遺物使いは世界平和を目指す

第1話 平和な日常

　トントンと小気味良い音を立てながら家の窓を補強していく。窓の補強が終わり空を見上げると空は薄暗く一部は真っ黒い雲に覆われており今にも雨が降り始めそうだ。

「おーい。ルーク、窓の補強終わりそう？」

　家の中から出てきてそう声をかけてきた金髪三つ編みの少女は幼馴染であるエミリーだ。

「今終わったところだよ。嵐が来る前に終わって良かった」

　ルークは彼女の質問に答えながら外に出していた工具類を片付けて行く。

　一頻り片付け終わると手に冷たい感触がした。空を見上げると顔に水滴が落ちて来て顔を濡らす。どうやら雨が降り始めたらしい。

　降り始めた雨は直ぐに勢いを増しエミリーとルークを濡らしていく。

　タイミング良く窓の補強が終わり安堵しているとエミリーが手を握り話しかけてくる。

「このままだと、風邪をひくから家に入ろうよ」

　エミリーはルークの手を引っ張って家へと連れ入って行く。

「ママー、ルークが窓の補強終わったよ。あと、雨降ってきた。ルークはここでちょっと待っててね」

　エミリーは家の玄関の中へ入ると直ぐに手を離しそう言って家の奥へと小走りで走って行く。

　ふとドアの外を見ると雨は勢いを更に増しており土砂降りになっていた。自分の家とエミリーの家はさほど離れてはいないがこの雨の中帰るのは億劫である。

　そんな事を考えているとすぐに彼女はタオルを持って戻って来て、2枚持っているタオルのうち1枚をルークに渡した。

「ありがとう」

　タオルのお礼を言いながら雨で濡れた髪を拭いているとエミリーの母親であるダナが家の奥から姿をあらわした。

「ルーク君いつもありがとう。今日もルーク君の分のご飯も作ったから一緒に食べましょう」

　エミリーの父親は既に死んでおり彼女は母親と2人で暮らしている。そんな彼女達の為に家の手伝いをしてお礼にご飯をご馳走になっている。

　いつも通りリビングへ行くとそこには出来立てであろう料理が机の上に並べられている。自分用に用意された料理の前の席へ座り、2人ともそれぞれの席へと座ると食事が始まった。

　雨に濡れて体が冷えていたせいか暖かい料理はいつもより美味しく感じて手がすすむ。

「いつも美味しいご飯ありがとうございます」

「ルーク君いいのよ。こっちも色々と助かってるのだから。あと、おかわりもあるから遠慮なく言ってね」

「ルーク。こっちのおかずどう？私が作ってみたの」

　エミリーが机の上に並べられた料理の一品を俺に差し出してきた。差し出された料理を食べると少し甘味が強かったがとても美味しいものだった。その事を彼女に伝えると笑顔を見せてくれた。

　平和だな。世界は戦争中である事を忘れそうなほど平和な日常である。

　今ルークたちが住んでいる大陸は二勢力に分かれて戦争をしている。ルークたちが属している人類と敵対している魔族の二勢力である。戦争しているとはいえこの村は戦争中とは思えないほど穏やかな日常が繰り広げられている。

　理由としては簡単で戦争をしているとはいえ大きな争いはなく睨み合い状態である事、この村近辺は戦略的に重要ではない事などが挙げられる。ルークたちが住む国は徴兵制も基本なく無理に戦争に駆り出される事もない。

　ご飯を食べ終わり食器類の片付けを手伝っていると窓がガタガタと音を立てている事に気が付いた。どうやら雨だけではなく風も強くなっているようだ。

「今日は泊まっていきなさい。家には私から連絡を入れておくから」

「今日泊まってくの？やったー、寝る前にいっぱいお話ししようね」

　泊まるのを断ろうと思ったがダナとエミリーの押しに負けて結局泊まって行くことになった。

　エミリーは同じ部屋で寝ようとしていたが流石に14歳にもなって同じ部屋で寝るのはまずいのでルークは客間で寝ることになった。

　寝る準備を一通り終えて布団に入る頃には雨風は更に勢いをまし窓をガタガタと鳴らしている。木板等で家の窓などの補強はしているが壊れるのではないかと心配するほどだ。

　そんな心配をしながら眠りに着こうと目を閉じて夢の中へ入っていく。