第13話

「ようやく来たね、天城くん!!朝のホームルーム28秒前ですよ!」


「朝からうるせぇー⋯⋯」


 ギリギリ間に合った俺を待ち構えていたのは、同じクラスかつ風紀委員の黒髪美少女⋯⋯そう、白澤だ。なんとこいつ、同じ2年1組なのである。ちなみに、曽根山は2年2組で、黒崎は2年5組だ。


 白澤は朝から絶好調。2年になり同じクラスになってから、何かとこうやって絡んでくるようになった。まだこのクラスになって1ヶ月と経っていないが、クラスメイトの連中は俺と白澤のいがみ合いを日常として受け入れている。


「ホームルーム前ならセーフ、その後ならアウト。遅刻の定義ってそうなんだから、守れてりゃなんでも良いだろ⋯⋯」


「余裕を持って朝来ないと、何かあったら遅刻しちゃうじゃない!それに、余裕を持って学校に来ることで予習復習が捗り、皆とも挨拶出来てコミュニケーションも活発になるんです!」


 出たよ、白澤の謎ルール。遅刻しそうなのと遅刻するのでは、空よりも高く海よりも深い違いがあると思うんです私。だいたい、成績なら白澤より俺の方が良かったと思うんだけど?意地悪だから口には出さないけどさぁ。


 しかし、コミュニケーションか。なんとなく友達いっぱいだった気がしたが、良く考えればクラスでまともに喋るの白澤だけだよなぁ⋯⋯。男連中は白澤と仲良さげな俺が羨ましいのか、よく嫉妬の視線を向けてくる。

 女連中は⋯⋯なんで声掛けてこないんだろうなぁ⋯⋯俺がイケメンすぎるからかなぁ⋯⋯畏れ多いのかなぁ⋯⋯⋯⋯。うん、そういうことにしとくか。


 でも、こんな事を白澤が気にしてるってことは、もしかして?


「もしかして白澤、俺がクラスに馴染めてないと思って心配してくれてた?」


「なっ⋯⋯!そ、そんな事は⋯⋯⋯⋯無くは、無いけど⋯⋯」


 顔を真っ赤にしながら否定のような、否定じゃないような曖昧な返事をする白澤。何こいつ⋯⋯普段は俺に注意ばっかりして煩いくせに、急に可愛いことするじゃん⋯⋯。


「べ、別に白澤のこと可愛いとか、ありがたいなんて思ってないんだからね!勘違いしないでよね!」


「おーい天城ぃ〜。朝から気持ち悪いツンデレごっこしてないで席に着け。ホームルーム始めるぞー」


 懇親のツンデレ顔を白澤に向けた直後、後頭部に鈍い衝撃がひとつ。その正体は、この2年1組の担任である村岡むらおか先生だ。32歳男性、既婚者。常に眠そうなボーッとした顔で生きている、屍のような男である。え?人の事言えない?俺は屍ではなく天使なので、まったく関係の無い話だ。


 脳内でぶつくさ文句を言いながらも、村岡先生の言うことを素直に聞き席に着く。さすがの白澤も、先生に逆らうつもりは無いようで大人しく席に戻った。


 ホームルームでの村岡先生の話を聞き流しながら、俺はクラスを見渡す。こうして見てみると、名前も顔も分かるのにマトモに喋った記憶が無いな⋯⋯。

 俺イケメンなのに、ぼっちなの?存在が矛盾してない?


 ぼっちの不名誉を取り返すべく、俺は今日からクラスメイトと仲良くなることを決めた。そうと決まれば、学校中の人気者である白澤に話してみるか。


「んじゃ、これで朝のホームルーム終わり〜。天城と白澤は、このあと職員室に来い」


 ホームルームの終わりとともに、村岡先生から都合の良い呼び出しがあった。基本的に白澤が俺に絡んでくるので、俺から急に絡むと白澤があらぬ誤解をし、勘違いで俺に惚れて告白して振られてしまう可能性があるからな⋯⋯。良かった、白澤の失恋歴が増えなくて。


 村岡先生が教室を出ていくのを見届け、俺は白澤に声をかけた。


「よし、覚悟決めて行こうぜ白澤」


「天城くんは怒られる心当たりがあるの?私は無いんだけど⋯⋯」


「いや?俺ってば、品行方正が服着て歩いてるようなもんだろ?白澤が何かやったから、頼れる俺の手助けが欲しくて読んだんじゃねーの?」


「今の言葉の全てが嘘!?よく朝からそんなにペラペラと適当なこと言えるよね!?もう、早く行くよ!1限目に間に合わなくなっちゃう!」


「あぁ!ちょ、ちょっと待てよ!」


 ぷりぷり怒りながら教室を飛び出る白澤を、慌てて追いかける。何をそんなに朝から怒っているのだろうか⋯⋯。カルシウム足りてないんちゃう?


 まぁいいや。職員室までそこそこあるので、今のうちに白澤に色々と話をしておこう。

 俺は神妙な顔を白澤に向けると、重々しく口を開いた。


「なぁ白澤⋯⋯もしかして、俺ってクラスで浮いてる⋯⋯?」


「い、今更⋯⋯?クラスどころか、学校中から浮いてると思うけど」


「そ、そんな事無くない!?」


 嘘⋯⋯!俺、白澤にめちゃくちゃ変人かつ生粋のぼっちだと思われてない???これまでカップル成立させてやった奴らとか⋯⋯白澤とか⋯⋯黒崎とか⋯⋯えぇ⋯⋯?もしかして、俺本当に友達少ない説ある???な、なぜ?


 客観的に見て、まず俺は顔が良い。スタイルも良いし、テストの成績も学年4位だ。スポーツも全般出来るし、話も上手い⋯⋯。なんで友達少ないんだ?

 いや、球技大会も体育祭もマラソンも面倒臭くてサボったけど⋯⋯もしかして、そこで活躍を見せつけられなかったからか?去年の文化祭、俺の石像を作って展示しようとしたら担任に撤去されて目立てなかったからか?⋯⋯心当たりがあるようで無いんだが⋯⋯。


 そんな事を悩んでいると、白澤が困ったように口を開く。


「だって、天城くんみたいな性格の人普通いないよ⋯⋯?堂々と自分をべた褒めしたり、人の欠点をオブラートに包まないで刺したり、告白されてもないのに振ってきたり⋯⋯控えめに言って、天城くんって変人だよね」


 俺が⋯⋯変人⋯⋯?

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