サクラサク~真似したがるママ友からの解放~

瀬崎由美

第1話・男の子ママは二人だけ

 公立小学校の入学説明会も済んで、一人息子の卒園が近付いて来た頃、同じマンションに住む新一年生のママだけでランチ会をしようと誘って貰った。連絡をくれたのは、9階に住んでいる美咲ちゃんのママ。とても世話好きで、とても社交的な二人目ママさんで、顔を合わせたら世間話をすることもある程度の仲だ。


 美咲ちゃんママの情報によれば、同じ小学校に入学予定なのは同じマンションだけでも全部で8人もいるらしい。駅近のマンモスマンションだから、子育て世帯が多いのだ。女の子が6人で、男の子はうちの佑太ともう一人。


 ――男子、少なっ。一つ上の学年は男の子ばっかりだったのになぁ。


 男女比を聞いて、ガックリきた。

 でも、もう一人の男の子は入園前にマンションの庭で何度か遊んで貰ったことがあったし、ママとも顔見知りだし連絡先も知ってる。ただ、ワーママだから年少以降は全く会わなかったけれど……。


「カズ君ママも、その日は仕事休みだから来れるって」


 美咲ちゃんママのスケジュール調整が良かったのか、入学前のランチ会は他のワーママさん達も全員揃うことができた。子供達が赤ちゃんの頃からの顔見知りがほとんどだったけれど、別々の幼稚園に通っていたのでゆっくり話すのは久しぶりだった。


「制服の購入は、人数が集まるなら洋品店さんの方が来てくれるらしいよ。マンションの集会室で即売会して貰わない? ゆっくり試着させて貰えるよ」


 上の子がいるベテランママの情報と行動力はさすがに頼りになる。あっという間にお店とも連絡を取ってくれて、日付も決めて集会室も抑えてくれていた。即売会の当日も、サイズの選び方もアドバイスしてくれ、制服も体操服も迷わずに購入することができた。赤白帽に男女の形違いがあるなんて、その時初めて知った。


 その即売会では、カズ君と佑太は男の子同士で一緒に集会室内を走り回っていた。赤ちゃんの時に遊んでいたことなんて覚えてはいないようだけれど、それなりに仲良くしてくれそうで安心。


 それぞれの卒園式が終わり、4月に入ってからはカズ君ママとは頻繁に連絡を取るようになった。入学式の日の持ち物には指定されてないけれど、荷物になるから先にお道具箱や算数セットを親が持って行っておいた方がいいらしいとか、そういった細かい情報を教えて貰えてとても助かった。


 カズ君と佑太は男の子同士ということで、当たり前のように一緒に登校することになった。とは言っても、カズ君は放課後は学童に通うので、下校は別々。新一年生は入学後1か月くらいは帰りは先生が引率してマンション前まで送ってくれるので安心だった。


 集団登校ではない小学校なので、入学後しばらくは親が登校に付き添うのが当たり前になっていた。カズ君親子と一緒にマンションのエントランスで待ち合わせして、並んで小学校への通学路を歩き、子供達に通学路や通学マナーを教えていった。


 そして、子供達を無事に小学校の校門まで送り届けた後は、来た道を母二人でお喋りしながら歩いて帰って来る。佑太は幼稚園だったから、カズ君の通っていた保育園の話は新鮮だったし、カズ君ママとは歳も近かったから楽しかった。


 正直、佑太を産んで専業主婦になっても、たまに会うような友達というと学生時代や会社勤めしていた時の相手ばかりだった。一緒に子供を遊ばせたり、お話したりするママ友はいたけれど、どうしても子供繋がりでしかなかった。

 でも、もしかしたらカズ君ママとは子供の繋がりを越えた友達付き合いが出来るんじゃないかって、そんな気がして本当に嬉しかった。


「あんなに早く家出てるのに、毎日遅刻ギリギリらしいよ」


 GW明けからは子供達だけで通学するようになり、しばらくしてのことだった。初めての授業参観の為に学校へと歩きながら、カズ君ママが呆れたように言った。かなり余裕をもって早めに送り出しているのに、二人は遊びながら歩いているのだろう、通学に時間が掛かり過ぎているらしい。


「佑太にはジュニア携帯を持たせてるから、それで時間見るようには言ってるんだけどね」

「え、佑太君に携帯持たせてるの?」

「うん。下校時にコケて泣いて帰ってくることが何回もあったから。auのやつ持たせてる」

「分かった。auショップ行ってくる!」


 カズ君ママはソフトバンクユーザーだったから、ジュニア携帯はソフトバンクにもあるよとその日の私は確かに教えた。でも、その数日後に朝の見送りで出会ったカズ君のランドセルに付けられていたのは、佑太と全く同じ色のauのジュニア携帯だった。


 ――家から一番近い携帯屋さんがauショップだったから、かな?

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