らは別々の作業をしてもらう。ルーク以外は外に別の騎士を待たせとるのでそいつらに詳しい仕事は聞いてくれ」


 バルベリがそう言うとルークを残して席から立ち上がり外へと出て行く。


「師匠、俺は?」


「ワシの指示に従ってもらう」

 

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