第20話 チートの本領

 それからはあっという間だった。アマネとアダン率いる精鋭クラフターたちが、海沿いの崖を壁にして見る間に避難所を作り上げていく。天馬騎士ペガサスナイトたちは警戒のため周辺へと散っていった。


 保護された人々が集まっている場所には大テーブルが置かれ、水差しや切り分けられたフルーツが山盛りになっている。アマネが大容量のインベントリから放出したものだ。男も女もみずみずしい果実を幸せそうに頬張っている。


 彼らと一緒にメロンやバナナをつまみながら、少年二人は糸が切れたようにアマネが指示出しする様子をぼうっと眺めていた。


「間に合わせでいいから防壁建てて! あたしは内装やって家具置いてくるから、アダンは外よろしくね!」

「おう! 任せろ!」


 避難所を囲むように丈夫そうな壁がそびえ立ち、立派な門も設置された。内側には小規模ながら畑と果樹園が作られ、すでに苗も植わっている。三日で収穫できる作物だ。すでに自給の道がそこにできていた。


 問題は一気に解決した。アマネ基準の仮設避難所はトイレや風呂完備で快適。ベッドや椅子も全員に行き渡る数がある。あとは中央に台座と女神像を置けば、安全な拠点の出来上がりだ。


「ふう、とりあえずこんなもんね!」


 日暮れと共にアマネは作業終了を告げた。クラフターの一部は夕食の支度を始めており、卵粥や魚の塩焼き、野菜のスープといったラインナップがいい匂いをさせている。果実で軽く飢えを満たした避難民も、改めて空腹を感じて夕食の席についた。


 数日振りのまともな食事に、カイトがしみじみと言った。


「オレたち、離れるべきじゃなかったんだな」

「ああ。アマネの力は理解していたつもりだが、慢心があったんだろうな」


 戦闘職だけで身軽に偵察などと考えたのが浅はかだった。リクとカイトのパフォーマンスは、アマネのバックアップありきだったのだ。戦闘力なんて些細なこと。やはり最強はアマネだ。こんなの奇跡チート以外のなにものでもない。


「アマネ」

「ん?」

「すまん。本当に助かった」

「来てくれてありがとうな」


 食事のあとでリクとカイトはアマネに頭を下げた。アマネはへらっと笑って手を振った。


「いいって。二人とも頑張ったんでしょ? 今日はお風呂入ってゆっくり休んで」


 水浴びくらいはしたが、一週間近く風呂から離れていた二人にはとても嬉しい。リクは、ふと疑問に思ってたずねた。


「でもよく俺たちがここにいるってわかったな」

「クエスト受注したらガイドが出たの」

「「は?」」


 ぽかんと口を開けた二人に、アマネは吹き出す。カイトはともかくリクのこの表情は貴重だ。


「実はね……」


 アマネは「なんちゃってロビー」にショップ店員が降臨したことを話した。


「リクとカイトを連れて帰って、ショップカウンターでお買い物させればクエスト完了よ!」


 二人の硬直はまだ解けない。課金アイテムが実装されて女神が店員をやっているなんて、さすがに想定外だ。


「クエストって……アリなのか?」

「課金アイテム? 女神が直接クエスト? いや、確かに運営とか言ったけど、マジでそこまで?」


 リクが頭を抱え始めたのでアマネは苦笑し、テーブルを叩いて少年たちを追い立てた。


「ほら! さっさと風呂行って寝る! 疲れてんのよ、考えるのはあとあと!」


 色々気にはなるだろうが、二人とも安心して気が抜けたのだろう。アマネが雑務を終えて部屋を覗くと、リクもカイトもぐっすり眠っていた。それを見たアマネは目を細め、自分もベッドに潜り込んだのだった。






 翌朝、主だった者たちと相談の上、拠点の整備と拡張が決まった。今後この地は海洋進出のための第二拠点となる。ここまで【コトワリ】が浸透してしまうと、今後もエネミーの発生と人類の再生が続くはずだ。元の拠点のように生活と保護ができるようにしなければならない。


 追加の人員を募るために、天馬騎士ペガサスナイトが数人、中央拠点に戻って行った。最初の場所を中央拠点ケントルムと呼ぶことにしたのは、そこが地図上で島のほぼ中央にあることがわかったからだ。尚ネーミングは意味と語感で適当に選んでいる。


 第二拠点は西拠点ザフトとなる。島の面積を考えると、近い将来他の三方にも開発の手を伸ばさねばならない。再生人類が生まれる前に受け入れ態勢を整えておけば、犠牲者を出さずに済むはずだ。


 リクは朝から付近のパトロールに出掛けた。エーファともう一人がペガサスでついて行った。今までの経験上、再生は夜明けとともに行われるようで、午前中に一定の範囲を見回れば保護は完了する。戦力が出払うことになるので、カイトはザフトで待機だ。


「昨日はお疲れ様」


 昨日はクラフターたちに長距離移動の上、作業を急がせてしまった。アマネはねぎらいの言葉をかける。だが一同は新しい環境にわくわくしているらしく、気力は充実していた。


「これくらいどうってことはない。で、今日は何から始めるんだ、親方?」


 アダンが代表してアマネに指示を乞う。アマネは笑顔で言った。


「ここ、ザフトの開発はみんなに任せるわ。好きなようにやってみて」

「えっ?」


 クラフターたちは目を丸くする。アマネは続けた。


「もう作業の仕方はわかっているでしょ? まっさらなところで一から自分の町を作ってみたくない?」

「……親方ッ!!」


 クラフターたちの目がキラキラと輝いた。基礎も設計も全部任されるということは、アマネに一人前と認められたということだ。


「相談には乗るから、がんばって。みんながどんなものを建てるか、楽しみにしてるわ」


 おおーっ、と男たちの雄叫びが轟いた。

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