17
その後、「白い部屋」の中でカオリは、欲望をむき出しにする男たちを、体を張って次々に受け入れ。そしてカオリも男たちも、汗だくになって精魂尽き果てたかのように、その場に座り込んだ時。俺は「来るな……」と身を固くしていた。カオリか、もしくは男のうちの誰かが、SEXtasyの「副作用」を表出するのではないかと。
しかし、男たちはゆっくりと立ち上がると、自分達が入って来たドアをノックした。やはり内側からは開けられないらしく、外側からカチャリとドアが開き。男たちはパンツも穿かずそれぞれの手に持って、股間を丸出しにしたまま部屋を出て行った。そしてそれをカオリも、ただ茫然と眺めていた。
……これはどういうことだ? 必ずしも、「性交後に相手を食らう」という副作用が出るわけではないのか。それともカオリとあの男どもが投与されたのは、効果を薄めたSEXtasyなのか……?
いずれにせよ、予想していた最悪の事態にはならず、俺は少しだけ胸を撫でおろしていた。それでも、胸の奥に楔を打ち込んだような重たい気分は晴れることはなかった。今は、カオリが無事だった幸運に感謝するしかない。それを、幸運と呼べるのであればの話ではあるが。
男たちが去ってすぐに、白い部屋の電源が「ふっ」と消えた。そして、俺を個室に閉じこめていたドアの鍵が「ガチャリ」と開いた。「出し物」はここまで、ということなのだろう。俺はドアの外にいた、ここまで俺を案内して来た奴の指示に従い、個室を出た。恐らくカオリも俺と同じように、誰かに連れられて白い部屋を出て行くのだろうなと、密かに思いながら。
そして、翌日。俺は再び昼食後に、監禁部屋を連れ出された。見張り番の行く先は、昨日と同じルートを辿っていて、俺は「またかよ……」とややウンザリした気分になっていた。カオリが昨日、無事でいられたということは。今日もまた、昨日と同じことを見せられるというわけか。昨日だけでもかなりの精神的ダメージを負っていたのに、2日連続というのは勘弁して欲しい心境だったが、生憎奴らは俺の心境をそうすべく行動している。奴らの狙い通りに事が進んでいることが歯がゆかったが、ここは素直に従う他なかった。
思った通りに俺は、昨日と同じ個室に入れられ。ブラインドの向こうでは、カオルと男たちの欲望の饗宴が再開されていた。といっても、男は多少メンバーが入れ替わっているようだった。その分カオリに対して、新鮮な気持ちで欲望をぶつけられるということか。いっそのことブラインドを閉じてしまおうかとも思ったが、一度開いたブラインドは頑として下がることはなく、閉じることは出来なかった。この分だと自分で開けなくとも、自動的に開く仕掛けになっているのだろう。
白い部屋の中の音声は、部屋のどこかに高性能のマイクでも仕込んであるのか、かなりリアルに個室の中に聞こえて来る。更には、個室の天井あたりにスピーカーを組み込んであるのだろう、饗宴の叫び声がサラウンドのように響き渡り、まるで自分が「その場」にいるような気分になってくる。ようするに、例え開いたままのブラインドに背を向けていたとしても、「声」は否応なしに耳に飛び込んでくるのだ。そして昨日も考えた通り、いつカオリが「相手を食らい出す」かわからないので、結局部屋の中かから目を離すことは出来なかった。まさに、奴らの思うツボということだ。
2日目も昨日と同じく、カオリも男たちも、「相手を食らう」行動には出ずに宴が終わった。ただ、カオリは明らかに昨日に比べて顔がやつれ、疲労が残っているようだった。それはそうだろう、2日連続であれだけ男を相手にしたら、それを自分も全力で受け止めたら。気付かぬうちに、体の中に疲労が蓄積しているはずだ。それでもカオリは、男がやってくる限り相手を求め続けるだろう。それが、SEXtasyの恐るべき効果であり「魅力」なのだから……。
次の日になり、昼食に出されたパンもスープも、まともに俺の喉を通らなかった。同じメニューが続くので食べる気がしないわけではない。明らかに、昨日おとついと連続で見た、あの「饗宴」が影響していた。目を閉じると、男どもに全身をまさぐられながら、歓喜の声を上げるカオリの姿が浮かんでくる。そんな状態で夜もろくに寝られず、精神的疲労は相当なレベルにあると自分で感じていた。だが、「あれ」を連日やらされているカオリに比べれば……と、その思いだけが俺を支えていると言っても良かった。
俺はパンを細かく千切ってスープに混ぜ、むせながらも強引に飲み込んだ。例え簡素で粗末な食事とはいえ、食べておくとおかないとでは、後で大きく違って来る。いつか来るはずの「チャンス」を生かすためにも、体力は維持しておかなければならない。元から美味くもない食事を無理やり飲み込むのは苦行に近かったが、それでも俺はドロドロの自家製流動食を、なんとか胃の中に流し込んだ。
そして今日もまた、見張り番が俺を連れ出しにやって来た。監禁部屋を出て、この2日間と同じルートを辿っているとわかり、俺は思わず「今日も、かよ……」と、口に出して呟いてしまった。俺を精神的に追い込むのが奴らの狙いであれば、それが上手くいっているような素振りは決して表に出すべきではない。だが、心ならずもそれを見せてしまったのは、それだけ俺が「弱っている」ということの証明でもある。俺はそう自覚しながらも、きっと今の俺の目は、密かに血走ったりしてるんだろうなとも考えていた。
例の「個室の並んだ廊下」に行くと、今日は昨日までとは違う個室に入るよう指示された。さすがに3日目ともなると、奴らも色々考えて来るんだろうな……俺がそう思いながら、個室の中に腰かけると。今日はアナウンスなしでブザーが鳴り、俺は仕方なしに目の前のブラインドを開けた。
今日もベッドの上にはカオリが「ちょこん」と座っていたが、昨日までは身に付けていた下着を、今日はすでに脱ぎ捨てて全裸になっていた。恐らくベッドの上で目覚めた時点で、「これから何が起こるか」を把握し、「ウエルカムの体勢」になっているのだろう。俺のその考え通りに、カオリもまた少し血走った目で、男たちが入って来るであろうドアの方を、待ち遠しいかのように見つめていた。
そして、昨日おとついと同じく、おもむろに壁のドアが開き。男たちがゾロゾロと、部屋の中に入って来た。カオリは男たちがベッドにたどり着くのが待てないとでも言うように、ベッドを降りて自分から一番先頭にいた男にしがみついていった。男は部屋に入って来た勢いそのままにカオリをベッドに押し倒し、他の男たちは倒れこんだカオリの周囲に群がり。今日も再び、欲望むき出しの饗宴が幕を開けた。
今日も男たちを次々に受け入れるカオリは、心なしかおとついよりも、顔がやつれて見えるだけでなく、体全体も細くなっているように感じた。やはり、かなり体に無理をさせているのではないか。そんな体で、自ら進んで男たちを受け入れ続けるカオリの姿は、俺には痛々しく思えて仕方なかった。
するとそこで、アナウンスの声が聞こえてきた。この「見世物」が始まってからアナウンスが流れるのは、今日が初めてだった。
『今日は君のために、特別な趣向を用意してある。ぜひ、楽しんでくれたまえ』
男の声がそう告げると、「カチャッ」という小さな機械音と共に、個室の窓ガラスが先ほどよりも少し明るくなった。何が起きたのかと思っていると、アナウンスの声が俺の疑問に答えた。
『通常そのガラスはマジックミラーになっていて、部屋の方から君は見えなかったが。今は、普通の透明なガラスになっている。つまり、部屋の中からも君が見えるわけだ』
なんだって……?!
俺は愕然としながら、カオリの方を見た。カオリも「行為」に夢中で最初は気付かなかったが、男と体勢を入れ替えた時に、顔が個室の方――「俺のいる方」を向いた。そこでカオリも、「はっ」という顔になった。俺とカオリは一枚のガラスを挟んで、互いの目と目を向き合わせていた。
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