参
羽田空港は国際線と国内線で駅名や
今回は国内線という事もあり翠は国内線側のビルのマップを最初に調べようとしたのだが、資料を読んだ結果、マップの情報は
今回の荷物は
そんな訳で
「こちら
『こちら
翠はスマホで周囲から浮かない一般的な単語で会話をし、朱夏はイヤホンマイクから具体的な単語で情報共有を図っている。
空港ビル内の休憩コーナーでテイクアウトのサンドイッチとコーヒーを片手に時間調整をしている客の
……
サンドイッチをコーヒーで流し込みながらそんな事を考えている間にフライトの時間が近づいて来た。
翠は適当に仕事場へ向かって歩いているフリをしながら搭乗口へ向かう。
護衛の
『観察する理由が有るって楽ね』
「そろそろ現場だ」
ガラス張りの搭乗口から既に着陸した飛行機は見えている。
現状で翠や四鬼にも
基本的に現場ではペア行動の四鬼だ、武器を持った黒服のペアなど空港では非常に目立つ。
適当に歩き回る翠は6ペアの四鬼を確認した。
「結構大変だ」
『事前情報通りよ』
「
『報酬が良いからでしょう』
正論で返されては何も言い返せない。
翠は
既に荷物を降ろすために後部ハッチが開きタラップや大型フォークリフトが飛行機に群がっている。四鬼が警護する荷物も
「こっからが本番かな」
『盛り上がってまいりました』
「どこがかな?」
溜息を吐いて翠はイヤホンマイクを起動しスマホとリンクさせる。
ここからは一般人の
荷物の運び屋は四鬼に警護されながら飛行機から少し離れた位置に停まった車へ乗り込んでいく。そのまま敷地外へ出て行けるようになっているのか車は敷地外へ向けて
その様子を視界の
『その先の扉を抜ければ一般棟へ出て車の進行方向に行けるわ』
「了解」
朱夏の指示に
扉を抜ける為にクセで周囲を見渡し不審者が居ないかを確認するが専門の訓練を受けた訳でも無い。
多少の見落としは有る
「男、3人。中国系2人とインド系1人だ」
『んっと、
「
『鬼なら大陸の魔装3体なんて
「正しくは鬼じゃないんだって」
泣き言を言いながら翠は3人が自分と同じ様に車を追う方向へ歩き始めるのを確認し、方向が変わらない限り追い掛ける事にした。
他に不審者も居るかもしれないが四鬼だって数を揃えている。翠が1人で複数の
……本職の鬼なら魔装3体相手に立ち回れるんだろうけどな。
日本の鬼は他国の
妖魔1体を相手に魔装使い3人で
リスクを
世界的に異常とも言われる性能を持つ鬼、それが6体も投入されている時点で今回の仕事に対する力の入れようは翠にとっては
足早に男3人との距離を詰め、左手の手袋に意識を集中する。
……魔装、左腕、限定展開。
それにより
周囲に
直前まで左腕を自分の身体で隠し相手ではなく周囲から何が起きているのかを隠す。
狙い通りに男達は腹に切傷を負うが仕事の
多少の
『積荷は順調に敷地外へ移動中よ』
「さあて、鬼共は仕事してくれてるかな?」
『真面目にお仕事中よ。あれだけガッチリカバーされてるとどうにもならないでしょうね』
「積荷の
『まだ安心は出来ない?』
「ああ。面倒な仕事ってのは最後まで面倒なもんだ」
『納得だわ』
最初から反論する気も無い朱夏の様子に関心しつつ翠は魔装を解除し怪しまれない速度に歩を
積荷に張り付く事は出来ないが一般の駐車場なら積荷は遠目に視認する事が出来る。
出来る範囲で対応が可能な場所に移動する。
『それにしても、こんな位置情報が私たちに
「ハッキングされるって? それも
『マジで?』
「なんならこの会話も敵味方両方にモニターされてるかもな」
『うっわ、大人って怖い』
全くの正論に翠は小さく笑い駐車場から発着場へ目を向ける。
事前に通達されていた特別便からの運び屋は
「いやー、やっぱ見えないか」
『モニターは続けてるわ。移動速度的に車かしら』
「敷地内か?」
『そろそろ出るわ。あ、出た』
「……異常無し。仕事はここまでか」
『そうね。
「ああ。さっきの連中に追われるのも面倒だ」
『了解。切る?』
「ああ。後で会おうぜ」
通話を切ってその場を後にする。
ハッキングされている場合、蒲田の事務所が襲撃される可能性も有る。
翠からすれば朱夏は
念の為に適当に
蒲田では
時刻は14時半。
遅めの昼食も済んで満足した翠だがスマホが着信で
連絡主は依頼人だ。
「はい?」
『仕事完了、お疲れ様』
「ああ、
『ええ。全く、ハッキング対策は全部コチラ任せだったわね』
「ああ、やっぱりハッキングされてたのか」
『そりゃね。貴方から積荷の情報が
「ハッカーでもPCの専門家でも無いんだ。俺に依頼するならそれくらいは
『ええ、だからハッキングさせて貰ったのだも。可愛い
「もしかしたら今頃、事務所はボロボロかもな」
『助手ちゃんは
「有り得るよな」
『クズね』
「仕方ねえ。完全に非合法なんだぞ」
『ま、関わっちゃいけない人種なのは確かね。報酬は約束通り振り込んでおくわ。また仕事を振る事が有ればよろしく』
「今後ともご
区役所に寄ってボランティアの情報が無いかを探し、特に無いようだったので駅ビルの本屋に入る。
雑誌を
特に襲撃された様子も無く、しかし今夜襲撃されたら面倒だと思いながら事務所の扉を開けると
……席を外している? それとも
普段は
映画やドラマなら着信が有って誘拐犯から連絡が有るシーンだ。
しかし特に連絡が有る事も無く、ノートPCは普通に立ち上がり動画配信サイトで普通に映画も見れる。
……依頼人の防御が優秀だったか。事務所の
鬼が6体も投入される仕事というのはそれだけリスクの有る仕事だ。
知るだけでもリスキーで、相手も
しかし意外にもここまで警戒した
朱夏と合流する事も無く前から見たかったスパイ映画を2時間
念の為に連絡相手だけ見ると依頼人だ。
いつ連絡先を交換したのか不明だが仮にも個人のスマートフォン、勝手に通話に出るのも
直ぐに翠のスマートフォンに依頼人から着信が入る。
「え、何、どうした?」
『いや、少しはお嬢ちゃんの事を心配してあげなさいよ』
「いやいや、ただの家政婦だぞ。仕事以外で
『人で無しね』
「仮にも犯罪者だぞ」
『まあ良いわ。朱夏ちゃんの部屋に来なさい』
「年頃の娘の部屋に入るのは気が引けるんだが」
『何を
「いや、セクハラとか言われたら嫌じゃん?」
『……嫌な時代になったわね』
「それな。まあ良い。朱夏の部屋だったな」
『ええ。さっさと行きなさい。それじゃあね』
本来は業者向けのテナントビルだが個人で借りて住居として扱う事も可能だ。
依頼人の指示通りに部屋に入ろうとドアノブに手を掛けると鍵も無いので抵抗無く開いた。背後から襲われては
「……え~」
「んんっ!? んん~~~!!」
部屋の中は普通の単身者用マンションの1室のようにベット、机、椅子、テレビが有る程度だ。
朱夏はその椅子に手足を縛り付けられ、
長時間
服ははだけて胸が見えておりバイブが取り付けられている。ショーツで隠れた
ただ電池切れなのか特に振動している様子は無い。
顔は鼻水、涙、涎でグチャグチャになっており、その上で発情したように
……そんな簡単にここまでになるか? 薬でも使われたか。
そんな風に
『見た?』
「見た見た」
『優しく
「おたくは
『可愛かったから、つい』
「この変態レズビアンめ」
それだけ言って通話を切る。
話の内容を理解して
まずは猿ぐつわを外してみると荒く息を吐く。
「あの、女! 殺、してやるっ!」
「いや、スゲーな」
「薬でも盛られたか? オモチャだけじゃここまでグシャグシャにならないだろ?」
「薬、盛られ、たっ」
「へぇ」
電池の切れたバイブを胸から外してやり、
「んんっ」
面白いように反応して背筋を
「ちょっ、止めて!」
「船での続きでもするか」
「はあっ!?」
これ以上は後が怖いので悪戯は止めて椅子に縛り付けている
足腰に力が入らないのか立ち上がろうとして直ぐに倒れる。
「あの、女っ!」
「まあ、止めないから次に会う時に好きにやれ」
「言われなっ、くても!」
「あ~、1人にした方が良い?」
「……風呂。部屋、
「……まあ、いっか」
このテナントビル、トイレは各部屋に有るのだがシャワールームは3階の共有ブースだけだ。
元々がテナントビルなので居住者ではなく時々使う事を前提としている。一応鍵は掛かるが男の筋力なら強引に壊す事は可能だ。
翠に襲われる可能性はゼロではないが、朱夏の見立てでは翠は自分に性的な興味が無い。その為、
朱夏が部屋を出て行くのに合わせて翠は2階の事務所からバケツ、
ワイパーと雑巾で適当に床を
臭いだけは直ぐに取る方法が無いのでずっと
30分ほどで朱夏が私服姿で
「……ありがと」
「まあ知り合いが迷惑かけたみたいだしな」
「殺すけど、良いんだよね?」
「ああ。あの女は俺にとっても味方って訳じゃない。
「そう。良かった」
まだ薬の抜けていないのか顔は少し赤いし呼吸も大きい。
それでも鬼の訓練で習得した
その割に近くに居る翠は熱を感じないが、彼女の
「おお、
「魔装は実家に置いて来たけど鬼技は魔装に関係無いからね」
確認出来ただけで充分なので左手に纏うマグマを適当に手を振って消し朱夏は翠に向き直った。
「今日はもう寝たいんだけど」
「はいよ。お疲れさん」
夕食もまだだろうが疲れ切ったのだろう。
殺意に満ちた目を隠しもしない朱夏を刺激するのは面倒だったので翠は直ぐに部屋を出て近所の牛丼屋で夕食を済ませる事にした。
丼を
……一応は
依頼人の連絡先を開いてメッセージを送る。
下手に朱夏に
直ぐに既読が付く事は無かったので適当なタイミングで読むだろう。
仮に読まずに朱夏に溶かされても翠は特に困らないので放置する事にした。
シャワールームに行けば最近の常で朱夏が愛用するシャンプーやボディソープの甘い匂いがする。
あまり好きではない匂いなのだが
スウェットで事務所の奥に有る自室に戻り特に何をするでもなくベッドに寝転んだ。
……影鬼からの依頼じゃなかったが、影鬼には把握されてるだろうな。
特に影鬼側に隠す気は無い。
そもそも影鬼からの仕事に
ただし、それは影鬼本家からの文句が無いというだけだ。
恐らく分家や影鬼本家に取り入りたい連中からすれば
というか数年に1回はそういうヤツが出てくる。
……朱夏が切っ掛けで面倒が起きたら見捨てよう。
人で無しだが
考えるのも面倒になってきたのでもう寝る事にして目を
21時。
成人男性が寝るにはかなり早い時間だが寝ると決めたら寝られる時間だ。
翠は無駄に何かを考える事も無く意識を手放した。
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