参
当主との
裂の任務は妖魔化する前に生徒の妖気を
「ああ、この歴史の先生ね。今週で部活顧問は解任になるはずよ」
「そうなのか?」
「ええ、本人はまだ知らないでしょうけどね。本当に何を考えているのかしらね」
「妖気なんて半年に1回の検査で直ぐバレるだろうにな」
「被害を隠そうと暴力
「よく教師になれたな」
授業中、スマホで連絡を取り合った2人は早速放課後に動く事にした。
集合する必要は無い。
麻琴は図書室で勉強しながらスマホで何かを検索しているフリをして妖気探索のアプリを使用した。同時にアプリのSNS機能で裂と位置情報を共有しナビゲーション機能を使用するよう連絡する。
裂は鞄に教科書を入れ帰り
正確にはそこに有る体育教官室だ。
歴史の教師の体罰相手となる女子生徒が体育教官室に居る事に疑問はあるが裂は目立たない程度に急ぎ足になった。
近付けば近付く程、その部屋からは異様な空気が感じられる。
裂は召喚器である手袋を
室内には1組の男女が居る。
女子生徒が1人に、体育教師の男が1人だ。
「ち、違う! 私は何もしていない!」
見れば女子生徒はブレザーを脱いでタイを
「分かってる。先生は部活でも見ててくれ。直ぐに終わる」
「わ、分かった」
「先生、逃げないでよ」
「逃げろ。力任せに振り切っても良い」
手を伸ばす女子生徒の手を強引に振り解いた体育教師が逃げる道を開け、裂は女子生徒と
「妖魔に成る前に、祓う」
大きく踏み込んだ裂はグローブを嵌めた右拳を女子生徒の
しかし、既に女子生徒は手遅れだった。
鳩尾を殴られたまま、女子生徒の瞳が内側から
「ねえ、私、頑張ったよ。頑張ったの、痛いのも、気持ち悪いのも、
「我慢なんて、必要無かった」
「我慢しないと、試合に出れなかった。試合に出ないと、私なんて居る意味無かった」
「意味なんて、無くても生きていける」
「嫌よ!」
瞳を中心に顔に
「全身が変異しないだけマシか」
「私はっ、意味が無いと生きていけないのよ!」
「装甲」
女子生徒が興奮している間に裂は拳を打ち付け
「私は、アンタが言うような生き方、出来ないのよ!」
「何で勝てないのよ!」
「
一瞬で
灰が積もるように刃が日本刀程に伸び、薄く
「
瞬間的に刃が加速し
血は出ない。
傷口すら壊死させ、妖魔の
……ああ、先生に口止めしておかないとな。
殺傷した少女の事など無視して鎧を解いた裂はスマホで麻琴へ連絡した。
「妖魔の討伐を確認。四鬼が来る前に逃げるから
『了解。誰かに見られた?』
「先生。妖魔化した女子と一緒だった」
『何をやっているんだか。早めに逃げなさい、
「分かった」
体育教官室を出れば教師が顔を青くして折り畳み椅子に座りバスケ部を見ていた。裂が扉を開いた音を聞いてバタバタと近付いてくる。
「なあ、何が起きたんだ?」
「さあ?」
「はあ!?」
「直ぐに四鬼が来る。あの女子との事、探られたくないなら何も言うな。俺も黙ってる」
「……分かった」
四鬼という単語で何かを察した教師はそれ以上は何も言わずに裂から視線を切った。
「何も聞かん。早く帰れ」
面倒なのでさっさと体育館を後にした裂は校舎正門で四鬼の部隊が集まっているのを見た。他の生徒に合わせて
一定以上の妖気が検知されると通報が無くとも四鬼の
裂はそれを知っていた為に妖魔討伐後は早急に現場を離れ野次馬に
見慣れた黒子の制服は通常の警察官の服を真っ黒に変えた物だ。通常の警官との差別化の意味を持つ配色なのだが警官と黒子の関係は良好ではないようで
黒子たちの声に集中してみれば既に妖魔が
「妖気が消えている」
「逃げた可能性が高いな」
「いえ、逃走したにしては
「また
しかし今回のように人知れず周囲に被害が出る前に討滅を済ませるような鬼も居るので
「周囲に被害も無く討滅しているならばお礼を言いたいのですが」
「止めておけ。異端鬼も別に俺たちの礼が欲しくて討滅した訳じゃないだろうさ」
異端鬼を差別するような思想に染まっていない若い女黒子を先輩らしき黒子が
裂は表情には出さず、しかし確かに先輩黒子の意見に同意した。
……さて、早めに消えとくか。
裂は麻琴へ黒子が現場保存に現れた事を伝え早足にならないよう、学校から離れていった。
▽▽▽
東京の都市ではビルとビルの間など様々な
その内の1つ、西東京の八王子は学生街という事もあり学生特有の問題を
そんな現場を裂は横から見ていた。
休日にも関わらず路地裏の妖気を
「良いじゃん、俺たち地元だからこの辺に詳しいんだぜ?」
「そうそう、お仕事お手伝いするって」
「結構です。貴方たちのように無駄に妖気を生み出すような人に頼る事など何もありません」
先日学校に来ていた黒子の1人だ。仕事の為か路地に入った所を
裂としてはその路地の先が目的地なので邪魔でしょうがない。しかし黒子に関わると
遠回りしようにもこの先は
そう考えてビル壁に背を預けた裂の前に黒子がバックステップで飛び出してきた。
「この女!」
「触れるなと警告はしました。これ以上は本気でお相手します」
しつこい軟派たちに対して黒子が
「なっ! テメーもこの女の仲間か!?」
「ん?」
意味が分からず
仲間が
「もう止めなさい」
静かだが強い口調で裂を止める黒子を無視して裂は軟派の意識が無い事を確認すると路地の奥、目的地へ向け歩き出した。
「ちょっと!」
その態度が気に入らなかったのか黒子は背後から裂の肩を掴もうと手を伸ばしてきた。
「相手が悪かったとは思うけど、ここまでする必要は無かったはずです」
「……はぁ」
「なっ!?」
「用はそれだけか?」
無意識に溜息を吐いて黒子を挑発してしまったが黒子の言う事にも
「ふぅ。その
「そうだ」
「危険な場所です。行かない方が良い」
言った本人が路地に入り軟派に
「わ、私は仕事の
「そっちの事情は聞いてない」
面倒になってきた裂は黒子に背を向け路地の奥へ進み始めた。
その態度に怒った黒子が
放っておく事にして裂が黒子を止めずに路地を進みビルで囲まれた無人の
「やはり、妖気が溜まっていましたか」
「……誰も居ないか」
黒子が妖気を祓う為に走っていくのを見送りながら裂は路地の出口を見た。
誰も来ている様子は無いが、代わりに妙な気配を感じる。最初は軟派の仲間が距離を取ってこちらを見ているのかと思ったが軟派たちはあれで全員だったようだ。
黒子の方は
手を出して黒子に
『こちら
「
『何をしたらそうなるのよ?』
「路地の入口で騒いでたから、その横を抜けてった」
『面倒な事だわ。それにそのレベルの妖気で四鬼が
「黒子だけどな。それより、他に反応は有るか?」
『特に無いわ。その
「人の気配に似てるが、どうも違うらしい」
『黒子に気付かれない内に離れなさい。黒子なら札を使っている間は集中しているでしょう』
「了解」
小さく
細い路地を歩き出口を目指す途中、やはり人とは思えない何かを感じた。人間よりも
それが隠れる場所の無い路地で、正面から感じられる。
異常な気配に変わりは無いが、気配を明確に感知した瞬間から裂の目には少しずつ見えていなかった物が見え始めていた。
「……先輩」
『どうしたの?』
「本当に何の反応も無いか?」
『本当よ。裂が何かを感じたり見たりしているなら、それは現代の妖気探知機では見つけられない物という事よ』
「面倒な事になった」
視界に割り込み始めた体長2.5メートルは有る巨大な
完全に異形が実体を持った瞬間、異形と裂の間に異常に
『妖気が急激に上昇したわ! 何が起きているの!?』
「高性能ステルス妖魔、だと思う」
『
「それだけで済む感じじゃないな」
異形と裂の間の妖気が爆発的に増加し、ブラックホールを連想する強烈な風が裂を門へ引き込んでいく。
「なっ! 君、逃げなさい!」
異常を感じた黒子が背後から悲鳴を上げて走ってくるが、裂としては足手
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