妖怪と魔法の秘密

 違った魔法の使い方。マーヤの言葉に源吾郎と雪羽は互いに顔を見合わせた。彼女の言う魔法や魔力は、源吾郎たちが普段扱っている妖術や妖力の事であろう。どちらもエネルギーやそのやり取りで構成される物なので、大体同じ物と考えても問題は無い。

 とはいえ、違いと言われてもピンとこなかった。源吾郎たちは特に気にせずに、日頃から妖術や妖力を使っているのだから。


「こちらの、雪羽様から頂いたマンドレイクからも魔力を感じるのです」


 マーヤは雪羽から受け取ったマンドレイクを見せてくれた。それを何気なく見やった源吾郎は驚いて目を丸くした。彼女の言う魔力をマンドレイクから感じたからではない。海原博士に贈呈したマンドレイク同様、マッチョマンドレイクに変化していたからだ。

 雪羽の仕込みやドッキリなのか? そのような疑念は雪羽の顔を見て霧散した。雪羽自身も驚いていたからだ。

 マジカル王国において、魔力のある植物が育つのはやはり魔力が潤沢にある土地なのだとマーヤは言い添えた。その上で、このマンドレイクは何処で育ったのかと雪羽に問いかけたのだ。


「叔父の貸農園で育った分ですよ、マーヤさん」


 そう言ってから、雪羽はちょっと考える素振りをして言い足した。


「貸農園って言っても別に変った事とかは無いはずですがね。普通に僕らの暮らしている所から地続きなので、魔界とかそんな所に繋がってるわけでもありません。オジギソウとかも気性が荒いわけでもないですし」

「ユキ君。魔界の植物だったらむしろ雷獣じゃなくて妖狐が面倒を見てるはずよ。元ネタ的に」

「……」


 雪羽の発言がツボに入ったのか、飛鳥は軽く笑いながらツッコミを入れていた。悪ガキムーブが抜けた雪羽は、オフでは結構茶目っ気のある言動を好む若者になっていた。ネットミームやそうしたネタが大好きなトリニキ……もとい飛鳥とも結構相性が良いのだろう。

 源吾郎も元ネタは一応知ってるが、どう反応すべきか考えあぐねていた。

 だが、そんな源吾郎の懸念とは裏腹に、精霊たちにはウケていた。


「ヌハハハハ! 雪羽殿も中々良いセンスをしているようだな! 一緒に白ミサに行くのが楽しみだっ!」

「見えるぞ、あいつも鍛えれば良いマッチョになるという未来が……」

「誰でもマッチョになるという訳じゃあないって……ママが言っていたぞ……」

「雷園寺君は純粋な妖怪だから、実は三人の中でも最年長みたいですものね」


 一番冷静なクリスタルの言葉に、飛鳥と源吾郎は頷いてもいた。妖怪と人間の寿命や歳の取り方は明らかに違う。高校生ほどの少年にしか見えない雪羽は、これでも四十年以上生きているのだから。一方の源吾郎は二十代前半である。趣味の話をしていてジェネレーションギャップを感じる事もたまにあった。

 それから、ナイトメア★四天王だった四人の精霊たちもまた、長い年月を生きている事が作中で示唆されていた事などを思い出していた。


「ええと、まぁ某妖狐の魔界植物はさておき、雷園寺君たちが利用している貸農園は、他の妖怪たちも利用しているみたいなんです。だからその……パワースポットと化している可能性もありますね。妖怪たちの放出した妖気が土壌に染み込んでいるかもしれませんし」


 俺もやっぱりマリモ以外にも植物を育てた方が良いんか? 妖狐である源吾郎はそんな事を思いつつ、貸農園の補足説明をした。あの貸農園は妖怪向けらしく、妖怪の利用者がほとんどだった。港町の外れと言う事もあってか、オークとか獣人と言った欧米出身の魔物たちも結構いたのが印象的だ。

 放出した妖気。その言葉を捕捉するように言い添えたのは飛鳥だった。


「島崎君たちみたいな妖怪や、魔物と呼ばれる生き物たちは、魔力を身体の中に蓄えているのです。妖力とか魔力とか霊力などと呼ばれ方はまちまちですが、ある種のエネルギーである事には変わりありません。島崎君たちはその力を使って妖術や魔法を扱う事が出来るんです」


 そういう感じよね? 飛鳥はひととおり説明を終えると源吾郎たちに問いかける。とりあえず源吾郎が代表として頷いた。


「変化術も妖術の一つなのです。僕たちが魔法少女に変化した術も、そもそも今僕がこうして人の姿を取っているのも変化術によるもなのです」


 言ってから、雪羽は胸ポケットから一枚の写真を取り出した。本来の姿、獣形態で撮影された雪羽の写真である。小さなボールに前足を乗せるその姿は堂々としたものだった。撮影者は源吾郎だ。中型犬サイズと言えどもまだまだ可愛らしさが勝る姿のため、勇ましくカッコよく見えるように雪羽が苦心していたのは記憶に新しい。

 雪羽が差し出した自身のブロマイドを受け取ったのはマーヤの姉・リーサである。可愛い……! リーサは思わず嘆息していた。その声が呼び水となり、悠花やマーヤもまた写真を覗き込む。


「ま、まぁ僕ほどの力を持つ妖怪になれば、変化を解く事は殆ど無いんですがね。本当は変化術を行使している間、その分だけ妖力を消耗してもいるんです。妖怪が十全に力を振るえるのは、やはり本来の姿ですからね」


 したり顔で変化術について雪羽は説明している。本来の姿に戻りたくないがための事なのだろうと源吾郎たちは即座に思った。ヤンチャで強い男と言う所を前面に押し出している雪羽にしてみれば、可愛いと思われるのは不本意な事なのだろう。


「それじゃあ、あなたたちの場合、魔法少女の姿よりもそっちの姿の方が強いって事なのね」

「そうです」

「はい。やはり術の制御とかも、本来の姿の方が色々と融通が利きます」


 リーサは興味津々と言った様子で質問を投げかけ、源吾郎たちの言葉を聞いて一層興味深そうな様子を見せていた。

 さてここで、物理魔法(と言うか筋肉)担当だった蝶介が懐かしげに呟いた。


「俺たちは魔法少女になる事で敵と闘うための力と強さを得たが、島崎君たちは元々の方が強いのか……」

「アニキ。そもそも僕たちはコンパクトに宿った魔力で魔法少女になっていましたからね。だけど島崎君たちは――」


 二組の魔法少女の力の根源について考察していた海原博士は、しかし途中で口をつぐんだ。白衣のポケットに入ったスマホに着信が入ったためだ。


「ごめん。ちょっとあの子たちから連絡が入ったから、対応するね」


 そう言って海原博士は歩を進め、トレーニングルームから一旦退出した。仕事絡みの話を聞かせるのは野暮だろうと配慮しての事であろう。


「――きっと島崎君と雷園寺君は、体内で魔力を合成したり貯蔵したり増幅させているのかもしれないわ。魔力の少ない人間界でも不自由なく魔法を使えるのはきっとそのため。秀雄君もそう言おうと思っていたはずだわ」


 クリスタルは眼鏡の位置を直しながら、海原博士が言おうとしていたであろう事を教えてくれた。魔力、妖力の増幅ってなんか結構物々しいな。源吾郎は自分の事ながらもそんな風に思っていた。

 さてそうこうしているうちに、通話を終えた海原博士が戻ってきた。先程と異なり、その顔には渋い表情が浮かんでいる。

 どうした、どうしたの、と蝶介たちに問われると、困ったような笑みをその顔に作った。


「明日のイベントでご当地ヒーローのショウがあるでしょ。インディーズアイドルの『ホープス』にいつも通り参加してもらう予定だったんだけど、二人とも急用が入って無理なんだそうだ」

「そんな、急用とはいえドタキャンされたら困るじゃない!」


 悠花が少し憤慨したように告げている。アイドルだろうとドタキャンはいただけない。源吾郎もそう思ってはいた。


「イベントに参加するはずのアイドルがドタキャンして困っておいでなんですよね? 僕に考えがあります」


 源吾郎を半ば押しのけるような形で進み出た雪羽は、妙にぎらついた瞳でマジカル☆ドリーマーズに提案を投げかけたのだ。

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