未知
あの方は春夏秋冬の感謝祭にお付きの方と二人で魔法使いの里にいらっしゃった。
年は私たちと同じか、少し上。
時には、白いタキシードの王子の姿で。
時には、足首まで隠れる淡い色で染められたドレスの王女姿で。
性別不明なの。
あの方は言った。
子ども特有なのかしら。
私特有なのかしら。
『困らないから今はどれも楽しもうと思っているの。男も女も不明も』
私たちと同じ深緑色のフード付きロングマントを翻して、あの方は言った。
出会った時も今も、少し怖いと思った。
言動が乱暴なわけではない。
私達とは違う、未知な生物のようで警戒しているのだと思う。
王女さまだからだろうか。
王子さまだからだろうか。
とにかく不思議な方だった。
透明な地面やきざはしを歩いているように、同じ道を歩いているのに違う空間を歩いている。
謎めいていて、薄い結界を常に張っていて他者を遠ざけているようで、でも私たちの輪に気紛れに、躊躇なく、入り込んでくる。
話して、動いて、食べて、寝て、笑って、怒って、悲しんで、哀れんで。
同じなのに、どうして違うと思ってしまうのだろう。
何を話せばいいかわからず、話すとしたらその季節の旬の果物の話くらい。
野苺、山桜桃梅、枇杷、無花果、団栗、栗、金柑など。
そもそも話したこともごくわずか。
ただ、疲れたと言って、本を読む私の横で眠って、起きたら話して、お付きの方と宿へと戻る。
タキシードだろうがドレスだろうがおかまいなく。何をして来たのか。そもそもすでに汚れているから構わないのだろうけれど地面の上に直接仰向けになって。
微かな吐息さえ聞こえず、死んでいるのではと危惧したことは幾万回。
口元が小さく波打っているので、生きているとわかって安心したのも幾万回。
本を読んで、この方を見て、本を読んで。
不思議と気は散らない。
それどころか、いつもより集中できる。
いつもより深く呼吸ができて、身体に余計な力が入っていないのがわかった。
どうして。
なぞすぎる。
怖いのに。
嫌ではない。
不思議な感情だった。
まだここに。
となりにいてほしい。
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