詠唱




 薄紫色の釣鐘状の花を咲かせて、根は細根が複雑に絡み合った形をしていて、しばしば人の姿に見立てられる植物、マンドレイクが他の生物を襲うのは、ほとんどが病にかかっている時。


 ダラリラダラダニに噛まれる。

 ソンマモリヤラ木の粉を吸う。

 ドランゲランペ花の蜜を浴びる。

 ペッペポバビゲ草の棘を踏む。

 バスボリキョキ土に接触する。


 たいてい以上の五つが原因で病にかかったマンドレイクを治癒するのも魔法使いの務め、なのだが。

 呪いの影響なのか。

 あり得ない数で、しかもほうきに乗っている魔法使いにのみ襲いかかってくる。 

 どれだけ高い上空を飛んでいようがマンドレイクには関係ないのだ。


 魔法使いの少女、まいはそれぞれに対応した呪文では追いつかないので、すべてに効果がある、とても、とてーも長い詠唱を喉が枯れるまで言い続けた。

 魔法使いの少年、すずも同じく。

 常に薄い結界が張ってある、それぞれの使い魔のマンドレイクにも協力してもらって治癒し続けた。


(終わった)


 とりあえず襲いかかって来るマンドレイクの病を治癒してから寝転びたいのを我慢して、舞は体力回復のために薬草集めに、涼は我慢せずにその場で寝た。グースカピーと大きな寝息と鼻ちょうちんを作って。

 必要な薬草を集めた舞は調合通りに薬草を配合、すり鉢に入れてすり潰し、本来は丸めて飲み込むのだが丸薬は苦手なので、少しずつ口に入れては飲み込んだ。

 すっぱにがい。最悪だ。


「回復方法。おまえも【寝る】にすればよかったのに」

「寝ていたら何かあった時に対処が遅れるからヤダ」

「まあ、仲間がいないとだめだよなこれ。結界を張ればいいんだろうけどよ。体力使い果たしたらできねえし。だからおまえがいて助かったわ。あんがとな」


 相も変わらず回復が早い涼はものの十五分で目を覚まして、地面に横になったまま頬杖をついて舞を見た。


「おまえの好きなやつも同じ方向にいるんだな」

「そうね」

「同じやつだったりしてな」

「そうね」

「まあ、誰かは言わねえけど。だって、やっぱ、一番に言うのは本人じゃねえとな」

「そうね」

「またマンドレイクが襲ってくると思うか?」

「そうね。もう相手は準備完了らしいわよ」


 舞と涼を取り囲むように無数のマンドレイクが立っていた。

 舞の回復は七割程度。

 涼は全快。

 使い魔のマンドレイクは、疲れ知らず、らしい。

 先ほど治癒したマンドレイクも加わって、今すぐ治しちゃるわと言わんばかりに走り出したマンドレイクたちに押されるように、二人は静かに詠唱した。






 ここはマンドレイクの森。

 魔法使いの里を取り囲む、マンドレイクを含む多種多様な生物が暮らす巨大な森。

 どこへ行くにもこの森を通り過ぎなければならないのだ。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る