ホレボレマキナ
マキナと沢山遊んだ。
「お前透視はズルだろ! 禁止だ!」
「え~何で―?」
「透視したらゲームにならないからだ!」
キカイのスペックの一端を思い知っている。それは元々知っていると言いたかったが、俺の肉体でスペックが落ちていてこれだ。いつか部品が全て集まったのなら、別れる前に完全体を俺に見せて欲しい気持ちが生まれてきた。
「お前サイコロの目操作してるだろ! 六ばっかり出るのおかしいじゃん!」
「振り方よ。ニンゲンには真似出来ない?」
トランプで勝ち目が無いと分かればボードゲームなら公平に戦える。そう思っていた時期が俺にもあった。よりにもよってサイコロは自分で振る仕様だったので自由に出目をだせるマキナ圧倒的有利に終始していた。
「お前ええええええ! 俺の持ち物を返せえええええ!」
「やだ♪ 返さない♪ こんなマスがあるからいけないのよ」
「うがああああああああああ!」
ゲームの中の俺、破滅。
何故人間社会に疎いキカイがこんなにもゲームが強いのか。何個か遊んで試したが、『
「やったー! また私の勝ちね! 最強! 最強!」
「くっそおおおおおおお…………」
「もう一回してもいいわよ? 何度やっても私が勝つだろうけど!」
「チート女ぁ……! もう一回だ。人類の底意地を舐めるな!」
勝手に人類代表面をする俺と、そんな間抜けと遊べる事が余程楽しいのかマキナは髪を煌めかせながらニコニコで何度でも勝負を引き受けてくれる。手は抜いてくれない。全力でやって、普通に本人のスペックで負ける。
「ぐわあああああああああああ!」
「何でだよおおおおおおお!」
「ズルすぎるうううううう!」
何度も何度も何度も何度も。日が暮れるまでずううっとマキナに挑み続けたが、遂に俺が勝利を手にする事はなかった。燃え尽きた俺はその場に倒れ込み、マキナに上から覗きこまれている。
「まだやる?」
「もう…………無理ぃ」
精神的に心を折られて完全ノックアウト。マキナはニコニコ笑顔のまま隣に寝転がって、俺の手を身体で挟んだ。
「うふふ、有珠希って弱いのねッ! 私びっくりしちゃった!」
「お前に一戦でも勝つには本当に運だけの勝負が必要そうだな……はあ。もう時間も時間だし、そろそろ帰っておくか」
「…………!」
時計を眺めてそう言ったつもりだが、目の前で時計の針が巻き戻された。だが外は日が落ちつつあり、決して時間が巻き戻った訳ではない。
「おい、時計を狂わせるな。帰らないと、本当に泊まらないといけなくなる」
「むぅ……」
立ち上がって荷物を纏める。と言ってもボードゲームはこちらに残してもいいので、来た時よりは身軽になれる。
「本当にもう帰っちゃうの?」
「そうだよ。何か文句あるか?」
「…………もっと一緒に居たいわ」
それは俺も同じだ。
もっと多くの時間を、多くの割合を、マキナと共に過ごしたい。マキナの為に使いたい。けれど俺にも人間の生活という物がある。帰るのは怖い。学校での騒動が家に伝わっている可能性を考慮している。両親の耳に伝わればタダでは済まないだろう。家を追い出されたら、その時はマキナを頼るか。
扉の前に立って、ドアノブに手を掛けた。これを押して外に出るだけでいい。振りき会えると、マキナは寂しそうに銀の瞳を伏せて俺を見つめていた。
「……何だよ。そういう顔するなって。俺だって寂しいよ。でも帰らないと不味いだろ。色々」
「……ええ。そうよね。分かってるわ。分かってるけど」
「…………マキナ。ちょっとこっち来い」
「へ?」
「いいから、来い!」
ちょいちょいと指先で彼女を呼び寄せると、近寄って来た身体を捕まえて、位置を入れ替える。扉に押し付けると、肩を掴みながら口づけを交わした。
「んっ―――!?」
サァっと頬に朱がかかる。心を読めるキカイは気分でその機能をオフにしているのだろうか、俺の行動は不意を突いていた。間髪入れずにもう一度キスをして、それから強く抱きしめる。鼻から限界まで息を吸い込んで、マキナの身体を纏う不思議な匂いを吸い込んだ。
「ん…………んぅ。ん。ぁ。ぅずき……!」
「お前にそんな顔して欲しくない。俺はお前の楽しい顔が好きなんだ。また明日も来るから、寂しそうな顔をしないでくれ」
下半身を苦しそうに動かすマキナ。熱に浮いた視線がぼうっと俺の顔をぼんやり見つめている。それがあんまり煽情的で可愛いから、抱きしめる力も強くなってしまう。人間の普通の女子なら、痛いと言って間違いなくそいつを嫌いになるくらい。
だが相手はキカイ。俺がどんなに力を籠めようとも身体の造りが根本的に違う。痛がるどころか、むしろその体温の高さに俺が手を離してしまいそうになるほどだ。
「……本当に来てくれる?」
「ああ、来る。来れるなら」
「約束よ!」
会話の為に唇を離した。これがそもそもの間違いである。今度はマキナが俺の身体に飛びついてきたかと思うと、口に舌を入れてまで、熱烈な接吻を返してきた。
「有珠希、有珠希~♪」
「んぐぅお!? んんんんんぐうぐぐうううううう!」
くびれた腰を掴んで力ずくで引きはがす。子供を高く持ち上げている様な状態だ。それにしてもあまりに凶悪な吸引力で、俺の舌が引っこ抜けそうだった。
「殺す気かこの大馬鹿野郎! そんな奴はこうしてやる!」
持ち上げたまま、身体をくるくる回して大回転。視界は廻るが糸はなく、マキナは楽しそうにキャッキャと声を上げて喜んでいる。不意に彼女の重力が反旗を翻して天井に足をつけたかと思うと、唇の交わりだけで俺の身体を浮かし、そのまま頭を掴んで拘束。首を吊ったみたいに足をばたつかせるも、それは事態を何ら解決しない。
「ぜえったい明日も来るのよ! 私待ってるんだから! 破ったら殺すんだから! うふふふふふふ♡」
そんな感じで無駄な抵抗を繰り返す事一時間。
家に全く帰れない。
『キカイにとっては足りないのッ。ずっと、ずっとずっとずっと。永遠でも足りないくらい! こんな感情、初めてなの……手放したくないの!』
そんな事を言ってゴネていたマキナを置き去りに俺はようやく帰路に着いた。あんな事を言っても決して強硬手段に出ないのがアイツの美徳だ。
閉じ込めたいというなら『強度の規定』で俺を溶かして瓶詰にでもすればいい。
単に支配したいなら『傷病の規定』で命を人質として奴隷にすればいい。
それをしない優しさが、マキナにはある。このキカイは優し過ぎて、自分に力がある事さえ忘れるようなポンコツなのだ。人間の倫理で言えば人間を何とも思わない存在は駄目なのかもしれないが、客観的に善行であると認められれば何をしても良いと思う連中よりは余程信用出来てしまう。
『あれ、そう言えば有珠希って―――』
何か気になる事も言っていたが、もう帰らないと本当に危ない。
ああやって触れ合っていると、俺も身体が熱くなる。マキナに触れている部分の全てが熱く、俺はそれ以上に熱い。柔らかくて、しなやかで、眩しくて、綺麗で、美しくて。危機感から早く離れろと本能が警鐘を鳴らしていたが、それ以上にこの身体が見目麗しき金髪銀眼のキカイを欲していた。
このまま一生抱きしめて、閉じ込めて、外界を禁じて、深海の底か宇宙の彼方かで眠りたい。
俺は、楠絵マキナが、欲しい。
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