第7話 気持ち
テレビの世界でしか見たことがないようなオートロック式のエントランスを抜けると、まるで高級ホテルを彷彿させるようなロビーと綺麗な身なりをした管理人さんがカウンターの方にいた。
「あーしぇんぱい……エレベーターはこっちでしゅよぉ〜」
ったく……酔っぱらいを運ぶのは苦労がかかる。
俺は南に肩を貸した状態でエレベーターに乗り込むと、最上階である五十階を目指す。
後ろを見ると、ガラス張りになっており、最上階に近づくにつれて絶景が広がっていった。
「で、部屋は何号室なんだ?」
「……はい? 最上階は私が住んでる部屋しからいので……らいじょうぶでしゅっ!」
「そ、そうか……」
そして、最上階に到着すると、全面大理石の廊下を進んだ先にセキュリティーがやたらと頑丈そうな玄関ドアがあった。
「南、家の鍵は持ってるか?」
「んえ? これ家主が近づいてきたら自動で開くようなシステムにゃんでありましぇんよぉ〜」
金持ちが住んでいる家、恐るべし。
家主が近づいたら自動でロックが解除されるシステムってどうなってんだ?
多少玄関ドアが気になりつつも南が言った通り、鍵が開き、俺は玄関に南を座らせた。
「じゃあ、俺はこれで帰るから。今日は水を飲んでさっさと寝ろ。明日、会社を休んだりとかするなよー」
「ちょっと待ってくだしゃい!」
「あ?」
玄関から出ようとした時、南に袖を掴まれてしまった。
「送ってもらったお礼に……その、お茶でもどうでしゅか……?」
気のせいだろうか?
酒に酔っているということもあって、頬が蒸気しているからなのか南がいつに増してしおらしく見えた。
だが……
「お前、その状態でまともにお茶出せるのか?」
「うっ?!」
「それに酔っているとはいえ、男をほいほいと部屋の中に招き入れるような真似をしたらダメだぞ?」
「ほ、ほいほいって! わ、私は……しぇんぱいだから……」
「俺は男として見てないってか?」
「ち、違う! そうじゃない……。私は先輩のこと……」
南は俺の袖から手を離すと、プチっプチっと上着のシャツのボタンを外し始める。
……こいつ一体何を––––って、本当にナニしようとしてんの?!
「み、みみみ南! 落ち着けっ!」
「落ち着くのは先輩の方です……私はずっと前から––––」
南の着ていたシャツが下へと落ちる。
目の前には上半身下着姿の南がいた。
「先輩……」
南はゆっくりと俺の方へ近づいてくる。俺は後ずさるも玄関ドアにぶち当たり、完全に逃げ場を失ってしまった。
……南は俺のことが好き? どこが? こんな落ちこぼれの俺のどこを好きに––––いや、自惚れんな! 南はまだ完全に俺のことを好きとは言っていない! それに酔っ払った勢いというのもあるし、ひとまずこの状況をどうにかせねば……。
「み、南、さん? さすがにこれ以上近づくのはいろいろとマズいのでは……っ?!」
むにゅん。
腹のあたりにものすごく柔らかい弾力が伝わってきた。
南はそのまま俺の胸に顔を埋める。
熱い吐息がかかってなんだか俺まで変な気分になってきてしまう。
「先輩……」
「南……」
彼女いない歴一年半。
元カノにフラれて以降、当分は恋愛なんてしないだろうと思い込んでいた。
仕事も上手くいかず、何を肥やしに頑張っていけばいいのか……目標すら見失っていた。
だけど、南がお荷物部署にやってきてからというもの少しだけその心境が変わりつつあった。恋愛感情は毛頭からなかったが、南を一人前の社会人に育て上げる。ただそれだけを目標に毎日を過ごしてきた。
が、俺も男だ。
可愛い後輩がここまでして、自分の気持ちを伝えてくれているのだとしたら、俺もそれ相応の答えを出さなくちゃいけない。
南はたしかに可愛い。スタイルもいいし、彼女にできたらこの先、不安だけどきっと楽しい毎日が待っているだろう。
そもそも南を拒絶するような理由すらない。
「南、俺もお前のことが––––んん?!」
なんだか……寝息が聞こえるような?
俺は南の華奢な肩を掴んでみるが、反応がない。
もしやと思い、引き離してみると気持ちよさそうに南は寝ていた。
「……ははは。だよな。あー……」
なんだろう。この喪失感と羞恥心。
改めて冷静になってわかった。うん、やっぱり南は恋愛対象として見れないな。あいつもあいつで酔った勢いだと思うし!
【あとがき】
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