男爵家次女

 



 男爵家の次女であるミリアムは、そこそこ可愛い顔と、歳の割に発育の良い体をしていた。

 子供の頃は可愛いと評判だったが、ある程度の年齢になると、家格が上の令嬢達に追い抜かされた。

 それはそうだろう。


 掛ける金額が違う。


 顔の作りは変えられないが、髪や体は変えられる。

 ミリアムの顔が多少可愛くても、艶々の髪に抜けるように白い肌をしている美容に大金を使える令嬢の方が確実に可愛く見えた。


 学園に入学し、貴族の令嬢を見て、更に現実を突きつけられる。

 伯爵令嬢や侯爵令嬢が相手では、足元にも及ばなかったのだ。所作の違いもあり、どう足掻いても勝てない。


 当然だった。ミリアムはほんの1ヶ月前まで平民だった。

 しかも実の母親は娼婦だったのだから。


 ミリアムの中で不満が募っていった。

 そんな時に出会ったのが、侯爵家三男のウィッキーだった。

 胸元のボタンをひとつ多めに開け、常に上目遣いで話し掛けていたら、面白いくらいに釣れた。


 ウィッキーの婚約者は公爵家の令嬢で、家柄も所作も顔もミリアムよりも遥かに上だった。

 しかし、それがウィッキーには気に入らないようだった。


「公爵だからと、いつも上から目線なんだ」

「いつも俺にあれをするな、これは駄目だと命令ばかりする」

「俺としか結婚出来ないくせに、俺を大事にしようとしない」


 ウィッキーが文句を言うのを全て肯定していたら、いつの間にか恋人扱いされていた。


「ミリアムはアイツと違って素直で可愛い」

「ミリアムはアイツと違って偉そうにしない」

「ミリアムはアイツと違って俺を理解してる」


「アイツの魅力は公爵家令嬢だという肩書きだけだ」

「アイツは、家の権力が無ければなにも出来ない」

「アイツの婚約者なんて、不幸だ」

 ウィッキーが婚約者を貶す度に、同情して同調してみせた。

 周りが「婚約者をないがしろにしない方が良い」と忠告しても、「本当の事を言って何が悪い」とウィッキーは聞く耳を持たなかった。


 自分より遥かに上の存在である公爵家令嬢が自分より下だと貶されるのを聴くと、自尊心が満たされた。


 将来的には、公爵令嬢と結婚したウィッキーの愛人になり、楽しく暮らすのだと思っていた。

 正妻になりたいのではない。

 侯爵家三男では、継ぐ家が無いのはわかっていた。


 ウィッキーは、公爵家に婿入り出来るのは自分しか居ないと言っていた。

 公爵家と釣り合う爵位は伯爵家からで、伯爵家以上には婿入り出来る三男がいないと、そう言っていたので安心していた。


「何もしなくて良い。公爵家の邪魔をしなければ」


 それが婿入りの条件だと。



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