第203話 固く握った記憶

バキバキ!!



「…!」


「!!」



バキバキ…バキン!!



 凜と柳は目を大きく開けた。

ミストを吸い込み光り輝いていた宙に浮く石が、突然ひび割れ砕け散り、跡形もなく消滅したのだ。


 柳は辺りを見回し、ミストがもう吸われていない事を確認すると、放心しながら呟いた。



「…オルカだ。」



 だが直後、首を傾げた。

自分が口にした言葉の意味が理解できなかったのだ。



「……ん?、『オルカ』?、オルカって誰だ?」


「どうしたの柳君。いいのあった?」


「いやー特には?」



そうだ、そうだった。

俺はオーストラリアに旅行に来たんだった。

エルピスってのに知り合いが入ってて。そっからこの凜さんと知り合って。……


旅行…だったよな。…あれ?、俺が赤の他人と旅行なんて、らしくなくないか?



「すごいクレーターですねえ!」


「…やっばエアーズロックは宇宙人がこのクレーターに蓋をしたやつなんでしょうね。」


「あーっはっはっ!!」


「だって地下の巨大空間にクレーターとか!、普通に考えてナンセンスでしょ!」


「うーん。使い方が地味に違うんだよなあ?」


「ああそうでした?、まあいいでしょ。」



 柳は鞄からスマホを出そうとして、ピタッと停止した。

右手に持った覚えの無い何かを持っていたからだ。

それも筋肉が硬直する程強く。


 柳は眉を寄せ首を傾げ、右手の指をつまみ、半ば無理矢理抉じ開けた。



「…なんだこれ。石?

さっき拾った…っけ…?」



……あれ?


待て。…なんだコレ。

…コレは誰かの…大切な物だ。


いや違う。…俺にとって掛け替えの無い物だ。



『ありがとう柳さん。』



…!!



「…… …オルカ…。」



 その名が口を突いた瞬間、柳はハッと目を大きく開けた。

一瞬で記憶が甦り、一瞬、だが確かに忘れていた事に気付いた。



「り、凜さん!!」


「んー?」



 柳は急ぎ凜に法石を持たせた。

やはりその瞬間、凜は独特な目をしてじっと訝しげに法石を見つめた。

 そして直後、飛び跳ねるように肩を揺らし、『オルカ君…』と溢した。



「良かっ…た!!」


「…ま、待てなんだこれは。

…そうだ僕らは旅行に来たんじゃない。ガチでヤバイ探検をして、ここに辿り着いたんだ。」



 二人はクレーターの中心をじっと見つめた。

何度見てみても、そこに光る石は存在しなかった。


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