前回とことなりさくまれた異界いかいは純和風だった。不均一ふきんいつ石畳いしだたみ千本鳥居せんぼんどりいのように何本もの鳥居とりいつらなった通路は奥を見れば途中で枝分えだわかれしている。


……前回は1本道だったが、今回は多少時間が掛かりそうだ。


 面倒な事が確定して溜息ためいきいた裂の背後で同時に溜息が聞こえた。

 何事なにごとかと裂がかえれば自分と似た表情をしたかすみが肩を落としている。


 特にかまう理由が無い裂は彼女を放置し先へ進む事にした。

 前回はおにだと知られていなかった為に積極的に前に出てもらう事が出来たが今回は違う。

 この環境では確実に前に進む為にも積極的に裂の後衛に回るだろう。本来、鬼と黒子は前衛と後衛なのだから。


「邪魔にはなりませんから置いて行かないで貰えますか?」

「……はぁ」


 溜息を吐いて裂が注視すると目をほそめた霞が居た。腕を組み右手には札を3枚下げるように持っている。組んだ腕がその豊満ほうまんな胸をげているが自覚は無いようだ。


「何の用だ?」

「ここを私1人で突破とっぱする力は有りません。ここを出るまでで構わないので協力して貰えないでしょうか?」

「……ここを出たら?」

「まずは相談の場をもうけ」

「断る」

「仕方ありません。それは出てから決めましょう」

「協力要請には賛成する。黒子くろこのサポートが有れば多少は楽に戦える」

「交渉成立ですね」


 年不相応としふそうおうほがらかな笑みを浮かべる霞に胸中きょうちゅう溜息ためいきき裂は前を向いた。


「俺が前衛、そっちが後衛。雑魚に魔装まそうは使ってられない。ボス相手に足手纏あしでまといは連れていけない。これで良いな?」

「分かりました。前衛、よろしくお願いしますね?」


 前回の仕返しかえしかみを隠さない霞に再度溜息を吐いた裂が歩き出す。

 鳥居で出来た通路、鳥居と鳥居の隙間すきまがどうなっているのかと手を伸ばしてみれば硬い不透明な壁があった。手をばせばコンクリートのような硬く冷たい手触てざわりりだ。


 その感触に突破は不可能だと判断した裂は気を取り直して通路を進む。

 鳥居の中には燭台しょくだいを持つ物も有り太めの蝋燭ろうそくに火がともっている。その明かりをたよりに先を見ながら通路を進むが、前回のように小型の妖魔が徘徊はいかいしている。


「先制攻撃頼む」

「分かりました。せる為のジャブ程度ですよ?」

「それで良い」


 霞が起動の速さをかし、その為に打撃力の低い札を起動させる。

 左手を銃の形にして起動した札は直線で飛び、鬼火のような炎だけの小型妖魔に着弾した。


 2人の存在に気付いた妖魔が鬼のような口を開き何かを叫びながら前衛の裂へ突撃してくる。


 右拳を腰へめた裂は左拳で鬼火の突撃を身体からだの左側へらし、隙だらけの鬼火へ右拳による正拳せいけんきを中心へ叩き込む。

 たった一撃で形をたもてなくなった鬼火は霧散むさんし消滅する。

 その様子をながめていた霞が目をすわらせながら裂を賞賛しょうさんした。


「流石、新種の妖魔を倒す程の鬼ですね。小型妖魔を生身で瞬殺ですか。これなら今も前も後衛なんて必要なさそうですね?」

「……先を急ぐ」

「え、ちょっ、待ってください!」


 あまり霞に口を開くタイミングを与えてはならないと学習した裂は先を急ぐ事で霞の口を塞ぐ事にした。


 新たに進路を塞いだ武者むしゃのような槍を持った妖魔2体。1体目が槍を振るう前に踏み込みあごを左拳で打ち上げる。抵抗出来ない妖魔の腹へ向け正拳突きでダメージを与え、首をつかんで2体目へ投げつける。

 抵抗しようと構えていた槍に1体目が突き刺さって2体の動きが止まる。


 一気にってんだ裂は思い切り身体をひねり右足による後ろ回し蹴りで1体目の首を粉砕ふんさいした。着地と同時に2体目の右側に回り込み、掌打しょうだを腹へたたむ。

 1体目が黒いきりのように消滅していき視界をふさぐのを利用して更に強くみ、右拳で2体目の顔面を粉砕ふんさいする。

 障害しょうがいが無くなった事で残心ざんしんくずさないまま身体の力を抜くように息を吐く。


「……ふぅ」

「凄くさまになってますね。灰山はいやま家の格闘術ですか?」

「灰山の道場は俺の爺さんの代でたたんでいる」

「ならその拳法けんぽうは?」

我流がりゅう

「……その割に灰塵鬼かいじんきの特性に合った拳法に見えましたよ?」

「必要だからけた」

「そ、そうですか」


 冷たい言い方だが、だからこそ霞はそれが真実だと確信し閉口へいこうしてしまった。


 霞から見た灰塵鬼の少年の印象は1つ。

 優先順位が明確な少年だ。

 迷いが無く必要な事に必要におうじて対処する。その為に必要な技術だけを選定せんていし他は切り捨てている。


 今も自分との対話は必要最低限であり雑談や友好的な会話は無い。かれみちでも言葉での相談は行わず手で進む先を示し、霞が否定して初めて対話におうじる事しかしない。


「君、友達少ないでしょ?」

「……今必要か、その話題?」

「人とはちゃんと話すべきですよ。いざという時に助けてもらえませんから」

「それは求めてない」

「貴方が異端鬼いたんきなら、何としてもかなえたい願いが有るのではないのですか?」

「助けて貰いながら叶えたい願いが無い」

「1人じゃ叶えられない事の方が多いですよ」

「1人で叶える意味が有る願いならある」

「だからって」

「敵だ。札を構えろ」

「……分かりました」


 鬼の顔をした炎が3体浮いて徘徊してる。

 裂が眼前がんぜんで1度左手をにぎみ構える。

 その背後で霞は右手で札を3枚指にはさむ。


「引きつけます」

「任せる」


 振るわれた札が流水を思わせる青白い光のを引き鬼火へ曲線を描く。

 3体の内の1体に1枚が、2体目に2枚が着弾する。


 3体目だけは無傷だが裂が気にする様子は無い。

 着弾のタイミングに合わせて大きく踏み込み2枚が着弾した個体を右拳で打ち上げる。振り抜いた勢いを殺さずに身体を回し左拳で1体目へ裏拳うらけんを放つ。


 無傷のまま2体を消滅させた裂は無傷の3体目へ視線を向けないまま大きく霞の方へ後退した。

 同時に裂が直前まで立っていた場所を小さな火球が通り抜け鳥居に着弾する。不思議な事に着弾した火球は燃え広がる事も消える事も無く残り続けた。


 舌打したうちした裂は鬼火と霞と自分が直線にならないよう位置に注意を払いながら鬼火との距離を詰める。火球を連射できない鬼火に対し裂は火球の回避直後には大きく、それ以外では小刻こきざみに前進し鬼火へ肉薄にくはくする。


 拳が届く距離まで近付く必要は無い。

 裂は鬼火まで3メートルの距離で前進を止め、大きく右拳を振り抜いた。

 拳の鉱物こうぶつ薄緑うすみどりの光を放ち鋭く尖った光の槍が鬼火に突き刺さる。その槍は刀身を破裂させ鬼火を内側から破壊した。


「鬼が生身で放つ妖気による技、鬼技きぎですか」

四鬼しきじゃそう言うんだったな」

「鬼としての力の種類の問題でしょうね。四鬼は体術にひいでた者が多いですから」

「影鬼は違うと知っているみたいだな」

「ええ。鬼の情報収集、好きなんですよ」


……しゃべきな奴だ。


 影鬼かげおにの事情を調べるつもりなのか霞の口数くちかずは多い。

 付き合い切れないとばかりに溜息を隠さず裂は先を急いだ。


「それにしても、こんなに妖魔があふれる空間があっただなんて」

「……」

「これが人間界だったら完全にパニックですね」


 確かに現実世界では小型でも大型でも妖魔が1ヵ所に固まる事は無い。基本的に大型であれば1体、小型な物でも3体程度だ。

 しかし前回のステルス妖魔事件の際にも同様だったが閉鎖へいさされているこの空間は妖魔であふかえっている。

 おに黒子くろこのように妖魔にしたしんだ者たちならば最低限の冷静さはたもてるだろう。

 裂のように平常心で対応できる者はかなり限られるはずだ。


……俺だって完璧に平常心とはいかないけど、この巨乳黒子もきもわってるな。


 裂としても霞の適応能力は評価している。

 普通の黒子は数人掛すうにんがかりで小型妖魔に当たり鬼が現着げんちゃくするまでの時間稼ぎにてっする。しかし彼女は前回、独力どくりょくで10体近い小型妖魔を討伐とうばつしている。更に現在も鬼である裂が同行しているとは言えパニックを起こす様子も無い。


 意外に優秀な人材を発見した事に口角こうかくげた裂は霞に見られないように気を付けながら前に前に進む。


 妖魔が見つからない。

 裂は不審に思いながらもゆるめないが、不意に足を止めた。


「どうしたんです?」


 霞から見ても通路に不審な点は無い。

 今まで通りに鳥居が続く通路だが、裂が足を止めた事で彼女も警戒心を強くした。


おもてで感じた気配だ」

「え?」

「あの般若面はんにゃづらに長い黒髪の妖魔だ」

「……妖魔の姿が見えたんですか?」

「は?」

「私には妖魔の姿は見えませんでした」

「……何か条件がそろわないと見えないのか」

「そうみたいですね。それで、この先に居るんですか?」

「恐らく」

「なら、私はここで待っていますね。通路が先に続いていれば合流する。どうです?」

「それで良い」


 軽く息を吐いた裂がグローブの感触をたしかめなおし何も変化の無い鳥居の道に踏み出していく。


「気を付けてね。子供に戦わせる私が言えた立場では無いですが」


 それでも子供を本気で心配する善良ぜんりょうさはこのましかったので裂は何も言わずに先に進んだ。

 一歩進むたびに感じる気配が濃密のうみつになっていく。

 けもの吐息といきを直接受けているような不快感ふかいかん鳥肌とりはだが立つが裂のあゆみは止まらない。


 恐怖心が無い訳ではない。

 それでも彼は恐怖で足を止められる程、一般的な精神は持ち合わせていなかった。

 いくらか歩いてみれば一際ひときわ大きな鳥居が有り、そこが境界だと分かる。

 奥は崩れた鳥居で出来た円形のまりだ。前回の妖魔と同じく袋小路ふくろこうじにして闘技場とうぎじょうなのだろう。


 裂は身体の緊張をほぐすように首と肩を大きく回して関節を鳴らし、拳を打ち付け魔装まそうを呼び出した。

 周囲を警戒しながらゆっくりと闘技場の中心に向けて歩を進め、背後の大鳥居が崩れて退路が塞がれていくのを見た。


 その瞬間にさく改め、灰塵鬼かいじんきは横に大きく退く。

 それは本能的な危機感から来る行動で何かを察知した訳では無い。

 それでもその本能的な行動は彼の命を救った。


 闘技場の中央、灰塵鬼が立っていた場所に上空から真っ黒な影が破砕音はさいおんともなって着地する。真っ黒な着物につやの有る長く乱れた黒髪を振り回し、1メートルを超える10本の爪を突き立て床を破壊した。


「灰山君の言う通り、本当に居たのね」


 背後、瓦礫がれきの奥から聞こえた声に『結局来たのか』と溜息ためいきいた灰塵鬼は正面に右半身をさらした真っ黒な妖魔を見据みすえ拳を構えた。


 踏み込む。

 爪を床に突き立て動きの鈍い今が好機とした灰塵鬼は妖魔の肘を逆方向へるように右拳を振るう。


 身構えていた妖魔が肘を器用に曲げて迎撃した事で大したダメージにはならなかったが、右の爪は更に床へ食い込み妖魔の動きを阻害そがいする。


 それを利用して左拳によるフックで曲げられた右肘を側面から殴打おうだ、更にみぎ肘刃ちゅうじんによる斬撃を放つが強引に爪を引き抜いた妖魔の前腕を薄く切るにとどまった。

 人外じんがいの巨体と正面から殴り合う訳にはいかない灰塵鬼は後退し妖魔と相対あいたいした。


「っ」


 短い呼気こきを吐き出して突撃した灰塵鬼に妖魔の爪がせまる。

 左肩をねじらせ袈裟切けさぎりに振るわれる爪を右側に身体を沈ませる事でかわし灰燼鬼は前に出る。そのままふところに踏み込み右ブローで左脇を打つ。


 体格差から来る妖魔の頑強がんきょうさがそのダメージを無視させた。灰塵鬼の攻撃など無かったかのように右腕の肘を大きく曲げて自分の懐へ爪を振り下ろす。


 灰燼鬼もバックステップで躱して直ぐに前に出る。妖魔の右肘を左拳で打撃しながら更に踏み込んだ。敵の左わきけるように通り左脇へジャブを飛ばしながら背後を目指す。


 妖魔とて簡単に回り込ませるような事はしない。左腕を背後へ向けて薙ぎ払うように振り死角しかくつぶそうとまわる。


……踏み込み過ぎて、間合いを詰め過ぎた。


 既に躱せる位置ではない。

 妖魔は五指を開いて広範囲を払えるように腕を振っている。


 灰塵鬼は左腕を盾にし爪を出来る限り根元ねもとで受けるよう踏み出していた脚を抑え込む。指の根本に可能な限り近い位置で左肘刃ちゅうじんを妖魔の爪に当て腕力に乗るように小さく右側へねる。


 ダメージが無い訳ではないが、それでも無理に受け止めるよりはずっと良い。

 灰塵鬼は鎧ごと妖魔の腕力でばされ距離を取らされた。

 妖魔の膂力りょりょく退けられて床をすべり止まった灰塵鬼は改めて妖魔と相対した。


……正面から向き合うとよく分かる。


 般若面はんにゃづらの左右のまゆより少し高い位置から赤い角がそれぞれ生えている。

 黒い着物の下には白と赤の着物も見えており複数の着物を重ねている事が分かる。手首まで隠れた腕はしわあかおおわれ長い爪はばんでまともに手入れがされていない。


……お歯黒はぐろか。それなりに身分は高いか?


 観察はそこまでだった。

 灰塵鬼は般若面の背景はいけいに一切興味をいだかずんだ。

 彼我ひがの距離は7メートル程度。

 おおよそ5メートルの体格に1メートルの爪を持つ妖魔の方が圧倒的に間合いが広い。


 灰塵鬼が間合いをる前に般若面が横薙ぎに左爪を振るい牽制けんせいする。


 般若面の一撃をまともに受け止める事は出来ない灰塵鬼は横薙ぎの一撃を後退してけるしかない。眼前を爪が通り過ぎた瞬間に再度踏み込み般若面の爪の内側を目指す。


 拳を武器とする身軽な灰塵鬼は次いではなたれた袈裟切けさぎりの右爪を左に沈みながらかわし、懐に辿たどいた。

 右爪を振り下ろし下がったあごを左拳で打ち上げ、顔を打ち上げられて無防備むぼうびに成った腹部へ右拳を突き刺す。ひねりを加えた左フックを脇腹へ放ち右肘刃で逆の腹を切り裂きながら退ける。

 距離が出来たが、今ならば般若面は無防備だ。


さばく」


 右拳を腰溜こしだめに構え前に伸ばした左手をゆるく開いて般若面との距離をはか目安めやすにする。

 肘関節に仕込まれた緑色の球体がスラスターとして推力すいりょくはっし、同時に右肘刃が灰をむように伸びていく。

 強く踏み込みながら推力に乗った灰塵鬼の身体が般若面の懐に飛び込んだ瞬間、ねる。


「ぜぃああぁっ!!」


 般若面の顎を目がけて振るわれた拳は空振りだ。

 しかし伸びた右肘刃が拳の軌跡きせきを追い般若面の胴を顔面に向けてく。

 スラスターの推力に逆らわず跳躍ちょうやくした灰塵鬼のやいばは深く般若面の肉にみ下から首まで届く。


 拳を打ち上げた勢いを殺さずに腰の回転につなぎ左後ろ回し蹴りの姿勢を取った。推力を落とさない右肘のスラスターの角度を横向きに調整し左脚に力を込める。


 縦から横に向いたスラスターの推力を上乗せした回し蹴り、そのかかとに灰がつどう。

 身体からだひねりながら一瞬でもる灰燼がやいばとなってにぶく光る。


 刃は抵抗無く般若面の首に突き立った。


 肘刃ちゅうじんで下から首まで届く斬撃に真横からの斬撃で般若面の首は完全にばされる。

 長い髪がを引きちゅうを舞い硬い床に落ちた瞬間に肉が打ち付けられる嫌な着地音を響かせる中、灰塵鬼は脚刃きゃくじんを一瞬で崩壊させて着地した。

 その着地をさかいに周辺の鳥居で作られた風景が少しずつ薄くなる。


「迷宮のあるじを倒したんですね。前はこれで現実に帰還きかんできましたが」

「今回も同じとは限らない」

「物事は慎重に、ですか」

「……慎重に成り過ぎた」


 周囲の風景が完全に元の廃工場入口付近に戻った時、灰塵鬼の魔装まそうを解いた裂がつぶやいた。

 そこにはどこか残念そうな溜息がじっており裂にとっては物足りなさの残る妖魔だった事がうかがえる。


「さて、灰山君」

「じゃ、おつとめ頑張ってくれ」


 霞が何かを言う前に裂は言葉を被せ早々に門へ走り2メートルの高さの壁、その横を目指す。

 地面を強く蹴ってコンクリートの壁から突き出したポストへがり、ポストを足場にして更に高く跳躍して門を飛び越え外に着地。そのまま霞が門に手を掛けるも無く走り去る。


「ちょっ、次こそは話を聞かせてもらいますからね!!」


 背後で叫ぶ霞を無視して裂は廃工場から目視もくしされないように細い路地ろじを曲がって帰路きろいた。


▽▽▽


 6月2日、18:10の表示を見て裂は首をかしげる。

 般若面はんにゃづら討伐とうばつした異界いかいには体感で2時間以上は居たはずだ。


 西八王子に着いたのが16:32、廃工場まで30分程度、廃工場内で30分程度。この時点で17時半程度の為、裂の感覚では現在は19時半~20時程度のはずだがそれにしては空が明るく時間を確認し、再度首を傾げる。


 何が起きているかは分からないがまずは麻琴に電話をする為、慣れ親しんだ操作で麻琴の連絡先を呼び出した。


『こちら伏魔殿ふくまでん。さて、言い訳くらいは聞きましょうか?』

「言い訳」

『冗談が過ぎると妖魔の巣に放り込むわよ』


 思いのほか、麻琴の声が低く裂は早々そうそう茶番ちゃばんあきらめ話を先に進める事にする。


「いや、報告ではなく言い訳?」

『また黒子と一緒だったでしょう。何をしていたのかしら?』

「また一緒にステルス妖魔に巻き込まれた」

『凄い確率ねぇ?』

「あの巨乳黒子が呪われてんじゃねえか?」

『アンタと同行してる時だけね』

「え、何、嫉妬しっと?」

『確かに、私の鬼を勝手にたてわりにされるのは業腹ごうはらだわ』

「……えず報告させて欲しいんだが」


 もう茶番をはさむ気も起きず裂は素直に報告しようとしたが、何かのたび茶々ちゃちゃを入れる麻琴に苦労させられるのだった。

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