第17話 外周調査

「え? 足場作れば今からでも行けるんじゃない?」


 海を渡る可能性を相談したら、アマネはけろっとそう言った。さすがにリクもカイトもその返事は想定していなかった。


「マジか……」

「所々休憩所作りながら進めばいいと思うし。何なら海上拠点を……」

「「あー……」」


 リクとカイトは以前『クラフトオーダー』で見たアマネの海上都市を思い出した。そういう意味ではすでに実績がある。


「資材が足りるかって問題はあるけど、飛竜の足場を作るだけなら橋にしなくていいわけだし。建設用の足場は壊して回収リサイクルすれば何とかなるんじゃない?」

「飛び石みたいにするってことだな」


 確かに『クラフトオーダー』の【コトワリ】でならできる。溶岩の上でさえブロックを並べて渡って行けるのだ。拠点を建設しながら進むなら、女神像を設置して安全も確保できる。正直かなりいい方法に思える。


「海上が建設不可区域になっていなければ、だけど」

「試してみるしかないな」


 便利極まりないブロック組みだが、ゲーム上では容量制限もあってブロックを置ける場所に限界があった。現実世界でそれがどうなっているかはわからない。


「高度制限はどうだったんだ? バベルはどこまで積んだ?」

黒歴史バベル言うな! えっと、ゲームの高度制限は軽くオーバーしてたはず」

「……それ、軌道エレベータ作れるんじゃ!」


 カイトが目を輝かせた。確かに宇宙まで積めるかもしれないし、ゲーム理論のエレベーターなら一瞬で行き来が可能かもしれない。が、リクはさっくり切り捨てた。


「バティディアに壊されるブロックじゃ強度が不安だ」


 『クラフトオーダー』でもシナリオ中に拠点を襲ってくるモンスターがいる。建材は種類によって強度が決まっていて、砂や土の壁ではあっさり壊されてしまう。だから最初の時アマネは壁ではなく堀を作ったのだ。


「そもそも、せめて宇宙服が必要だろう。生身で静止軌道までいけるわけがない。ゲームの【コトワリ】がどこまで通用するかわからん。ロマンに走るにも限度がある。やるなよ?」

「やんないよ!」


 リクに釘を刺されてアマネはぷうと膨れた。限界への挑戦は魅力的だが、さすがに安全が確保できないような行動はしない。そんな高度になればきっとまた襲撃される。反省したのだ。アマネは話を元に戻す。


「まあ海は今度連れてって。ブロック並べてみるから」


 置けるか置けないかは行けばすぐわかる。何となく砂や土のブロックだと波に削られそうな気がするし、使えるブロックの種類も一緒に確認すればいいのだ。


 リクはうなづいたが、言い出したのは別のことだった。


「それもあるが、先に一度海岸線をたどってみようと思うんだ。今までは俺たちが長期間拠点を離れるのは不安だったが、狩猟班も増えたし防衛の目途もついた。今いるこの土地がどうなっているのか調べておきたい」

「大陸か島かもわからないもんな」

「うむ。さすがに俺のマップも全体が見えるわけじゃないからな」

「そっか。それによっては陸伝いで移動すればいいものね。あたしも行った方がいい?」


 リクは少し考えてカイトを顔を見合わせた。


「今回は偵察だし、行き先が決まってるわけじゃない。日限を決めて行けるところまで行ったら戻るよ」

「そっか。じゃああたしはいつも通り留守番ね」


 アマネは残念そうにうなづいた。新しい場所の探検についていけないのはちょっと寂しいが、仕方がない。いくら子供の体格でも、三人乗りだと飛竜も負担になるだろうと思って諦めた。


 かくして男子たちは飛竜で出掛けて行った。しかし二人は帰還予定日を過ぎても帰ってこなかったのである。








 拠点を飛び立ったリクとカイトは、まずは先日到達した海岸を目指した。そこを起点にしてひとまず北へ向かう予定だ。


「このあたりはマップ表示されるようになったな」

「一回通ったからか? もしかしたら一定範囲を回れば全体マップが見れるようになるかもな!」


 特に問題はなく海につき、いったん休憩を入れて再び飛び立つ。初日はそんな感じで、日暮れに合わせて近くの平地で一泊することにした。アマネが色々と持たせてくれたので、それで食事を済ませる。アマネほどの収納力はないが、リクもカイトもそれぞれにインベントリは持っているのだ。


「本当なら最初にこうしてキャンプするはずだったんだな」

「二日で風呂、トイレ完備の家ができるんだもんなあ」


 二人用のテントはアマネの手作りだ。行軍という形でシステム的に戦場に向かう『紋章』には、テントなどというアイテムはない。宇宙船と転送システムの『SOO』はもちろんだし、宿泊場所はブロックで作る『クラフトオーダー』にもテントはなかった。


 そこでアマネはクラフトした物品を流用し、手縫いでテントを仕上げてくれたのである。作業台もメニューも使わない製作風景にアダンは目を見開いて固まり、「これこそ『創造』だあっ!」とアマネの前にひれ伏して拳骨をくらっていた。寝袋も同様にクラフトした布団を改造したものだ。


「あいつ元々料理や手芸が得意だったもんなあ」

「ハロウィンにはコスプレ衣装作ってたくらいだしな」

「オレも何か手伝えることないかな?」

「急にどうした?」

「なんかさ、オレだけ拠点でやることないしさ」


 カイトは誤魔化すように笑った。


「気にしてるのか」

「……まあ、ちょっと」


 アマネは拠点の主でありクラフターたちの頂点だ。生活の大部分を彼らが支えている。そしてリクは邪神の残滓エネミーと戦う人材を育成している。戦闘特化のカイトは、拠点では手持ち無沙汰だ。『SOO』ステータスの者が一人も見つかっていないことも疎外感を覚える一因だろう。だがそれについては、リクは何となく思いあたる理由がある。


 アマネ抜きで男だけになったから素直になったのか。リクは小さく微笑んだ。カイトには元気一杯でいて欲しい。


「お前がいるだけで皆が安心する。システムに引きずられすぎだ。暇なら、アマネにギターでも作ってもらえ」


 リクとカイトは元の世界を覚えている。今便利に使っているスキルは、仮想世界ゲームのものだと理解している。だから選んだシステムにないことでも、努力すればできるようになるのだと知っている。


「『クラフトオーダー』に楽器あったっけ?」

「ある。今は拡張期だから優先度が低くて作ってないだけだ」


 リクはカイトがギターを弾けることを知っていた。だから勧めておく。


「丁度いい。芸術や娯楽方面にはまだ手が回らないんだ。演奏会でもやれよ。きっと皆喜ぶ」

「えー……う、うん。それなら練習しないとな」


 アクションバトルが得意だからと戦闘力を選んだカイトだが、そればかりでは心が荒む。音楽はいい気分転換になるだろう。小さな戦神と思われているカイトが楽器を奏でるというのは、ファンのお姉様方にもギャップ萌えというものだ。


 どうやらやる気になっているようだし、懐かしい曲が聞けるならアマネも自分も嬉しい。よし、帰ったら外堀を埋めておこうとリクは心に決めた。

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