第34話

「天城くん、あなた実は勉強も出来るのよね?」


 放課後、恋愛斡旋同好会の部室で今日課された宿題を済ませていると、同じように宿題に手をつけている黒崎からそんな事を言われた。


 何を分かりきったことを⋯⋯。俺は容姿端麗成績優秀運動神経抜群才色兼備邪智暴虐傍若無人天上天下唯我独尊の男だぞ。ん?後半悪口じゃなかった?


「まぁ学年4位くらいには勉強出来るぞ。本気を出せば1位も余裕だが、やっぱり勉強だけじゃ折角の高校生活楽しくないよなーと思って手を抜いてんだわ」


「聞いてもないイキリどうも。⋯⋯白澤さんも勉強出来るのよね?」


「えっ!?ま、まぁそれなりには⋯⋯。だいたい上位25%くらいには入ってると思うよ」


「⋯⋯⋯⋯天城くんに教えを乞うのは癪だから、白澤さんここ教えてくれないかしら?」


「おいコラどういう意味だコラ」


 なんって失礼なやつなんだこいつは⋯⋯。俺は勉強も出来るが、教え方にも定評があるんだぞ。これまで何人の落ちこぼれを救ってきたことか⋯⋯。

 一方、黒崎に頼られた白澤は嬉しそうに目をパチパチさせている。仲良くなれたこととか、頼られたことが嬉しいのだろう。可愛いやつだ。


 白澤は読んでいた小説?ライトノベル?を閉じると、席を立ち黒崎の横に椅子を移動させて黒崎の宿題を見る。学校特有の狭い机に対して、超絶美少女が二人至近距離で座っている光景は、控えめに言って眼福である。この光景を撮影して恋愛斡旋同好会のポスターとか作ったら、死ぬほど客来そうだよなぁ。


 ⋯⋯そんなふうに思っていた時期が、僕にもありました。


「あ、天城く〜ん!私じゃ力不足だったみたい〜!」


 俺に泣きついてくる白澤。傍から見ていて、白澤の教え方は特別上手くもないが下手でもない。問題は、その教えをまっっっっったく理解できない、黒崎のドドドドド低脳さ加減にある。


「よしよし、白澤は悪くない。あんなの、小学生相手に高校生の勉強を教えるみたいなもんだ」


「誰の知能が小学生レベルですって?」


 おっと、額に青筋を浮かべた残念美少女黒崎さんの姿がそこに。


「図星だからって、そんなキレんなよ。しゃーない、俺がお前の宿題を見てやるとするか」


「お断りするわ。私、天城くんを頼るくらいなら赤点になって留年した方がマシよ」


「なんでそんなに清々しくダサい事言えんだよ⋯⋯。良いから一回くらい頼っとけって」


「⋯⋯⋯⋯はぁ、仕方ないわね。そんなに私の助けになりたいなら勝手にしなさい。天城くんの身勝手な偽善のため、私はあなたの施しを受けてあげるわ」


 こいつ凄いな、なんで頼ってる側がこんなに偉そうなわけ?こちとら、お前が留年しようがちっとも関係ないんだからな!アホが!


 めちゃくちゃ乗り気では無いのだが、大見得切った手前引くわけにもいかず。俺は黒崎が開いている宿題の手伝いを始めた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「す、凄いわ⋯⋯本当に私でも理解出来た⋯⋯」


「お、お前も逆に凄いわ。マジで今まで教えてきたやつの中で一番理解力ねーよ⋯⋯!クソ疲れたわ!」


 教えること約30分、普段から使ってるノートや黒板に図解を書くなど、ありとあらゆる手を使ってようやく1問、黒崎が解けるまで教えることに成功した。

 ここさえ解ければ後はその応用なので、それからは黒崎も一人で解くことに成功。俺の威厳は保たれたのである。


「な、なんか天城くんがインテリキャラな時点で嫌なのに⋯⋯なんでイキリじゃなくて本当に教え方上手いの⋯⋯?」


「同感だわ、白澤さん⋯⋯。天城くんみたいなのは、口先だけキャラなのが定番でしょうに⋯⋯」


「お前に言われたくねーわ!!この文武両道詐欺女め!なんでお前可愛いだけのポンコツキャラなんだよ!!ポンコツっぽい態度取れ、アホ!!」


 わいわいぎゃいぎゃいと、同好会メンバーで言い合いをしていると。部室の扉がガラリと開いた。今日、曽根山は用事があるとかで帰ったから、曽根山ではない。とすると⋯⋯。


「あ、あのう⋯⋯ここ、ですか?恋愛相談してくれる、っていう所って⋯⋯」


 新規客キター!!


 俺は、瞳の中に「¥」を光らせながら、新たな恋の予感に心を躍らせた。

 しかし、そこに立っているのは見覚えのある人で⋯⋯。


「き、木崎!?」


「あ、天城くん!?それに鶫ちゃんも!?」


 そこには、漫研の仲間である木崎姫華が立っていた。

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