第35話

「どうぞ、粗茶ですが」


 一体何キャラなのか分からない黒崎は、突如張り切って淹れだした紅茶を木崎の前に差し出した。あいつ紅茶なんか淹れられたの?

 木崎は初対面である黒崎に緊張しているようで、とても小さな声で「ど、どうも⋯⋯」と答えていた。


 恐る恐る紅茶を口に含んだ木崎。カップを口から離すと、なんとも言えない表情を浮かべていた。少なくとも紅茶が美味しかった時に浮かべる表情じゃない。


「黒崎さぁ⋯⋯。お前、今日からお茶汲み係禁止な」


「そ、そんな⋯⋯!ウッキョーさんの真似をしたのに⋯⋯!」


 どこの相棒だよ⋯⋯。マジで思考レベルが小学生並みの黒崎を相手にしていると頭が悪くなりそうなので、意図して黒崎への意識をシャットダウンする。


 しかし、つい最近ジャージ泥棒の諸田事件が解決したばかりで、もう恋愛相談か⋯⋯。男への苦手意識が減ったのだろうか?

 なお、俺と白澤が恋愛斡旋同好会と漫画アニメ研究同好会を掛け持ちしている事を、木崎も水瀬先輩も知らない。特に言う機会が無かったからな。


「姫華ちゃん、も、もしかして⋯⋯好きな人、出来たの?」


 白澤は興味半分、恐れ半分といった表情で木崎に質問していた。やはり白澤も女の子、恋愛ガールズトークに憧れるものだろうか。愛いヤツめ。

 しかし、木崎の表情は恋する乙女ではなく⋯⋯困惑10割、といった表情である。


「じ、実はね⋯⋯今日、こんな手紙が靴箱に入ってて⋯⋯」


 そう言って木崎が差し出したのは、可愛らしい便箋だ。表には『木崎姫華様へ』と角張った男らしい字。うーん、これはアレですねぇ。


「ラブレターか。中々レアな物だな、俺がSSRのレア度を与えてやろう」


「な、なんか天城くんキャラ違くない⋯⋯?」


 不味い、素の俺で接してるやつが過半数のこの場では、ちょっと気を抜くといつもの俺が出てしまう。木崎は折角スパダリ天城くんモードで接していたのに、俺の光り輝く印象が崩れてしまう!

 そんな俺の悩みなどお構い無しと言った感じで、白澤も黒崎もラブレターに興味津々だ。何こいつら、まさか初めて見たの?


「黒崎も白澤もそんだけ可愛いんだから、ラブレターくらいでそんな驚くなよ」


「かわっ⋯⋯!」


「私ほど可愛くても見たこと無かったから、ちょっと興奮してるのよ。木崎さん、でしたっけ?あなたやるわね」


「は、はぁ⋯⋯?ど、どうも⋯⋯」


 照れてる白澤は置いておいて、と。

 不味いお茶を出した上にめちゃくちゃナルシストな事をほざき、上から目線で木崎を謎の観点から褒めてる黒崎はなんなんだいったい。木崎が黒崎を見る目、完全に変な人を見るような目してるよ。なんか身内が恥かいてるみたいで、俺見てられなくなってきたわ⋯⋯。


「それで、ラブレターがどうしたの?木崎くらいなら、告白されるの初めてってわけでもないだろうし⋯⋯」


 スパダリ天城くんモード、始動!おい黒崎そこ、心底気持ち悪そうな顔向けんな。そんなおかしい事言ってねーだろうが!


 俺の質問に、木崎は困ったように眉を曲げた。


「そ、その⋯⋯私、告白とかされたこと⋯⋯なくて。ど、どうしたら良いのか分からなくて⋯⋯」


『えぇ〜っ!?』


 思わず驚いた俺、白澤、黒崎。木崎は言ってしまえば、水瀬先輩より更に手が届きそうなレベルの可愛い女の子だ。我ながら言ってることゴミすぎてウケる。

 とにかく、木崎は普通に可愛い部類に入る。白澤や黒崎の異次元っぷりとは比較出来ないが、アホな男は木崎のような気弱で普通に可愛い女の子が大好きだ。スタイルも良いしね。

 その木崎が告白されたことが無い、だと?草食系にも程があるぞ、日本男子よ⋯⋯。俺は悲しいよ!


「木崎がねぇ⋯⋯ほんと意気地ねーな男ども」


「まったく同感ね」


「私、姫華ちゃん好きだから何とか繋げてくれって3人くらいからせがまれたよ?」


「ええっ!?」


 突然された白澤のカミングアウトに、木崎は驚くしかないようだ。本当にモテないと思ってたのだろうか⋯⋯。


 しかし、これはチャンスだ。とりあえず木崎に告白を受ける方向に話を持っていくだけで、俺の手元に10万円入ってくるのだ。気分としては、ゲームクリア直前のデータを渡されたような気分だ。こんなに美味しい話が転がってくるとは⋯⋯。これだから高校生は最高だぜ!


「それで、こんなとこに居て良いのか?相手待ってんじゃないの?」


「こ、ここには18時に中庭にって書いてるから⋯⋯。それまでに相談したかった、んだけど⋯⋯」


 おいおい、18時ってもう30分後だぞ!こんなんもう、時給20万円の仕事と言っても過言では無いのでは?しかも、今回俺は何の苦労もしていないし。

 よし決めた!俺は木崎と謎の男をくっつける!絶対にだ!

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