徒然W(ダブル)ワーカー草子

加糖かける

第1話 給料日の絶望

「うおぉ…。」 

 安城ヒカリ25歳、乙女にあるまじき声をあげて膝から崩れた。

 待ちに待った8月25日、給料日。

 今日はちょっぴり贅沢しちゃったり♡なんて心弾ませ、「今月もお疲れ様ー!」と自分を労う日。働く最大の理由。

「今日はみなさん、いっしょの反応です…。」

 経理部のお姉さんはため息をつく。

「少ない!少なすぎる…(泣)。」

 カウンター前でしゃがんだまま、奥の上司の目も気にせず嘆き続ける。

「今までもジワジワ減ってたけど、今回は『ガッツリ来た!』って実感しました。」

 見上げたカウンターが絶壁に見える。

「1番下がった人は…どうでした?」

「たしか…、えっと、よ、あ、5割くらい………?」

「5!?」

「ヒカリちゃんはもともと少なかったから、ホントに大変だと思う…。」

「もとが多くても大ダメージっすよ…。」

 再び明細を確認する。

「その人、青くなってませんでした?」

「………。」

 思い出したのか、こちらも苦い顔をした。

 何度見ても変わらない給料明細。

 社会保険に所得税、各種手当てに計算ミス、まったく問題ナシ。

 総支給、出勤日に対して滅茶苦茶低い。

「うわぁああああーーーん(泣)」








 最低賃金。

 正式名称『地域別最低賃金』。

 最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者はその最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度である。(厚生労働省ホームページより。)

 ようするに、労働者が実際に労働した時間に応じて最低限貰えるお金。

 例として、作者が住んでいる愛知県の地域別最低賃金が955円(令和3年10月1日)。出勤日数が23日なら、総支給額は単純に17~8万円、手取りにすると約13万くらい貰える計算である。ちなみにこの金額は働く貧困層(ワーキングプア)と呼ばれる水準である。当然、各種手当や補助は別にあるとして…。

 贅沢はできないが、無資格・未経験・非正規・新人でもひとまず目指すことができる金額、不況でもこれ以上減りようのない給料である…。


「安城ヒカリ、25歳です。本業の収入が下がったので御社での副業を希望しています。」

「減収?好調な業界なのに?」

「同じ業界ですが、うちは取引先のほうが不況の影響を受けてまして…。」

「なるほど、それは大変だね…。ああ、それでシフトはどのくらい入れますか?」

「ほぼ毎週と祝日。生活がかかってますんで。」

「…分かりました。来週からよろしくお願いします。」

「あ、ありがとうございます!!!」


 安城ヒカリ(25)彼氏ナシ独身、愛知県在住。

 職業、工務店のトラック運転手。

 9月から食品工場で副業します。


 ただいまの手取り『12万円』。


 生活費が足りない(泣)。

 

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