Dungeon:404
埜日人
プロローグ
「…続きまして、本日のカルチャーニュースをお送りいたします。本日の話題はこちら、今や世界の総プレイヤー人口は約30億人。次世代型ゲームハード“
ニュース番組の白を基調としたスタジオから真っ暗な画面に切り替わって数秒後、妖精をモチーフにしたファンタジックなロゴが映される。
『
『何者にも制限されることのない自由を貴方へ』
映像は瞬く間に、草原、砂漠、森林、英国風の街並み、リゾート地のような島国、など様々な場所へと切り替わっていく。
そのどれもが現実世界と遜色ない美しい映像だった。実際に撮影された動画です、と言われても信じたかもしれないくらいには。
最終的にその動画ではゲームの基本的な内容も紹介せず、最後にソフトの発売日と発売記念の配信日時のみを写しただけで、ただただ美しい映像を流し続けたまま僅か1分も経たずに終わった。
「ご覧いただいた映像はERROR SPACE SOFTWAREのゲームソフト、Sacred Device / Re:loaded Worldのプロモーションビデオです。最初にご紹介いたしました通り、現時点での世界総プレイ人口は計30億人を超え、その勢いは衰えることなく、未だにVictorRを欲する人々の需要に機器の生産が追いつかない程です」
「あー、知ってます!家電量販店とかどこも品切れでネット上の抽選販売も倍率がすっごく高いんですよねー」
「そうなんです。数年前からゲーム愛好家のみに留まらず、幅広い世代にブームをもたらしたこのゲーム機器とソフト。一体何が人々を魅了しているのでしょうか?」
アナウンサーの問いかけをきっかけに場面は変わり、街頭インタビューの映像に切り替わる。
「Q. Sacred Device / Re:loaded Worldの魅力とは何ですか?」というフリップを持った取材班が二人組の女子高生に声をかけた。
「自由すぎるとこ!」
「そうそれ!ストーリーとか一切ないから逆に何したらいいの?ってプレイする側が困惑しちゃうみたいな感じ」
「でもそこがいいんだよねー!」
続いてサラリーマンの男性。
「ゲームとしての完成度が高い点ですかね。もはやアレをゲームという括りで呼んでいいのか?ってぐらいっすよ」
「どのような部分が完成度が高いと思われますか?」
「うーん……全部?なんていうのかなー、今までのゲームって五感全てを再現することができなかったじゃないですか。でもVictorRによってそれが可能になって、SDRW(Sacred Device / Re:loaded Worldの略称)がその機能を極限まで拡張した結果、本当に自分自身がゲーム内で生活してるんじゃないかって錯覚するくらい没入感が凄いんですよね。あはは、なんか語りすぎちゃいましたね」
「ゲーム上での五感の再現とはどういうことなのだろうか?黎明学園大学教授の四ツ橋誠氏に話を伺った」
「そうですね。まずは五感の再現について、少し前までの前提の話をしましょうか。はっきり言いますと、現代の科学をもってしても完全なる五感の再現はできない、とされていました。今まで数多のゲーム機器開発企業がVR機器の開発を乗り出したんですが、そのどれもが失敗に終わっているんです。五感というのは鈍感にみえてとても繊細な器官でして、少しの違和感すら感じ取ってしまうのですよ。例えば人間の嗅覚のセンサー分子なんてのは数百種類ほどありまして、それら全てが作り出すにおいの種類はなんと一兆を優に超えるんです。そのひとつひとつの脳信号を解析、分析、再現するには途方もない労力と時間がかかります。とても数年じゃ開発できるものじゃないですよ」
「VictorRの一番の凄さはそこですか?」
「えぇそうです。どんな技術を使用しているのかわかりませんが、人類史に残る発明であると私は思いますよ」
「次に四ツ橋氏はSDRWがもつ凄さを語ってくれた」
「そのソフトウェアであるSDRWが作り出す自由ですが、あれも私は凄いと感じましたね。現在の総プレイヤー数、30億人でしたか?あの量のプレイヤーを抱えながらよくサーバーが保たれているものです。加えて…」
教授が言葉を紡いでいた最中、後ろからドンッと背中を押された。振り返ってみれば友人の
「なんだよ
覇琉は家電量販店に設置された展示用のテレビをショーウィンドウのガラス越しに指差した。
根っからのゲーマーである彼は友人になった当初からSDRWをやろうやろうと誘ってきていた。が、あまり裕福ではない家庭の自分に娯楽用のゲーム機器を購入する金などないのでのらりくらりとその誘いを躱し続けていた。加えて幼少からゲームなるものに触れる機会は殆どないに等しく、今更プレイしてもなぁという本音もあってのことだった。なので、今回も毎度の事ながらさらりと断りを入れる。
「何度も言っただろ。俺はゲームなんかしねぇよ」
「またまた釣れないことをおっしゃる…だがそんな君に特大チャンスを与えよう!!」
そう言って覇琉はシャツのポケットから20枚程の束になった紙切れを取り出した。その紙切れには大きな文字で「青空商店街 夏の大抽選会 特賞VictorR」と印刷されていた。
「これ全部やるからさ、今すぐ抽選会場まで行こうぜ!!」
「いや特賞なんてそう簡単に当たるわけないだろ」
「そう言うなって!!お前変なとこで運があるから当てるかもしれないだろ!!」
「おい制服を引っ張んじゃねぇ、分かった分かったから」
強引に連れて行こうとする覇琉の様子に呆れを覚えつつ、少し大袈裟にため息を吐くと、自転車を押す彼の後に続く。
というかあの大量の抽選券は一体どこから持ってきたんだ。1500円毎に貰える券だから彼奴一人で集めれるものでもないだろうに。
ふとクラスメイトに頻りに話しかけていた最近の覇琉の行動が頭に過った。あの時に使わない抽選券を探し求めていたのだろうか。
抽選券の出処を考えつつ歩いていると、暫くして抽選会場に辿り着いた。3人ほどの主婦の方々で既に列が形成されていたため、その最後尾に並ぶ。商店街の抽選会ともあって機械式の抽選ではなく、ガラポン式の抽選だった。大抽選会と印刷された布ポスターにはやはり大きな文字で特賞VictorRと記載されていたが、その下には1等Dランドペア入場券や2等魚沼産コシヒカリ10kg…などほかの賞も若干小さめではあるが記載されていた。自分的には米の方が欲しいのだが。
先に並んでいた主婦の方々は1,2回ほどガラポンを回していたが、やはり下位賞しか出なかったようで各々ポケットティッシュや商店街で使用できる100円引き商品券を受け取りその場から離れていった。
そして遂に運命の瞬間がやってきた。が、2等の米くらいしか欲しいものもないのでそれ以外の賞(主にポケットティッシュ)は全て覇琉に押し付けてさっさと帰ろうなどと考えていた。
「おっちゃん、これ全部お願いしまーす」
「ん?おぉ覇琉坊と彼方くんじゃないか。相変わらず仲良しやなぁ…しっかし27枚もよく抽選券を集めたなぁ」
「いやぁそれほどでも…」
「さてはお友達に貰ったな?」
「(ギクッ)」
おいおい、おっちゃんにしっかり見透かされてんじゃねーか。
というか他人の抽選券使うとか禁止行為なんではなかろうか。
疑いの目を向ける抽選会場のおじさんから覇琉が目線を逸らしてしまったので、その標的は俺へと移る。
「すまんなぁ自分で貰った抽選券しか使えん決まりになっとるんよ。彼方くんは自分の持ってるかい?」
「えぇまぁ……」
やっぱりか。
隣でガックリと肩を落とすお馬鹿さんを尻目に俺は片手に持っていたレジ袋から2枚の抽選券を取り出す。母親から買い物を頼まれていたので偶然にも受け取っていたのだ。
「ほんじゃあ2回な。」
「はい。」
俺はおじさんの指示通り2回ガラポンを回した。隣で「よーく中身を混ぜろよ」という声が聞こえたが無視した。
1回目は白色の玉、2回目は金色の玉。
その瞬間時が止まったような気がしたが、すぐさまおじさんが台に置かれていたハンドベルを鳴らした。
「特賞!!特賞が出たぞ!!」
まじかよ。
喜びよりも先に驚きが出てきていた。
商店街を歩く人からちらほらと拍手の音が聞こえてくる。
「お前やっぱすげぇよ!!たったの2回で特賞当てちまうなんて!!」
「やめろ、肩を揺さぶるな、酔うから」
俺より喜びを露わにする覇琉の様子に思わず冷静になる。
この位で酔うほど人間そんなヤワではないが、これくらい言わないと此奴は一生止めない。
おじさんはその様子が微笑ましいのかニコニコと笑って大きめの紙袋を差し出してきた。
「ほら受け取りな。ゲームするのも程々にしときよ。」
「んなことは分かってるって!」
「お前なぁ…」
「ほら早く行くぞ!帰り際にSDRWのことたっぷりと説明してやるからさ!」
「ハッハッ仲良しで微笑ましい限り。すまんね、彼方くん。覇琉坊のことよろしくな」
「了解です。こちらこそコレありがとうございます。」
「いいってことよ。たくさん楽しんでな!」
陽気に手を振るおっちゃんに会釈をしてその場を後にした。
その帰り道に宣言通りSDRWについて説明を受けたが、熱弁すぎてとてもじゃないが全て覚える事など不可能だった。それ程までにSDRWを愛しているのだ、と言われてしまえば「もう十分聞いたから」などと口を挟むことも出来なかった。というより口を挟む隙がなかったというほうが正しいか。
とにかく長すぎたので要約。
【SDRW】において、プレイヤーはゲーム開始時に『神器』と呼ばれるオンリーワンの武器を与えられる。ゲームの中では広大なマップの中、自由な生活を送ることができる。数千を超える
なるほど。内容を聞いただけではあるが確かに興味は惹かれる。数十億の人間がプレイするのもまぁまぁ納得できるかもしれない。
「よし。早速プレイするか」
「いや待て今週は小テストがあるだろ。勉強しないと駄目だ。」
「えぇープレイすんのは絶対早い方が良いって!」
「それはお前の主観だろ。俺はゲームよりテストが大事なんだよ。やるならテストが終わってからだ。」
「はいはい分かりましたよ。じゃあ今週の土曜日ならいいんだな?」
「それなら、まぁ。」
「おっし!約束だぞ!」
別れ際、約束の前日である金曜日にキャラメイクと諸々の初期設定を行うから放課後の予定を空けておくように、と付け加えられた。
キャラメイクってなんだよ、と覇琉に尋ねようとしたところ、母親から「早く帰ってこい」と連絡があったのか、光の速さで自転車を漕いで行ってしまった。
まぁ金曜日に改めて聞けばいいか。
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