06:王家の場合 前編




「オリヴィアが婚約破棄をした、だと!?」

 いや、正確には婚約破棄申請だが、筆頭公爵家あの家が申請した物を却下出来るわけがない。

 しかし破棄理由は何だ?

 健康であれば、身分も気にしないとまで婚約者の条件を下げていたのに?

 だから、王太后の実家が「高位貴族以外の婚約者は認めるな」と無理を言ってきても、低いよりは高い方が良いだろうと後押ししたのだ。


『其の壱、長年に渡る婚約者としての義務の放棄

 其の弍、長年に渡る婚約者オリヴィアを侮辱する発言

 其の参、婚約者オリヴィアを裏切る不貞行為

 其の肆、公爵家に対する侮辱発言および不敬罪』


 何だ、これは。

 証拠として提出された分厚い証言書類を読んだ。

 気が遠くなった。比喩では無い。

 本当に意識を失いそうになったのだ。


 国の重鎮が集まるような高位貴族のパーティーへのエスコートを断り、低位貴族が集まる若者が馬鹿騒ぎするだけのパーティーに参加?

 それも一度や二度ではないだと!?

 その際に、友人達に「オリヴィは俺としか婚約出来ないから、何をしても自分に逆らわない」と言って馬鹿にしていた?


 なぜそんな勘違いが出来たんだ?この馬鹿は。

 侯爵家の三男だろう?

 ファーラ従妹は嫁入り先で、何をしていたのだ!

 なぜ三男だけ、教育の手を抜いた!?

 書類を読む限り、真面まともな貴族教育を受けているのかも疑問なレベルだ。


 謝罪をしようと筆頭公爵家を呼んだが「忙しい」と断られた。



 王立学園から生徒が居なくなったと、臣籍降下した弟に泣きつかれたが、どうしようも無い。

 学園は義務では無いからだ。


 後日、オリヴィアが学園を作ると、申請をしてきた。

 許可するしかない、完璧な書類だった。

 土地の確保、教師陣の確保、建物と設備も許可が取れたら、すぐに着工出来る手続きが終わっている。

 教科書の草案も一緒に提出されていたが、王立学園とは違い、実力主義の、本当の教育をする学校だった。


 反対する理由など無い。許可を出すしかなかった。




「筆頭公爵家から、オリヴィアの婚約申請が出てるだと!?」

 他の貴族から、筆頭公爵家との婚約の話は聞こえてきていない。それこそ男爵家まで、オリヴィアとの婚約の話が少しでも浮かんだら報告するように、影を潜ませている。


「どこからも情報は無いだろうが!そんなもん、握り潰せ!オリヴィアはほとぼりが冷めたら、王太子のきさきに迎える!」

 怒り狂った筆頭公爵家を懐柔するには、王家に抱き込むしかない。

 身内になれば、怒りの矛先がこちらに向く事も無いだろう。



 王家には丁度良い年齢の未婚の王子はいない。

 しかし、傷物になった今なら、王太子のでも構わないだろう。

 年は10歳ほど離れているが、貴族なら許容範囲だ。


 相手の家に圧力を掛け、これからの婚約申請を全て潰す。

 そして結婚を諦め始めた頃に、王太子の側妃の話をしてやれば、筆頭公爵家を王家に抱き込める上に、恩を売れる。


 我ながら良い考えだ。


「無理です」

 報告してきた侍従が言い切る。

 何だ?コイツは筆頭公爵家に賄賂でも貰ったのか!?



「婚約相手は、他国の王子です。しかも2ヶ国とも、うちとは比べ物にならない大国です」

 王子が相手?他国へオリヴィアが嫁ぐのか?

 いや、相手は2ヶ国だと言ったな。


「意味が……理解できんのだが?」

「他国から、しかも2ヶ国から、筆頭公爵家へ、王子が、婿入りしてくる、という事です」

 侍従は言葉を区切り、まるで子供に言い聞かせるように説明してきた。

「しかも、優秀と名高い王子が、ですからね」


 もし反対したら、オリヴィアどころか筆頭公爵家が国を出て行き、他国との戦争が始まるかもしれないとまで、この侍従は脅してきた。

 仮に物理的な戦争ではなくても、経済制裁は覚悟しろとも言われた。



 オリヴィアの婚約申請書類を見て、侍従の言葉が理解出来た。



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