第22話 覚悟

 大量の触手の残骸を踏みながら遺物があった部屋を出て落とし穴まで戻る。そこにデレクの姿はない。


「あの、デレクはどうなりました?」


 班員の一人がマークに尋ねるが彼はくびを横に振るう。


「わからない。俺が来た時には大量の人型の触手で埋め尽くされていただけだった」


 デレクは何処に行ってしまったのかそんな疑問を一同は浮かべる。


「とにかく、上にあがろう。降りる時にロープをおろしておいた」


 マークが落とし穴の底に降りる前に事前にロープをおろしていたのでそれを伝い各自が上へ上がる。上に上がるとマークが切ったであろう触手の残骸が道を埋め尽くしていた。


 全員が落とし穴から脱出後、遺跡の入り口に向かい歩き始めた。入り口に向かって歩く途中、時折現れる触手人形を倒しながら進む。数がそれほど多くないため苦戦もせずに出口へとたどり着いた。


 出口へ辿り着きほっとした瞬間、辺りが暗くなる。上を見上げると触手で出来た巨大な腕がルーク達に向かい振り下ろされようとしていた。


「全員逃げろ!」


 マークの声に反応して直ぐ様腕の攻撃範囲から外れたルーク達だったが、逃げ遅れた班員が二名いる。マークは舌打ちをしてその二名に駆け寄り力任せに吹き飛ばす。吹き飛ばされた班員は無事であったがマークは逃げきれずに触手の下敷きになってしまう。


「ギシャシャシャシャ」


 笑い声の様なものが聞こえそちらを向くと底には虚な目をしたデレクが立っていた。デレクはルーク達に向けて触手を伸ばしてくる。


 ルークは剣の遺物を振るいそれを切る。若干弾力があり切り落とし難かったが問題なく切り落とせた。しかし、数名の班員は切り落とせずに剣を触手に絡め取られていた。奪われた剣は触手の力により握りつぶされる。


「あいつ、明らかに強くなっている。このままではまずいぞ」


 ミカルの言った通りデレクは強くなっている。触手の強度に力、攻撃方法が増えている。時間をかければかけるほど不利になっていく。


 このままでは全滅する。ならば、デレクから遺物を切り離すしかない。ルークは焦りを感じる中覚悟を決める。


 ルークは遺物を構え深呼吸をして心を落ち着かせる。焦りや抵抗感を無くしてデレクの動きに集中する。触手がルークに向けて伸ばされると同時にルークも地面を蹴りデレクへと近づく。


 迫り来る触手を全て切り落としながらデレクに肉薄する。全ての触手を切ると地面から新たな触手が生えてルークに襲い掛かる。

 地面から生えた触手はルークの後ろに着いてきていたミカルとリアにより大丈夫される。ミカルは地面から生えた触手を片手で持った剣で斬り、リアは球状の魔道を触手になげそれが触手に当たると触手が弾け飛んだ。


 ミカルとリアのおかげでデレクにのみ集中する事ができたルークはそのままデレクの両腕をを一刀両断にする。


「ギシャー!」


 デレクは叫び声をあげて、両腕は斬り飛ばされる。これで終わりかと思われたが斬り飛ばされた両腕とデレクから大量の触手が現れる。

 触手同士が求め合う様に絡みつきくっつく。


「そんな……」


 後ろからリアの絶望した声が聞こえて来る。両腕を切っても止められないならもう殺すしか無いのかも知れない。


 覚悟はしたつもりだがいざ人間を殺さなければならないと思うと手が震える。それを必死に押さえ込みデレクの心臓目がけて剣を突きつける。


 若干判断が遅れルークに触手が絡みつくが剣はデレクの心臓をとらえて貫く。触手はルークを締め殺そうと強く締め付けられるが次第にそれは弱まり力なく地面に落ちる。


「終わったのか?」


 ミカルの言葉にルークは反応する事が出来なかった。濃厚な血の匂いにルークは吐き気を催し剣を離して嘔吐する。


 殺さなければ殺されていたかもしれない。そうは思っていても人を殺した事実に押しつぶされそうになる。両手と顔にはデレクの返り血で赤く染まりそれが気持ち悪くて仕方がなかった。


 四つん這いになり心を落ち着かせようとしているルークの肩が叩かれる。


「よくやった」


 肩を叩かれた方を見ると全身ボロボロになったマークがいた。肌が見えている部分は締め付けられたであろう青痣が見えている。


「ルークのおかげで助かった命もある。気にするなとは言えないが今はゆっくり休め」


 助かった命もあるという言葉にルークも救われていくらか心が楽になる。それと同時に体に激痛が走る。ショックで忘れていたがルークは触手に絡みつかれて傷を負っていた。


 人を殺してしまったショックと体の激痛、助かった安堵感などがごちゃごちゃに混ざりルークは意識を手放してしまう。


 地面に激突する前にマークに抱き抱えられたのがなんとなくわかった。






 ルークは気がつくとベッドの上に寝かされていた。全身は包帯で巻かれている。体を起こすとすると体に痛みが走る。


「起きたみたいだな」


 ぶっきらぼうな声がしてそちらを向くとミカルが座っていた。左腕は包帯で巻かれ肩から下げられて固定されている。


「他のみんなは?」


「安心しろ全員生きている。かすり傷程度の怪我しかしてない。ルークか俺が一番の重症だよ」


 ミカルの答えに安堵したがルークは気になっている人物について問う。


「デレクは?」


「……」


 無言のミカルを見て察した。ルークは自分が人を殺してしまった事実を改めて実感して吐き気が込み上げてる。人類を平和に導きたい願いを持ったルークが人を殺した。その事実に頭がおかしくなりそうだった。


 そんな中、新たなにリアが果物の入ったバスケット抱えてやってきた。


「ルーク目覚めたのですね。これ、みんなからのお礼です」


「お礼?」


「そうです。ルークのおかげでみんなが助かったです。誰かがやらないときっと私たちが全滅するだけで収まってなかった」


 リアの言葉を聞いて自分の行動が間違ってなかったと言い聞かせる。全てを投げ出してしまいたい気持ちを押さえ込み、世界を平和にすれば危険な遺物に頼る事がなく犠牲者を出さずにすむと言い聞かせ世界を平和にする決意を固めた。


 

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