第3話 定時
「お先でーす。お疲れ様でしたー」
午後六時。定時になり、今日一日の仕事を済ませた俺は同僚たちに挨拶をすると、荷物をまとめて颯爽に部署を後にした。
別に早く帰宅したからと言って、誰かが出迎えてくれるわけもないし、家でやることなんて特に何もない。帰宅途中にいつも寄っているコンビニで購入した弁当を黙々と食べて、洗濯物などの家事を済ませる。残った時間でゲームやアニメ鑑賞といった娯楽を楽しむのが毎日のルーティンだった。
以前は、帰宅した後も仕事ばかり考えていたが、社内ニートになった今となっては考えたことすらない。本当に気楽だ……。
「せんぱ〜い! ちょっと待ってくださいよ〜!」
ビルを出てすぐ。背後から聞き馴染みのある声で呼び止められた。
振り返ると、南は肩で息をしながら、膝に手をついている。
「おぉ、南か。どうしたんだ? 俺を追いかけてきて」
「先輩、いつも思ってるんですけど、帰るのが早いですよ。というか、私のこと置いてけぼりにしないでください!」
「置いてけぼりって……この後何も約束してないだろ」
「約束する前に先輩が消えちゃうんじゃないですかっ!」
え、俺が悪いの?
「もういいです。それより先輩、これから一緒に飲みに行きませんか?」
「はぁ? お前と二人でか?」
「はい! だって、先輩が社会人になってからまともな付き合いとかほとんどしてこなかったじゃないですか〜。誘っても『仕事が忙しい』とか『用事があるからまた今度』とか言って……結局、私二十歳過ぎてますけどまだお酒飲んだこと一度もないんですよ?」
「そ、それは悪かったけど、大丈夫なのか? 飲みに行くって、つまりそういうことだよな?」
酔い潰れでもされたら、後々が面倒だぞ……。
「大丈夫ですよ〜。私の家系はお酒強い人が多いんで! とりあえず、私の誘いを断り続けた埋め合わせということで先輩のお金で行きましょ!?」
「さらっと俺に奢らせようとするな……」
油断も隙もありゃしないが、南も新卒として多少は頑張ってくれている。
アメとムチというわけではないが、ちょっとしたご褒美をあげてやってもいいかもしれない。
「ハァ……わかったよ。今日だけ付き合ってやるよ」
「ほ、本当ですか?!」
「ああ」
「じ、じゃあ、場所は私に任せてもらえませんか!? 行ってみたいところがあるんです!」
「え? ああ、高い店でなければいいけど……」
「任せてください! 私、この日が来るであろうと事前に予測して近辺のいい店をリサーチしてましたから……って、なんですか!? その疑念に満ちた表情は!」
「いや、だって……」
南の自信満々な顔ほど信用できないものはない。
むしろ自信なさげの方がまだ信用度は高いだろう。
「本当に大丈夫ですから! 普通のところですから! とりあえずその店まで行きましょ!」
俺は強引に南から連れられるような形でその店へと向かった。
道中の足取りはというと、当然ながら重い……。ただただ、普通の店であることばかりを願うだけだった。
【あとがき】
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