4部 2話 尻子玉
「うん。ありがとう」
真凛と電話を終えた花子は、真剣な表情をしていた
「花子さん。どうしたんですか」
「春香のいる場所が分かったのよ」
その電話は真凛が春香の居場所を特定し、伝えるための連絡だった。
真凛が春香を見かけたのは本当にただの偶然だった。
帰宅途中に知らない男の車に春香が眠らされている状態で乗っていたから、怪しいと思い見失わないように接着型のスマホと連動できる発信機を取り付けたのだ。
その車は妖気が漂っていたから、霊気のある人間には目立って見えた。
だから無数にある車の内の1台を簡単に見つけることが出来たのだ。
「でも、妖怪は昼間に行動できないのに、何で昼間に春香ちゃんと会うことが」
「それは尻子玉の効果ね」
尻子玉という言葉に、雪子は疑問を浮かべた。
「尻子玉というのは河童が人間のおしりから抜き取る玉の事ですよね」
「そうよ。生きてる人間から尻子玉を抜き取るのはカッパしかいないけど、死んだ人間の尻子玉を抜く妖怪は結構いるのよ」
「え、死んだ人間の尻子玉を抜くんですか」
「そうよ。河童にとって尻子玉は食料だけど、ほかの妖怪にとっては食料じゃなくて人間に擬態するための必需品なの」
「どういう事ですか」
「妖怪は尻子玉が無い人間の死体に入ることが出来るのよ。だけど尻子玉を常時持っていないといけないから、ネックレスやブレスレットのようなアクセサリーにしてつけておくのが多いわね」
妖怪の中には綺麗な死体の体内に入るため、人間の魂が宿る尻子玉が必要である。
それを抜いてからじゃないと人の体内に入ることが出来ない。
「普通に昼間行動すると死ぬ妖怪が多いけど、人間の体内に入ることによって、体を焼く太陽の謝熱を遮断するのよ。人の体が身を守ってくれるから。だから人の体を使うことによって昼間動ける妖怪がいるのよ」
「そうなんですね」
尻子玉を使えば人間の姿になることが出来る。
だけどそれだけでは無い。
尻子玉には妖怪たちにとって重要な使い道がもう一つだけある。
「それとね。尻子玉は妖怪同士の融合にも使われるのよ」
「え、融合。妖怪同士で合体をする、というですか?」
「そう。尻子玉を使うことによって別の、更に強い妖怪になることが出来るのよ。ただし一時的にだけどね」
「それじゃあ一時的に下級妖怪が上級になれるということですか?」
「そこまでは強くなれないけど、中級くらいにはなるかな。だけどね、妖怪たちだって滅多に合体なんてしないわよ」
「え、どうしてですか?」
尻子玉があれば簡単に強くなれる。なのになんで滅多に合体をしないのか。
それは大きなデメリットがあるからだ。
「合体に使うと、尻子玉とその人間の死体が消滅するのよ。つまり昼間行動するためにまた新たに死体を見つけなければ行けなくなるのよ」
合体は一時的な事、だけどその合体で人間になることが出来なくなるからだ。
メリットよりもデメリットの方が多いため、妖怪たちも、滅多な事が無い限り合体なんて、使いたくない手段。
「それなら、カッパと同じように生きている人間の尻子玉を抜けばいいのでは」
「それは無理よ。尻子玉を生きている人間から抜くと腑抜けになると言われているけど、それは尻子玉を抜かれた人間の存在が保てなくなったという事なのよ」
雪子は花子の言葉に頭を悩ませた。
それもそうだ。存在が保てないなんて聞いて、意味が分かる訳が無い。
「どういう意味ですか?」
「つまりね。尻子玉を抜かれた人間は魂がもぬけの殻になるの。世の中の断りでね、生きている人間の魂が入った尻子玉抜かれたら、世の中の歯車が壊れないようにしばらく動くけど、徐々に周りの人からその人の記憶か消えていき、最終的には誰もがその人間の記憶が消えた時に肉体がその場で消滅するの」
つまり、生きている人間の場合は尻子玉を抜いてもその人間の体に入ることが出来ないのだ。
何故なら尻子玉を抜かれた時、存在が消えるまでの間、別の仮の精神が与えられて体の中に入ることが出来ないからだ。
そして肉体の消滅と同時に尻子玉も消滅してしまう。
だけど死んだ人間なら話が違う。
「死んだ人間なら魂だけが消えた状態で、しかも元から体が動かないから、尻子玉を抜かれても別の精神が宿るわけじゃないの。最初からもぬけの殻だからこそ体の中に入ることが出来るのよ」
死んだ人間の場合は、妖怪が体の中に入っている間、肉体が消滅することは無い。
その死体が消滅する時は、肉体を奪った妖怪が死ぬ時と同時である。
「妖怪たちはここから20キロ離れた山にいるらしいわ。悪いけど雪子ちゃんも来てもらってもいいかしら」
「はい。分かりました」
本当は雪子を連れて行きたくない花子。
だけど嫌な予感がした。これは雪子がいないとこの誘拐事件は解決しないと。
そう思ったのだ。
「拓狼君を待たなくてもいいのですか」
「連絡してみたけど今、県外になっていて繋がらないのよ。悪いけど2人でいくわ」
拓狼の携帯が繋がらないし、何処にいていつ帰ってくるか分からない。
いつまでも待っている訳にもいかない、春香を守るため、2人だけで向かうことにした。
車に乗ってエンジンをかける
「雪子ちゃん。悪いけど今回は飛ばすわよ」
そう言って、ギアをドライブに入れて車を発進させた。
駐車場を出たところで、右にハンドルを切って、サイドを引く、滑らせて進行方向に車体を向けると、そのままアクセル全開で走り始めた。
「きゃあ、花子さん丁寧に運転してください」
雪子の言葉に耳を傾けない。
花子の表情は、真っ青になっているのを、横目で見た。
それもそうだ。実の娘が妖怪に食べられて死ぬかもしれない状況なのだから。
母親としては冷静でいられるわけが無い。
「ごめん。我慢して、でも絶対に事故は起こさないから」
花子は計算して運転している。
何処の信号機が青になってスームズに進行できるのかというのを。
だから雪子は驚いていた。
何故なら全ての信号が青になっているのが。
信号機は速度超過の車を発見したら赤になるようにプログラムされているのだが、そのプログラミングに引っかかる前に進行しているのだ。
それに夜ということもあって、故に何時もなら5分近くかかってしまうバイパスの入口に僅か1分ちょっとで乗れてしまったのだ。
警察が見つけたら間違いなく取り締まるだろう。そんな運転をする花子の隣で、街中の景色を眺める雪子。
すると彼女の目の前に驚きの光景が流れた。
屋根上を走る人影が見えたのだ。
それはホンの一瞬。ちょっと視界に入れただけなのだが、それでもはっきり視覚した。
その人影は、車を追い越してどこかへ向かっている。
「あれ、今のもしかして」
普通なら見間違いだと思うだろう。
だけど今の人影には狼の耳としっぽがあった。
だとすれば今のは拓狼の可能性がある。
「花子さん。今、拓狼君らしき人影が」
「私にも見えたわ。あの子また無理しないといいけど」
そう言いながら運転して先を急ぐ。
拓狼が1人で、妖怪たちの群れを入っていかないように、止めなくてはいけないから。
だけどここでトラブルが発生した。
目の前でトラックと一般車の衝突事故が発生したのだ。
事故によって一般車はガードレールに接触し斜めに停車、トラックは崖に衝突し道を塞がれる形になった。
急ブレーキを踏んで事故を回避したが進むことができる状況ではない。
「嘘でしょ。こんなことになるなんて」
トラックも当たった乗用車もエンジンがいかれて車を動かせる状況になかった。
Uターンしようにも後ろは渋滞して動けそうにない。
「時間がないのに」
すると助っ席に座っていた雪子がシートベルトを外した。
「雪子ちゃん。何してるの」
「この状態だと歩いて向かった方が早そうです」
そう言って、車から降りた雪子。
「先に向かいます」
「待ちなさい」
花子の言うことを聞かずに、扉を閉めた花子はそのまま道路を走り始めた。
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