第29話 魔族への襲撃

 バルベリの指示は簡単なものであった。明朝、魔族へ襲撃をかけ一気に敵の指揮官を殺す作戦の露払いであった。


 今まではと比にならないほど危険で重要な役目にルークは緊張で口がパサつく。上手く唾も飲み込めないほど強張っているとバルベリは肩を叩いた。


「本来学生が行う様な作戦ではない。じゃが御主なら出来ると思っておる。緊張し過ぎずに任務に当たれば生きて帰れるさ」


 バルベリに励まされ幾分か気が楽になったがそれでも手が震えて仕方がなかった。ルークは手の震えを止める様にぎゅっと拳を固く握る。


「ワシがさっさと敵陣に突っ込み大将首をとってくるから安心せい!」


 緊張したままのルークの背中をバルベリが思いっきり叩き部屋に音が響く。かなりの力で背中を叩かれたせいで背中がジンジンと痛みルークはバルベリを睨みつける。


「師匠……痛いです。」


「すまん、すまん」


 軽い調子でバルベリは謝りながら大声で笑う。ルークはその調子に呆れたがかなり気がまぎれた。軽い調子のバルベリは再び顔を引き締めてルークへ話を続ける。


「明朝の作戦では御主も重要なポジションじゃ。体調と道具の準備はしっかりしておく様に」


 バルベリの指示の元入念に準備を行い、翌朝に向けて早めに就寝をした。







 明朝、まだ日も登っていない暗い空の下ルークは昨日準備した装備を再び確認していた。もう直ぐ出撃の合図があり、今はその最終チャックを行なっている。


 今まで防戦一報であった王国騎士団達の決死の攻撃作戦。内容は単純で相手が準備を整える前、つまり薬を服用してき強化される前に敵の司令官を撃つという単純なものだ。


 うるさいほどなる心臓を胸にルークは準備を終えた。しかし、じっと待っている事も出来ずに屈伸などをして体を動かす。


 他の騎士達も準備を終えて隊列を組み始める。それに合わせてルークも馬に乗り隊列に加わり指示を待つ。周りを見渡すを覚悟を決め真剣な眼差しの騎士達が今か今かと支持を待っている。


 隊列も組み終わると直ぐに前進の指示が出た。砦と向かい合う様にして建てられた魔族のテントへ向かい前進を始めた。


 弓矢の射程範囲になる事には魔族達が慌しく動いているのがわかる。慌てている魔族に向かい大量の弓矢が放たれる。ここまで優勢であった魔族達は油断もあったのか対応が遅い。


 ルーク達はバルベリを先頭に馬で敵陣に突撃をして、指揮官がいるであろう一番奥の大きなテントへと向かう。矢の射程範囲に辿り着く頃には矢の雨は止み矢が刺さった魔族の死体が転がっている。


 魔族の死体は獣鬼種だけでなく数は少ないがほぼ人と変わらない吸血鬼種の死体もあった。


 馬で駆ける途中に遭遇した魔族を切り伏せながら敵陣の奥深くへ向かう。魔族の混乱も次第に落ち着いていき薬を服用した魔族も現れ始めた。


 途中で何名かの騎士は馬をやられたため置き去りにしてしまったがここで止まれば作戦が台無しになるため心苦しいが置き去りにした。後ろ髪を引かれる思いをするルークだったが何とか前だけ見て進む事ができた。


 一番大きなテントへと近づくとそのテントから幾つのも赤い弾丸が飛び出して来た。咄嗟にルークは馬から飛び降りてそれを避ける。何とか避け切れたルークだったが馬をやられた。辺りを見渡すと他の騎士達も馬をやられて中には避け切れず血溜まりを作っている者もいる。


 穴だらけになりボロボロのテントから1人の小柄な少女が現れた。見た目は幼いその少女だが放つ圧力は今まで見て来たどの魔族よりも圧倒的であった。


「馬を失ったみたいだけど投降する気はない?」


 まるで世間話でもするかの様に穏やかにそして笑顔で少女はそう言った。彼女の言葉を聞いてバルベリは一歩前へ出て槍の遺物を構える。


「悪いがそんな気はない。にしても、まさか魔族のトップの1人エリザベスがこの場に居ようとは。貴様の首を貰う!」


「あら残念」


 バルベリの突撃を見て尚も笑みを崩さないエリザベスが指をパチンと鳴らす。今までテントなどの物陰に隠れていた青白い肌の吸血鬼種達が一斉に姿を現し手に持った赤い水の槍をルーク達へ投擲する。


 ルークは槍を弾くとその槍は形が崩れて液体へと戻る。液体の一部が顔にかかり生臭い血の匂いがする。


 吸血鬼種達は血液を操る能力を持っており先程の槍は血で作った物であろう。そんなどうでもいい考察をしながらルークは1人の吸血鬼種へと近づき剣の遺物を振るう。


 吸血鬼種は剣に対して血の盾を展開するがルークはそれごと吸血鬼種の体を両断する。驚愕の表情で固まったまま上半身の身が地面へ落ち、少し間を開けて下半身が地面へ倒れる。


 吸血鬼種と戦った事のないルークは自分の力が通じるか不安があったが今の攻撃で問題ない事を理解する。


 ルークは直ぐに次の獲物を探すため剣を構え直し辺りを見渡す。他の騎士達はルークほど攻撃力がなく血の盾や槍に苦戦をしていたが力は拮抗している。


 一番危なそうな場所へルークは加勢に向かい、次々と敵を倒していく。

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