漆
前回と
……前回は1本道だったが、今回は多少時間が掛かりそうだ。
面倒な事が確定して
特に
前回は
この環境では確実に前に進む為にも積極的に裂の後衛に回るだろう。本来、鬼と黒子は前衛と後衛なのだから。
「邪魔にはなりませんから置いて行かないで貰えますか?」
「……はぁ」
溜息を吐いて裂が注視すると目を
「何の用だ?」
「ここを私1人で
「……ここを出たら?」
「まずは相談の場を
「断る」
「仕方ありません。それは出てから決めましょう」
「協力要請には賛成する。
「交渉成立ですね」
「俺が前衛、そっちが後衛。雑魚に
「分かりました。前衛、よろしくお願いしますね?」
前回の
鳥居で出来た通路、鳥居と鳥居の
その感触に突破は不可能だと判断した裂は気を取り直して通路を進む。
鳥居の中には
「先制攻撃頼む」
「分かりました。
「それで良い」
霞が起動の速さを
左手を銃の形にして起動した札は直線で飛び、鬼火のような炎だけの小型妖魔に着弾した。
2人の存在に気付いた妖魔が鬼のような口を開き何かを叫びながら前衛の裂へ突撃してくる。
右拳を腰へ
たった一撃で形を
その様子を
「流石、新種の妖魔を倒す程の鬼ですね。小型妖魔を生身で瞬殺ですか。これなら今も前も後衛なんて必要なさそうですね?」
「……先を急ぐ」
「え、ちょっ、待ってください!」
あまり霞に口を開くタイミングを与えてはならないと学習した裂は先を急ぐ事で霞の口を塞ぐ事にした。
新たに進路を塞いだ
抵抗しようと構えていた槍に1体目が突き刺さって2体の動きが止まる。
一気に
1体目が黒い
「……ふぅ」
「凄く
「灰山の道場は俺の爺さんの代で
「ならその
「
「……その割に
「必要だから
「そ、そうですか」
冷たい言い方だが、だからこそ霞はそれが真実だと確信し
霞から見た灰塵鬼の少年の印象は1つ。
優先順位が明確な少年だ。
迷いが無く必要な事に必要に
今も自分との対話は必要最低限であり雑談や友好的な会話は無い。
「君、友達少ないでしょ?」
「……今必要か、その話題?」
「人とはちゃんと話すべきですよ。いざという時に助けてもらえませんから」
「それは求めてない」
「貴方が
「助けて貰いながら叶えたい願いが無い」
「1人じゃ叶えられない事の方が多いですよ」
「1人で叶える意味が有る願いならある」
「だからって」
「敵だ。札を構えろ」
「……分かりました」
鬼の顔を
裂が
その背後で霞は右手で札を3枚指に
「引きつけます」
「任せる」
振るわれた札が流水を思わせる青白い光の
3体の内の1体に1枚が、2体目に2枚が着弾する。
3体目だけは無傷だが裂が気にする様子は無い。
着弾のタイミングに合わせて大きく踏み込み2枚が着弾した個体を右拳で打ち上げる。振り抜いた勢いを殺さずに身体を回し左拳で1体目へ
無傷のまま2体を消滅させた裂は無傷の3体目へ視線を向けないまま大きく霞の方へ後退した。
同時に裂が直前まで立っていた場所を小さな火球が通り抜け鳥居に着弾する。不思議な事に着弾した火球は燃え広がる事も消える事も無く残り続けた。
拳が届く距離まで近付く必要は無い。
裂は鬼火まで3メートルの距離で前進を止め、大きく右拳を振り抜いた。
拳の
「鬼が生身で放つ妖気による技、
「
「鬼としての力の種類の問題でしょうね。四鬼は体術に
「影鬼は違うと知っているみたいだな」
「ええ。鬼の情報収集、好きなんですよ」
……
付き合い切れないとばかりに溜息を隠さず裂は先を急いだ。
「それにしても、こんなに妖魔が
「……」
「これが人間界だったら完全にパニックですね」
確かに現実世界では小型でも大型でも妖魔が1ヵ所に固まる事は無い。基本的に大型であれば1体、小型な物でも3体程度だ。
しかし前回のステルス妖魔事件の際にも同様だったが
裂のように平常心で対応できる者はかなり限られるはずだ。
……俺だって完璧に平常心とはいかないけど、この巨乳黒子も
裂としても霞の適応能力は評価している。
普通の黒子は
意外に優秀な人材を発見した事に
妖魔が見つからない。
裂は不審に思いながらも
「どうしたんです?」
霞から見ても通路に不審な点は無い。
今まで通りに鳥居が続く通路だが、裂が足を止めた事で彼女も警戒心を強くした。
「
「え?」
「あの
「……妖魔の姿が見えたんですか?」
「は?」
「私には妖魔の姿は見えませんでした」
「……何か条件が
「そうみたいですね。それで、この先に居るんですか?」
「恐らく」
「なら、私はここで待っていますね。通路が先に続いていれば合流する。どうです?」
「それで良い」
軽く息を吐いた裂がグローブの感触を
「気を付けてね。子供に戦わせる私が言えた立場では無いですが」
それでも子供を本気で心配する
一歩進む
恐怖心が無い訳ではない。
それでも彼は恐怖で足を止められる程、一般的な精神は持ち合わせていなかった。
いくらか歩いてみれば
奥は崩れた鳥居で出来た円形の
裂は身体の緊張を
周囲を警戒しながらゆっくりと闘技場の中心に向けて歩を進め、背後の大鳥居が崩れて退路が塞がれていくのを見た。
その瞬間に
それは本能的な危機感から来る行動で何かを察知した訳では無い。
それでもその本能的な行動は彼の命を救った。
闘技場の中央、灰塵鬼が立っていた場所に上空から真っ黒な影が
「灰山君の言う通り、本当に居たのね」
背後、
踏み込む。
爪を床に突き立て動きの鈍い今が好機とした灰塵鬼は妖魔の肘を逆方向へ
身構えていた妖魔が肘を器用に曲げて迎撃した事で大したダメージにはならなかったが、右の爪は更に床へ食い込み妖魔の動きを
それを利用して左拳によるフックで曲げられた右肘を側面から
「っ」
短い
左肩を
体格差から来る妖魔の
灰燼鬼もバックステップで躱して直ぐに前に出る。妖魔の右肘を左拳で打撃しながら更に踏み込んだ。敵の左
妖魔とて簡単に回り込ませるような事はしない。左腕を背後へ向けて薙ぎ払うように振り
……踏み込み過ぎて、間合いを詰め過ぎた。
既に躱せる位置ではない。
妖魔は五指を開いて広範囲を払えるように腕を振っている。
灰塵鬼は左腕を盾にし爪を出来る限り
ダメージが無い訳ではないが、それでも無理に受け止めるよりはずっと良い。
灰塵鬼は鎧ごと妖魔の腕力で
妖魔の
……正面から向き合うとよく分かる。
黒い着物の下には白と赤の着物も見えており複数の着物を重ねている事が分かる。手首まで隠れた腕は
……お
観察はそこまでだった。
灰塵鬼は般若面の
灰塵鬼が間合いを
般若面の一撃をまともに受け止める事は出来ない灰塵鬼は横薙ぎの一撃を後退して
拳を武器とする身軽な灰塵鬼は次いで
右爪を振り下ろし下がった
距離が出来たが、今ならば般若面は無防備だ。
「
右拳を
肘関節に仕込まれた緑色の球体がスラスターとして
強く踏み込みながら推力に乗った灰塵鬼の身体が般若面の懐に飛び込んだ瞬間、
「ぜぃああぁっ!!」
般若面の顎を目がけて振るわれた拳は空振りだ。
しかし伸びた右肘刃が拳の
スラスターの推力に逆らわず
拳を打ち上げた勢いを殺さずに腰の回転に
縦から横に向いたスラスターの推力を上乗せした回し蹴り、その
刃は抵抗無く般若面の首に突き立った。
長い髪が
その着地を
「迷宮の
「今回も同じとは限らない」
「物事は慎重に、ですか」
「……慎重に成り過ぎた」
周囲の風景が完全に元の廃工場入口付近に戻った時、灰塵鬼の
そこにはどこか残念そうな溜息が
「さて、灰山君」
「じゃ、お
霞が何かを言う前に裂は言葉を被せ早々に門へ走り2メートルの高さの壁、その横を目指す。
地面を強く蹴ってコンクリートの壁から突き出したポストへ
「ちょっ、次こそは話を聞かせて
背後で叫ぶ霞を無視して裂は廃工場から
▽▽▽
6月2日、18:10の表示を見て裂は首を
西八王子に着いたのが16:32、廃工場まで30分程度、廃工場内で30分程度。この時点で17時半程度の為、裂の感覚では現在は19時半~20時程度のはずだがそれにしては空が明るく時間を確認し、再度首を傾げる。
何が起きているかは分からないがまずは麻琴に電話をする為、慣れ親しんだ操作で麻琴の連絡先を呼び出した。
『こちら
「言い訳」
『冗談が過ぎると妖魔の巣に放り込むわよ』
思いの
「いや、報告ではなく言い訳?」
『また黒子と一緒だったでしょう。何をしていたのかしら?』
「また一緒にステルス妖魔に巻き込まれた」
『凄い確率ねぇ?』
「あの巨乳黒子が呪われてんじゃねえか?」
『アンタと同行してる時だけね』
「え、何、
『確かに、私の鬼を勝手に
「……
もう茶番を
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