ひのえとかのえの夢十夜

綾里けいし

第一夜

 こんな、夢を見た。

 気がつけば、彼は市にいた。ただの、市ではなく、ただの、店でもない。

 羽根ばかりが売られている場だ。

 白い鳥のもの、孔雀のもの、蝙蝠のもの、あるいは見たことのない、ふわふわとした膜。あらゆる羽根が、ここでは売られていた。市は全て、そのような有様だ。なにか特別なものを、かならず扱っている。 

 それ以外のものは、ない。なにひとつとして。

 ふわふわした心持ちで、彼は立っていた。

 そして、羽根を扱う店主に尋ねた。

「女は、売っておりませんか?」

「女は当店では取り扱いがございません。羽根が生えておりませんので」

「いえいえ、羽根が生えていそうなほどに、美しい、女です。少女です。私はその人を、ずっと、ずっと探しているのです」

 あぁ、そうだと、彼は思う。彼は少女を探しているのだ。彼女はおまえさまと、人を呼ぶ娘だった。あるいは旦那さまと、時に兄さまと。そんな、とりとめのない、美しい少女であった。彼の真剣な顔を見て、店主は気の毒そうに首を横に振った。

 本当に、かわいそうだと言うように、何度も、何度も。

 仕方なしに、彼は市をさまよった。

 ここにはなんでもある。特別なものはなんでも。だが、彼女はいない。

 あぁと、彼は足を止める。自分にとって、彼女は特別なものではなかったのか。だが、そんなはずがないのだ。

 彼にとって、彼女は特別な少女だった。それがどんな誰かさえ、よくわからないまでもわかる。いっとうとっときの娘だった。

 そこで、彼は足を止めた。あぁと、彼はもう何度目かの息を吐いた。

 あぁ、あぁ、そうか。


「ここに、いたんだね」


 そうして、彼は店先に置かれていた、切断された白い足に頬擦りをした。


「おまえさま、起きてらして?」

 目を覚ますと、隣で少女が笑っていた。彼女はひのえだ。そう、彼はその名前を思い出す。彼女は彼の隣に常にいる娘だ。彼、かのえが熱を出したので、今日はずっと特に傍にいたはずだ。

 見ればその足はちゃんと体についていた。かのえは溜息をつく。

「夢を、見たよ。奇妙な、夢だった」

「あら、兄さま。おやおや、それは」

 おかわいそうにと、ひのえは言う。夢の内容を聞くことすらなく。

 きっと、また不思議な夢を見るのだろう。

 そう、かのえは確信もなく、思った。

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