第12話 時は金なり 会話は大事
「ねぇねぇヒカリちゃん、ちょっと話聞いて!。」
たつの市から帰社した日の15時。
ツクモ工務店で新しい荷物を積んでいる最中に経理のお姉さんが話しかけてきた。
「ちょっと待っててください。」
ヒカリは手元の荷締めを済ませ、トラックの荷台から降りた。
経理のお姉さんこと小馬木(こまき)さん。
休み時間ではないが、事務所もドライバーと同じく時間が余るらしく、パンデミックになってからよく喋るようになった。
「ちょっとうちの子のことで相談が…。」
ちなみに経理のお姉さんと呼んでいるが、大学生の息子さんがいるらしい。らしい、というのは本当に二十歳前後の子がいる親に見えないくらい若々しいから。知らなければ美魔女。
「ヒカリちゃんなら歳が近いからお願い…。主に息子の就活とバイトについて。」
「ワタシデヨロシケレバ………。」
若干の予感。
その相談ワタシでよろしいのでしょうか…?
「というわけなのよ…。親としては心配で。」
「それは心配にもなりますねぇ。」
イヤな予感とは裏腹に思ったより初歩的な相談でホッとする。
小馬木さんの話を要約すると、今年大学生になったの息子さんが初めてのバイトする。
しかし親としては「報酬がいい」と高い報酬に釣られたことや、提出書類の多さに驚いて心配で堪らないとのこと。
「確かに、この前も大手サイトの高額報酬バイトが、何か違反になったとかニュースありましたもんね。」
「そーそー。甘い話に乗るなって言ってるのに。」
「心中お察しします。」
「しかもね、それ聞いたのが採用された後なの…。」
「あー…。」
良くも悪くも行動力。
息子さん、もう少しブレーキ踏んであげて。
「よほどおかしな報酬じゃなければ…、短期バイトの割がいいのは普通だと思いますよ。相場は知りませんが。」
「相場…。」
「この近辺で高額ってなると、フルサービスのガソリンスタンドが1200円前後ですね。あとは深夜作業とか。」
「…調べたの?」
「はい♪。(※面接先候補でした。)」
「若いのによく調べたね…。」
「働くなら時給の良いところに行きたいってのはみんな一緒ですよ。」
「1日で1万円以上って。」
「………短期なら無難なんじゃないですかね。」
無難に応える。キモチは分かりますが。
「それより心配のタネの、提出書類したですが、何を出したことが気になるんですか?」
「マイナンバーとか免許証とか。気軽にコピー渡していいのか…。悪用されないかしら…?」
「………。」
これはなんというか…。
「まったく問題ないですよ。普通に身分証明書です。」
ちなみに愛知県の最底賃金は令和3年10月1日で955円(さらに令和4年10月1日で986円に改訂)。会社側が税務署に提出するのでマイナンバーは必須。
「確かに、最近は『こんなものまで!?』って書類や募集内容にクセがある…ユニークな企業もあります。マトモな会社かどうかなんて、上場株式会社でも実態は分かりませんよ。」
ヒカリの頭に前職の長時間労働がよぎった。
「マトモで羽振りのいい会社ならラッキーです。何か変なことしてたら、警察なり弁護士に駆け込めば良いんです。気をつけないといけないのは、仕事で犯罪に加担してお金受け取って逃げられなくなることです。」
「でも最初から安全なところのほうがいいでしょ…。」
「それこそ、中の人間までホワイトかどうかなんて人生100年生きても見分けられませんよ。上場企業でもブラックなのに…。」
「そういえばヒカリちゃんの…」
「そう、私の前職、ブラック💢」
ヒカリの頭に地獄の長時間労働がよぎった。
「会社がマトモそうな…それっぽい現代風の目標や制度を作っても、舵をきる人、一緒に仕事する仲間次第でそれはブラックです。」
ヒカリ、渾身の断言。
「個人情報を…履歴書に触る人が必ず善人かなんて、それこそ場数を踏んでも見分けられません。心配は分かりますが、今は見守ってあげたらいいと思います。」
「………。」
「もちろん、最初からおかしな仕事だったなら全力で止めるべきです。肝心なのは、『おかしな会社からは自分から逃げる。』です。」
「逃げる…。」
「もしその会社で犯罪の片棒を担ぐようなことがあれば、下手に関わりすぎて自分の罪が重くなるだけです。あまりに酷ければ第三者を巻き込んで『こんな被害にあいました。』でいいんです!! 環境がおかしいと人の良心も常識も歪むモンなんです!!」
「ちょ、ヒカリちゃん落ち着いて。」
いつの間にかゼェゼェと肩を上下させ、ヒカリは力説していた。
「スミマセン…。とにかく小馬木さんの心配は分かりますが、マイナンバーカードは雇う側の必須書類です。ジェネレーションギャップです。お金に関しては、思うところもあるでしょうが…短期なら時給がいいところなんていくらでもあります。親がいるうちの社会勉強だと思って見守ってあげたらいいと思います。」
「…分かったわ。」
小馬木さんは困り顔のままにうんうん頷いた。
まだ納得してないか…。まあ、初めてのバイトだもんね。大学生で初めての…。
「あと…そういえば。」
「ん?」
「もしお金使って遊ぶのを覚えたら、そのうち短期バイトじゃ足りなくなりますよ。何回も面接するなんて面倒で普通に働きだします。」
「た、たしかに…!!」
小馬木さんの困り顔が一気に消し飛んだ。
「仕事が長引くとか、仕事帰りにご飯食べて遅くなるとか、遊びにお金使いすぎるとか…そっちのほうが現実的な心配事ですよ。その辺をきちんと話し合ったほうがいいです。」
「是非そうするわ!」
小馬木さんが私の肩を揺らして喋る。
「ありがとうヒカリちゃん! モヤがスッと晴れたわ!」
「お役に立てたなら何よりです…。」
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