第3話初めての依頼、薬草採取。前編
「はいこれ、冒険者ライセンスカード」
「ありがとうレジーナ」
受け取ったカードを首に掛ける。
ふふふ、これで私も晴れて冒険者というわけだ。やったね。
ご機嫌な私を、他の皆は何やら信じ難いと言った顔をしている。
「嘘だろオイ。あのレジーナがあんなド素人とパーティを……? ひよっこに指導はよくしていたが、パーティ組むなんてことは一度としてなかったのに……一体どういう風の吹き回しだよ」
「しかもあのご令嬢にライセンスまで作ってやがるぜ。もしかしてアイツ、なんか弱みでも握りやがったのかぁ?」
……うーん、突き刺さるような視線を感じる。
何かズルでもしていると思われているのだろうか。
「ふふっ、気にすることはないわ。私が作れるのは一番下のFランク、しかも仮免許までだしね。実力が伴わなければすぐに剥奪されるのだから、気にする人なんてすぐにいなくなるわよ」
「あ、そういうの全然気にしてない。私、そういうのむしろ燃える方だから」
最低ランクからスタートとか、『物語』の主人公っぽいしね。最底辺から成り上がりモノも大好物です。はい。
そう考えると、他の冒険者たちからの刺々しい視線も痛気持ちいいというものだ。
この手の『物語』には主人公に嫌がらせをする引き立て役も必要不可欠である。
「さーて、それじゃあ早速冒険に出るとしよっか」
「そうねぇ、Aランクの私と一緒なら、結構上位の討伐系の依頼だって受けられるわ。このオーク討伐とかどう? 達成すれば一気にDランクくらいまで上げられるわよ」
「あ、ゴメン。最初に受ける依頼は決めているの」
レジーナの言葉を遮って、私は掲示板へと向かう。
コルク板には沢山の依頼書が貼られていた。
その中から目当ての依頼を探す……あった、これだ。
「どれどれ……って、え? 薬草採取?」
「うん、冒険者が最初に受ける依頼といえば、やっぱこれでしょ! ……ん、んっ」
私は咳払いをして、語り始める。
「様々な『物語』で冒険者たちが最初にお薦めされている薬草採取、まさに読んで名の通り、草むらに赴き薬草を探す低ランク冒険者御用達の依頼だけど、言うほど楽ではない。薬草を探す知識、種類を見誤らない鑑定眼、採取中に魔物に狙われないようにする注意深さ、山々を移動する技術、目標を狙う計画力、冒険者に必要な技術と経験を養うのにこれほど適した依頼はない――よ」
「い、意外と詳しいのね……」
「そりゃもう、勉強してるから」
冒険者を志した時から、様々な依頼は下調べ済みなのだ。
そんな私を見て、レジーナは困惑顔だ。
「えぇと……でも今回の目当てである白薬草はわざわざ依頼しなくてもちょっと山を入れば幾らでも生えてるような草よ? 報酬も安いし、こんな依頼幾らこなしてもランクは上がらないわ。アゼリア風に言えばこんな退屈なの全然『物語』っぽくないんじゃない?」
「私は新人だし、これくらいからやっていくのが分相応だと思う。それにさレジーナ。こういう地味で小さな依頼をチマチマこなしてランクを上げていくのが醍醐味なんじゃないの」
十段飛ばしで階段を駆け上っていく系の『物語』も好きだけれど、私はどちらかというと一歩ずつ地道に成り上がっていく方が好みだ。
というか私は冒険者生活を長く楽しみたいのだ。あまりにも早くランクを上げ過ぎたらやることなくなっちゃいそうだし。折角冒険者になったのにそれは面白くない。
「そ、そういうものかしら……?」
「そういうものなの。というワケでよろしくお願いします!」
そういうわけで、私は薬草採取の依頼を受けるのだった。
◇
街を出て歩くことしばし、私たちは白薬草がよく生えているという近くの山へと辿り着いた、のだが……
「……アゼリア? 大丈夫」
心配そうにこちらを振り返るレジーナに、私は親指を立てて返す。
大丈夫……いや、あまり大丈夫ではないかもしれない。結構バテているのは否定しない。
どうやら初めての冒険で調子に乗ってはしゃぎすぎたようだ。
「大丈夫じゃないんで……休憩お願いしまっす……」
そう言って私は近くの石の上に腰かける。
水筒を取り出し、んくんくと口に含んだ。
「ふはぁー、生き返るぅー」
同じく倒れた大木の上に、ハンカチを置いて腰かけるレジーナ。
「まだ三十分も歩いてないわよ」
「いやぁ、この辺りは気候がツラくて……ホラ、日差しが強いし空気も乾燥してるじゃない?」
パタパタと手で顔を仰ぎながら答える。
いや、体力もないかもしれないけどさ。そこはある程度体質的に仕方ないというか。
「アゼリアは北の出身なのね。あっちは寒くて大変みたいだけど」
「そっちに慣れてるとこっちは暑くて」
私の故郷、北の果てでは日中でもほとんど空は曇っており、私にとってはとても過ごしやすいのだ。
反対にこの辺りはとても暑く、歩いているだけでも体力を削られる程暑い。
日光を弾く白一色、日傘と帽子、薄手のワンピース、更に水筒を用意してようやく耐えられるレベルである。
「まぁ恰好だけなら私も十分軽装だけどねぇ。アゼリアみたいな新人はもっとそれらしい格好をした方が悪目立ちしなくていいとは思うわ」
「うん、だからもう少し冒険者っぽくしようと思ったんだけど……どう?」
そう、ギルドの人たちに白い眼を向けられたことで、私は装備を整えることにしたのだ。
とはいえこの格好は変えることは出来ないし、あまり重い物を持てば本末転倒。より冒険者っぽいものを一つ選ぶ必要があると思い、この銅の剣を購入したのである。
ワンピースの腰ベルトに差している銅の剣をポンと叩き、得意げに笑う。
やっぱり新人冒険者と言えばコレでしょう。どんな冒険者も大抵は銅の剣から始めるものだ。そう、『物語』ではね。
それに何か一本持っておくなら剣がいい、とよく言われている。
突いて良し斬って良し受けて良し、持ち運びも比較的楽で何より安価、そういった面でも銅の剣は優秀なのだ。何より私が気に入っている。初めて自分で買った武器ってのは何ともテンションが上がるなぁ。
「ふふーん、どうこれ? カッコいいでしょ?」
「まぁ確かに冒険者っぽくなったけど……そんなの装備してたら重くない? 魔術師ならそんなもの持たずとも、魔術で攻撃も防御もこなせるわよ」
そう言ってレジーナは指先で空気を弾く。触れたのは魔力障壁だ。
レジーナは常にそれを展開しており、ちょっとした攻撃なら自動で防げる。
更に魔術による温度操作を行うことで結界内部は快適な空間だ。
すごいな。流石はAランク冒険者である。
「簡単に言うけど、私じゃこんな微細なコントロールはとても出来ないよ」
「あら、アゼリアなら慣れればこれくらいすぐ使えるようになるわよ。今度ゆっくり教えてあげる」
「ありがと! 魔術の師匠」
「ふふ、魔女のじゃないのね。残念」
あまり残念じゃなさそうにレジーナは微笑む。
そんな他愛もない話をしていると、身体に力が戻ってきた。
「ふぅ、回復完了。そろそろ行こっかレジーナ」
「えぇ……でも変ね。白薬草の群生地にはもうとっくに入っているはずだけど……」
依頼書によると白薬草は山の麓にもそこそこ生えているらしい。
しかし既に山へ入って結構経つのに、未だ目当ての白薬草には一本たりともお目に掛れていない。
「それだけじゃない。他の薬草の類もないわ……一体何が起きているというの……?」
顎に手を当て、考え込むレジーナ。
もしや事件の予感? 簡単な依頼をこなしていると大きな事件に巻き込まれる……まさに『物語』の王道展開だろうか。
「ワクワクしてきたね! 早く行こう」
「あ、ちょっとアゼリアったら」
やはり冒険は胸が躍るなぁ。
私は気分を高揚させながら、山奥へと足を踏み入れるのだった。
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