第23話 気晴らし

 全身が痛むルークであったが動けないほどでは無い為翌日は普通に登校する。学校の教室へ入ると中から異様な雰囲気が漂う。


 箝口令がしかれ古代遺跡であった事は広まっていないが生徒が一人死んだ事は伝わっている。軍人になる以上は死の覚悟はあるはずだが今まで一緒に勉強をしていた学生が死んだ事は深く傷になっている様だった。


 重苦しい雰囲気の教室を歩き空いている席へルークは座る。いつもは聞こえて来る雑談の声は今は聞こえてこなかった。


 しばらく時間が経過して教室の人数が増えるが教室は静かなままだった。ミカルとリアも登校してくるが教室の雰囲気を察してか話す事はなかった。


 授業の時間となり、教師が教室へ入ってくる。


「みんなも知ってると思うが古代遺跡の探索中に事故で生徒が一名亡くなった。そこで弔いのために黙祷を捧げる。一同黙祷」


 教師の合図と共にルークは目を閉じる。罪悪感を抱えながら、死んだデレクに祈りを捧げた。


「一同黙祷止め」


 教師の合図で目を開く。周りは相変わらず暗い雰囲気を漂わせているが授業はいつも通り進んでいく。






 授業が終わりルークは足早に学校を後にした。寮へ帰宅してルークは倒れ込むようにベッドへダイブする。いつもなら学校の復習をしているがやる気になれなかった。


 何をする訳でもなくただ呆然と天井を見詰めていると部屋の呼び鈴が鳴る。動くのが億劫であったがめ部屋の外で人を待たせるのも悪く思い体を動かして玄関へ向かう。


 部屋の扉を開けて訪ねて来た人物を確認するとそこには帝国の遺物使いであるマークがいた。帝国の軍人でもあるマークはただの学生を気にするほど暇なはずはないのだが何故かルークを気にかけていた。


「思ったより元気そうだな。よし、では行くぞ!」


 相変わらず強引なマークはルークの手を引っ張り無理矢理部屋から連れ出した。思わぬ彼の行動に驚き、抵抗する間も無く引きずられるように連れていかれる。


 転けそうになりながらマークに手を引かれるルーク。流石にその状態で街中を連れられるのは恥ずかしさを感じて手を振り解く。手は簡単に外れ、マークはルークへと向き直る。


「一体どこに行く気ですか?」


「まぁ、着いてこい」


 マークはニヤリと笑いそう言うだけで詳しい場所は言わなかった。彼の性格上拒否しても無理矢理連れていかれるだけだと判断したルークは大人しく後ろについていく事にする。


 マークは街中を進み、どんどんと人気のないところへ行く。やがて周りの建物さえなくなり街の外れへとやってくる。


 その場所は小高い丘になっており、今ルーク達が留学へ来ている街を一望できた。夕焼けに染まる街は美しく感じる。


「どうだ? 綺麗だろ?」


 マークは自慢気に話始める。彼の言っている通り丘から見える景色はとても綺麗であった。


「辛い事や嫌な事があったら俺はここに来るんだ。軍人という立場上、そういう事が多い」


 ルークはマークの言葉に耳を傾けながら街を見つめる。


「マークさんは何故ここまで気にかけてくれるんですか? やっぱり、遺物使いだからですか?」


「そうだな。遺物使いって言うのは大きいがそれだけではない。何となくだがお前からは大物になる雰囲気を感じるんだ」


「大物ですか?」


「そうだ。そして、そんな雰囲気を纏ってる奴は総じて早死にするか潰れてしまうかだった」


 横にいるマークの顔を見るとどこか悲しそうな表情を浮かべていた。きっと多くのそういう人達を見て来たのだろう。


「その感全然当たってないですね」


「あぁ。 ルークは潰れるなよ。もし何かあればいつでも俺を頼れ。他国の遺物使いだが俺はできる限り協力しよう」


「ありがとうございます」


 再び、夕焼けに染まる街並みを見つめ直す。夕方から次第に夜に移り変わり辺りは暗くなっていく。


「そろそろ、行くか」


 マークはそう言うとこの場を後にする。帰り道も覚えきれていないルークは見失わない様に後ろについていく。


 街へ戻ったルーク達だが向かった場所はルークが暮らす寮ではなかった。見覚えのない道を進み着いた場所は軍の施設の一部であった。


「ちょっとマークさん。ここ入っても大丈夫なんですか?」

 

 ただの学生であるルークは場違いな場所に連れてこられ、関係者以外が入っても大丈夫かとマークへ確認する。


「まぁ、大丈夫だろ。それより次の目的地はここだ」


 普段軍人が訓練で使っているであろう広場へとルークは案内された。一体ここで何をするのかと疑問に思っているとマークは鎌の遺物を取り出した。


「軽く遺物の訓練をするぞ。嫌な出来事があった時は体を動かすのも手だからな!」


 マークの強引さに呆れ気味のルークであったがそれは自分の事を思っての行動だと感じる。ルークはそれが嬉しくマークの指示で剣の遺物を取り出す。


 日は沈んでいたが街灯のおかげで辺りは明るく、軽く遺物を振るうのには困らなかった。素振りをしているとマークが話しかけてくる。


「遺物は問題なく使えるみたいだな。あんな事があった後だ遺物が恐ろしくて使えない何て事が無くて良かったぞ」


「確かに恐ろしくはあります。でも、遺物を使わないときっと世界を平和にできませんから」


「世界を平和にか……」


 ルークの言葉を聞いて複雑そうな表情をするマーク。素振りを一旦やめてそんな表情の理由を聞こうとするが聞く前に怒声が聞こえて来た。


「貴様ら何をやっとる!」


「げっ! トラヴィスさん」


「げっとはなんだ! それにそっちは確か学生のルーク君だったな。マーク貴様はまた何かやらかしたのか!」


「何もしてませんよ。ただ、気分転換に体を動かさそうとしただけです」


「だからと部外者を軍の施設に入れるな!」


 トラヴィスの怒号とともにマークの頭へ拳骨が落ちる。拳骨を食らったマークは頭を両手で押さえ込みながらしゃがみ込む。


「あの……。やっぱりまずかったみたいですね。すみません」


 部外者が入ってはならない場所と聞かせれてルークはトラヴィスに謝る。怒りの表情を浮かべていたトラヴィスはルークの方を向くと表情が柔らかくなる。


「君が気にすることは無い。どうせこの場が無理矢理連れて来たのだろう。そうだ、お詫びと言っては何だが今から夕食でもどうだ?」


「良いんですか?」


「気にする事はない」


 トラヴィスの奢りで夕食をご馳走になる事になった。マークも奢りだと喜んでいたが再び拳骨が落ちるのであった。

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