本が亡くなった日
黒夢
第1話 本が好きな少年は.....
20XX年、5月6日、国から突如発表されたのは相次ぐ図書館のマナー問題による”特別措置”という名目の教科書や参考書を除く、全小説や漫画の出版停止と既に出版された”本”の撤去、図書館の閉鎖等の厳しい措置だった。
俺こと、本居 正義(もとい まさよし)は本が好きな高校2年生だ。俺にとって
この措置は半分死んだも同じだ。なぜこんなことになったのかはそれ以降言及されなかった。
次の日、学校へ行き、いつものように本を読んでいた。
すると、
「おい、本居。またそんなもん読んでいるのか?。」
声をかけてきたのは隣の席の.........誰だっけ?忘れた。
「お前、懲りないやつだな。昨日国から言われてたのにまだ読むんか?。」
「何、悪いか?。」
「悪くはないが.....まあいいか、とりあえず言っとくが本を読む場所に気をつけろよ?。」
どういうことだろう?俺はその時あまり気にしてはいなかった。
本を読み進めていると、教室の前方のドアから担任が入ってきた。
時計を見ると8時15分だ。いつも担任が来るのは25分の筈......。
すると、
「えー...国からの特別措置により、本日から朝読書を無くして簡単な小テストの時間にします。各自筆記用具の準備をしてください。」
クラスの中はすぐに動物園と化し、担任が一枚の紙を配っている。配り終えるとみんなそれに向かってペンを走らせた。内容は数学だった。本当に誰にでも解けるような簡単な問題だった。
解き終えた後はひたすら待つだけの暇な時間だった。そりゃあ一問しかないんだ。本を読もうにも読めるような雰囲気じゃない。
10分後、担任が答えを配った。余裕で丸が付く、そしてみんな答え合わせを終えると担任が、
「国の方針でこれから毎日一問一答の小テストをしてもらいます。みんな頑張ろうね。」
それ以降はいつも通りだった。授業が終わり、掃除を済ませて、帰る。いつも通っていた図書館は閉鎖されている。家に帰ってテレビをつける。 昨日と違い、よくわからん専門家と何とかジャーナリストの評論番組は昨日の国の特別措置について語っていた。
なんでこんなことになったのか、詳しい情報はどこにも載っていなかった。
父と母は共働きで帰らない日が多い、そんな俺の唯一の宝物が本だった。
昔、祖父母の家に行ったとき大きな書斎があるのを見て、俺は家から近いのもあって、学校から帰るとすぐ本を読みに書斎へ行った。
そこで初めに読んだ本は.....忘れてしまった。
初めて読んだ本は確か...白くて..大きな...やっぱり思い出せない。
それを読んでから俺はあらゆる本を読み、気づけば、すべての本を読んでしまっていた。
その後、親からいくつかの本を買ってもらいそれを読んで、買っての繰り返しだった。
いつだったか、じいちゃんがこう言っていた。
「正義、本に込められた想いって考えたことはあるか?」
もちろん無かった。そのとき俺は首を横に振った。
「小説でも漫画でも何でもいい、その人が伝えたい想いや思い出があるから文章にしたり、絵に描いて世の中に発信しているんだ。」
「だからこれからは作者の想いを考えて読んでみろ、約束だ。」
それからすぐにじいちゃんは交通事故で亡くなった。
両手にはビニール袋がパンパンになるほどの、たくさんの本があった。
原因は、相手の居眠り運転による事故だった。
俺はじいちゃんが亡くなったのは俺のせいだと思っていた。それから俺は本が読めなくなった。
そんなある日、ばあちゃんが
「正義が喜ぶのを見たくて、買いに行ったんだよ。だからいつまでも悲しい顔しないで、おじいちゃんに喜ぶ顔を見せてやりな?」
と言われて、俺はそれまで手を付けられなかった本に初めて手を付けて読んだ。
涙が止まらなかった。
でも死ぬほど面白かった。
その日から本を読むときは相手の伝えたいことを考えて読むようになった。
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