第2話
「ほら、今日の弁当だ」
「ひょっ?」
曽根山はUMAでも見たような顔をした。まったく、昨日俺がダイエット弁当作ってくるって言っただろ⋯⋯。
「鼓膜まで脂肪詰まってんのか?おっと、こんな事を言ったら傷ついてしまうからやめておこう」
「ねえ!モノローグが口に出てるよぉ!傷ついてるよぉ!!」
「なにっ!?」
恋のキューピッドたるこの俺が、まさかモノローグを口に出すというベタなボケをかますとは⋯⋯!一生の不覚だ⋯⋯!曽根山の傷はどうでも良い!
「えっ、てかこの弁当僕の?なんで昼休みに僕の教室まで来たのかと思ったけど」
「お前⋯⋯俺は一応本気で、お前が高木と付き合えるように協力してるんだが?」
「あ、天城くんっ⋯⋯!凄い、僕いま君が天使に見えるよ⋯⋯!」
「分かったらお前が頬ばろうとしてる菓子パン寄越せ。これは俺が代わりに食ってやる」
「うんうん!それ美味しくてオススメだよぉ!」
包装袋の裏には420キロカロリーの文字。菓子パンは腹に溜まらない上にカロリーが高く、糖質も脂質も摂りまくりなダイエットの天敵だ。こいつ痩せる気ねーだろ。
ここは曽根山が所属する2年2組の教室だ。2年1組のイケメン恋愛マスターとして名高い俺が来て、めちゃくちゃ目を引いてるな。嗚呼、俺の美貌はどこでも注目を集めてしまうのか⋯⋯罪。
周囲を見渡すと、曽根山の想い人である高木が周りのギャル仲間たちとこっちを見ていた。十中八九俺を見ているんだろうが、折角だし曽根山を意識させるチャンスだな。
「おい曽根山、高木お前の事見てるぞ。なんか遠目で見ても出来る特技とか無いか?」
「ええっ!?あ、僕カラオケ得意だよ!R〇Dの歌なら、平均点92点!」
「うーーーーーーーーん⋯⋯⋯⋯。いきなりお前が歌うマイナスポイントと比較して、ギリギリプラスかもしれんな。よし、俺がインストで曲流すから渾身の一曲ぶちかませ」
「よし来たぁ!」
どうせ背景くらいにしか思われてないのだ、ちょっと悪目立ちするくらいが丁度いいかもしれない。ガタッと立ち上がる曽根山を見ながら、R〇Dで最も有名な歌を音楽ストリーミングアプリで探す。こんな時、月額有料会員で良かったと思うぜ。
無事に歌無しの音源を見つけると、それをスマホのスピーカーから流した。
それからは曽根山のカラオケタイムだった。普段はオドオドボソボソ喋っている曽根山だが、歌い出してからの声量と安定感は抜群だった。やはり人間良いところが必ずあるものだ。素直に歌うめえ。
曽根山が歌いきったところで、教室には万雷の拍手が鳴り響いた。いつの間にか教室の外にも人が集まっており、曽根山は顔を真っ赤にして頭を掻きながら席に着く。
「おいおいやったな、曽根山!お前の歌唱力が、突然歌い出す変人って評価を超えたぞ!」
「へ、へへへ⋯⋯!なんか自信満々の天城くん見てたら、僕も不思議と自信が湧いてきたんだ⋯⋯!」
「自信は大事だ!自信なくして、行動することは出来ない!見てみろ、高木もお前に熱い視線送ってるじゃないか!」
そう。高木は感動の表情を浮かべながら、めちゃくちゃ拍手していた。こういう非日常っぽいイベント好きそうだもんな、あいつ。
そんな高木の姿を見た俺は、ある種の確信を持って
『
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
高木舞 → 曽根山慎二
好感度:+25
曽根山慎二 → 高木舞
好感度:+80
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
おぉ、一気に好感度が25も上昇するとは。このデブ姿のままでこれだけ上がったのだから、痩せればもっと良い感じになりそうだな。
だいたい好感度が+70を超えたくらいが、恋愛感情を持っているか否かの基準になる。やはり高木は恋愛脳のチョロ目の女だった。こういうタイプは、俺の劇的な演出で簡単に落ちる。
ふふふ、最初は曽根山が相談に来て「終わった⋯⋯」と思っていたが、10万円は確実に手に入りそうだな!はっはっは!笑いが止まらないぜー!
「曽根山、話しかけるのはまだ後だ。お前がダイエットに成功してビジュが整った時、ただの歌うまクラスメイトからイケメン歌うましゅきぴ♡にランクアップするんだ!演出が重要だから、間違っても友達になろうとか考えて話しかけるなよな!」
「わ、分かったよ⋯⋯!僕は絶対、高木さんと付き合う⋯⋯!」
曽根山と熱い握手を交わした直後、2年2組の扉が大きく開け放たれた。今度はなんだと目をやると、そこには肩まで伸びたサラサラの黒髪を揺らす、つり目の美少女が肩をいからせて立っていた。
「あーまーぎーくーんー!今度は何してるのかなぁ!?」
「げっ。曽根山、このパンありがとな!じゃ!」
「あ、天城くん!?」
あれは風紀委員として一々突っかかってくる美少女、
菓子パン片手に、俺は教室の窓から飛び降りる。ここはたかだか2階、先生にバレなければ恋のキューピッドである俺は問題なく逃げられる。
「待ちなさい!!」
後ろからキンキンうるさい声が聞こえるが無視だ。ささっと中庭に逃げると、白澤に見つからないように旧校舎へ入り込み、屋上へ駆けた。学校一の美少女と名高いだけあり、黙っていれば可愛いんだけど⋯⋯。
菓子パン片手に旧校舎の屋上を開け放つと、そこには壊れかけのフェンスを握り黄昏ている美少女が。馬鹿な⋯⋯ここの鍵は、美人の先生とくっつけてやった見返りに生徒指導のゴリラ——武田先生——から受け取った俺しか持っていないはず。⋯⋯冷静に考えると、そんなのが生徒指導で良いのか⋯⋯。
どうやってここに入った?それに、あんな美少女は見たことない。誰だあれは?
「おい、お前何やってんだ?ここ立ち入り禁止だぞ」
「⋯⋯⋯⋯あなたには言われたくないのだけど。何でも良いでしょ」
「良くねーよ。ここ、俺の昼飯スポットとして独占してるんだ。使うなら入場料使用料、それに俺と話す料を徴収する所存です」
「⋯⋯ふふ、何それ馬鹿なの?」
あの目の痕⋯⋯ありゃ泣いてたな。人のベストランチスポットに辛気臭い空気を持ち込むんじゃないよ、まったく。
ああいう女の話を聞き出すと長い。ここは、大人しく戦略的撤退としよう。
「お前、甘いの好きか?」
「何よ急に」
「知り合いのデ⋯⋯デカい奴から菓子パン貰ったんだが、俺甘いの嫌いなんだ。だからやるよ。今日だけは使わせてやっから、明日からちゃんと教室で食えよ」
「⋯⋯そう、感謝するわ」
俺は菓子パンを謎の美少女に投げ渡すと、旧校舎の屋上から離れる。本当は甘いもの超好きなんだが、まあいいか。それに俺は自分の弁当がある。
そうして旧校舎を出ると、血眼になって俺を探していたらしい白澤と目がばっちり合った。
「げ」
「あー!!今度は旧校舎に無断立ち入り!!今日という今日は許さないんだから!!」
「あーもうめんどくせー!弁当食わせてくれよ!」
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