魔法少女たちの出会い

 夢見丘市内。地下の研究施設には様々な面々が集まっていた。厳密に言えば筋骨隆々のマッチョたち、気品のある王女ふたり、彼女らの弟分である幼い魔法使い、魔法少女大好き女子社員、そして四名の精霊たちである。

 彼らはマジカル☆ドリーマーズの魔法少女だった五人組と、その愉快な仲間たちである。魔法少女言うてマッチョな漢がいるではないかというツッコミもあるかもしれないが、実際に彼らも魔法少女をやっていたのだからまぁそういう事である。


「……みんな、今日は集まってくれてありがとう。姫もマーヤ殿も、マジカル王国のみんなも変わり無さそうで良かったよ」


 まず口を開いたのは丸眼鏡にきっちりと分けられた七三分けが特徴的なマッチョだった。ワイシャツの上に白衣と研究者らしい装いであるが……鍛え抜かれた肉体のマッチョ度合いが烈しく自己主張していた。

 彼は海原秀雄。魔法少女マジカル☆ドリーマーズの一人である。元々は超天才の勉強好きな少年だったのだが、魔法少女とマッチョとの出会いにより天才的頭脳とマッチョな肉体を兼ね備えた漢へと進化していたのだ。

 ちなみにこの研究所のあるじはこの秀雄だったりする。さらに言えば、マジカル☆ドリーマーズと愉快な仲間たちを招集したのも秀雄だった。


「秀雄お兄様も悠花お姉様も、蝶介も元気そうで何よりですわ」

「ふふふ、秀雄君。あなたも白衣姿が板についてきたわね。超天才のあなただから、白衣の良さが解ってきたのね!」

「ぼくもひでおお兄さんたちに会えてうれしいな。だって楽しいもん」


 白衣マッチョ・秀雄の言葉に王女補佐のマーヤ、紅一点の精霊クリスタル、そしてゆうちゃんと呼ばれる幼い魔法使いがそれぞれ声を上げて応じる。秀雄がマジカル☆ドリーマーズとして活躍していた時、クリスタルや夢喰い――ゆうちゃんの過去の姿である――は敵として対立していた時もあった。しかし激闘と魔法と筋肉によって絆をはぐくむ事が出来たのだ。げに偉大なるは筋肉と魔法なのだ。


「ねぇ秀雄。今日は一体どうしたのかしら? 私たちの異空間魔法も大分安定してきたし、秀雄だって異空間技術は使いこなしてるでしょ?」


 滑らかな金髪を揺らして問いかけたのは、マジカル王国第一王女のリーサだった。妹共々既に成人して久しいが、それでもその美貌や愛らしさは損なわれていない。それどころか大人らしい落ち着きやしとやかさも合わさり、一層王女らしくなってさえもいた。

 そのリーサが言った異空間魔法とは、自分たちとは違う次元や時空にある世界へ移動するための魔法の事である。マジカル王国と人間界。夢喰いとの闘いが終結した後、リーサたちとマッチョたちはそれぞれの世界に戻らざるを得なかった。しかし、マーヤの編み出した異空間魔法と秀雄が科学と頭脳と筋肉ではじき出した異空間技術によって、今でもこうして次元をまたいで会う事が出来るようになったのだ。

 それどころか、マーヤの魔法も秀雄の技術も日増しに改良されていった。初めはゲームの通信対戦よろしく両方の準備が整っていなければ異空間へのトンネルを作る事は出来なかったのだ。だが最近では相手の干渉が無くても、扉を開いた異空間の様子を観測できるようにさえなっていたくらいだ。

――だからこそ、秀雄は興味深い発見をする事が出来たともいえる。

 魔法少女に会いたくないかい? 秀雄の声は興奮で僅かに震えていた。ついでにバッキバキに分かれた腹筋や胸の筋肉も震えている。


「僕たちの住む人間界とは少し違う……並行世界の住民なんだけどね。魔法少女がいるのを僕は見つけたんだ」

「なん……だと……!」


 並行世界で魔法少女を発見した。秀雄の発言の直後、研究室の壁に幕が下りていき、画像がプロジェクターに投影されている。折しも蝶介が驚きの声を発したのとほぼ同じタイミングだった。


「これは……」

「きゃーっ! 何て、何て可愛いの……!」


 デキるビジネスマンとしてきっちりとスーツ姿だった悠花の口から歓喜と感動の声が漏れる。鼻血、鼻血が出ないかしら……と内心思っているであろう事は顔に添えられた手指が物語っている。精霊の一人、クリスタルがそれに気付きティッシュを用意してもいた。

 プロジェクターに投影されているのは、二人組の少女の写真だった。右下に「提供:トリニキ」とあるがそれはまぁ良かろう。チャイナドレス風の尻尾を生やした銀髪の少女と、巫女装束の淡い金髪の少女。彼女らこそが秀雄の発見した魔法少女なのだろう。


「ファントム☆ウィザード。これがこの魔法少女たちのユニット名らしいんだ。そうだね、意味としては『幻の魔法使い』と言った意味合いだろうね」


 秀雄は眼鏡の位置を調整しながら説明を始めた。玩具メーカーにて魔法少女のグッズを世に送り出している悠花はもうファントム☆ウィザードの画像に夢中だった。もちろん、リーサやマーヤたちも興味津々と言った様子だ。

 満足げな笑みを浮かべ、秀雄は言葉を続ける。


「彼ら……いや彼女たちは妖怪の力を宿していて、それでこうして魔法少女に変身するらしいんだ。チャイナドレス姿の子はフォックスって言って、文字通り妖狐の力を宿している。巫女装束の方の子はサンダーで、こっちは雷獣の力が宿っているんだって」


 妖怪。不思議な生き物の代表格である単語が秀雄の口から出てきたのだが、それに驚く者は特にいなかった。何しろ魔法少女の経験者たちである。自ら魔法少女になった事もあるし、精霊の力を借りてとんでもない最終形態になった事さえある。その事を思えば妖怪の力を借りる魔法少女という話もそんなにショッキングでもなかった。むしろ若干親しみさえ感じていた。

 特に悠花などは「妖狐と雷獣の力を借りてるのね……この子たちには可愛いマスコットちゃんがいるのかしら」などと分析に余念がない。もちろんマジカル☆ドリーマーズの皆さんは、旧ナイトメア★四天王の精霊たちの事は好きである。しかし緑色マッチョだったり白ミサライブに出没したり白衣だったり世紀末スタイルだったりと、中々に濃ゆい面々過ぎたのだ。次のスライドで映し出された妖狐と雷獣の姿は、可愛い仔狐と仔猫そのものであり、ナチュラルに癒された。


「とりあえず今回、僕は魔法少女……のマネージャーにどうにか連絡を取る事が出来たんだ。彼らも僕たちに是非とも会いたいって事で話が決まって、こっちに来てくれることになってね」


 そんな訳で、マジカル☆ドリーマーズとファントム☆ウィザードの面々が対面する事が着々と決まっていったのである。

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