08-11S インタールード 摂政
━━━ガーベラ会戦後、クチュクンジ公子を首都から追い出した帝国中央政府は新たな帝国宰相に名門出身のアーガー・ピールハンマドを選んだ。━━中略━━今日の目で見れば経験不足の若者を、ピールハンマドはそれまでの人生の大半を宗教修行のみに費やしていたと推測される、乱世の帝国宰相として選出するのは無謀としか思えない。だが、宗教国家であった当時の帝国では、帝国宰相は厳しい宗教修行で神通力を得た者が就任する職と認識されており、この時点で彼以外に該当者は無かった。━━中略━━当時の中央政府はクチュクンジらに帝国玉璽等を持ち逃げされており、更に二度の政変で多くの貴族が粛清されていた。前例が通じない困難な環境となっていたのである。━━中略━━新宰相ピールハンマドは次期宗主の最有力候補であるバャハーンギールとの折り合いも悪かったという。新政権は最初から波乱含みであった。━━中略━━一方で注目すべきこともある。アーガー家は前宰相のエディケ家と共に帝国崩壊後も家名を維持した数少ない中央貴族である。その礎を築いたのがアーガー・ピールハンマドであるのも事実なのだ。━━━
『ゴルダナ帝国衰亡記』より抜粋
帝国歴一〇七九年十二月三日、凱旋式から二日後。
帝国宰相アーガー・ピールハンマドは怒っていた。
激怒と言ってよい。
この状況自体が怒りの種であった。
カゲシン正堂の奥まった一室。
中にいるのは六名。
帝国宰相アーガー・ピールハンマドの他は、マリセア公子で宗主の弟であるフサイミール宗主補、宗主の息子であるバャハーンギール公子、宗主護衛騎士団団長ラーグン・ホダーイダード、説明側の医師として、カゲシン施薬院主席医療魔導士兼宗主侍医主任のシャイフ・ソユルガトミシュ、宗主侍医主任補佐であるモローク・タージョッの六人である。
それぞれ従者も連れていない。
集まりは宗主の容態についてだ。
宗主が心臓発作を起こし、蘇生したがそのショックで以前からの『網膜剥離』という目の病気が急激に進行、失明に至ったとの報告である。
失明は治癒する見込みはなく、全身状態も悪い。
マリセア宗主の任に堪えられる体調ではなく、回復の可能性も限りなく低いとの報告である。
本来、このような重大な報告はまず帝国宰相である自分だけに知らせるべきだとピールハンマドは考える。
その上で、誰に知らせるのかはピールハンマドが判断すべきなのだ。
だが、医師団は勝手にこのメンバーを招集した。
シャイフは百日行と五百日行を達成した敬虔なるマリセア正教信徒であり、モロークも若年女性でありながら百日行を突破している。
二人ともその地位にあってしかるべき人材であり、ピールハンマドは当然自派閥と考えていた。
その二人がこのような行為を行ったのはショックであった。
「宗主猊下がまずフサイミール殿下に知らせろとお話しされましたので」
ピールハンマドの叱責にシャイフは弁解した。
「フサイミール殿下にお話ししたところ、このメンバーでの会合となった次第です」
こう言われてはピールハンマドも反論は難しい。
バャハーンギールの目もあり、次からは自分を優先するようにとの話で終わらざるを得なかった。
宗主失明の話は衝撃的だった。
体調全般が悪く、歩くことどころか、起き上がることもできないとの話も。
だが、それは分かっていた衝撃だった。
誰も宗主が失明するとは考えていなかったが、宗主の健康状態が悪いことは周知の事実だったからである。
失明が治療不可能という事実は、一か月ほどしてから、宗主の容態を見ながら話すことで全員がすぐに一致した。
何時まで意識があるのかすら分からないのだ。
無理に伝える必要はない。
宗主の権力基盤は強固であり、強制退位は各方面から大きな反発が来るだろう。
はっきり言えば、誰も宗主の首に鈴を付けたくはないのだ。
「それで、だ。
猊下は、少なくとも当座の公務は困難であろう。
摂政を立てるしかないと考えるが、どうだ?」
宗主補フサイミールが分かったような、分かっていないようなことを言う。
「叔父上、猊下は回復困難との事。
クチュクンジが宗主を僭称している現状では混乱は避ける必要があります。
退位は別として、次期宗主の指名をして頂くのが最善と考えますが。
摂政はその次期宗主が就任すればよいかと」
バャハーンギールが喜色満面でフサイミールに進言する。
「まあ、そうかも知れぬが、猊下が数日以内にそれを受け入れることはないであろう。
猊下は先日もしばらくは次期宗主の指名はせぬと、お話になっておられた。
そして宗主猊下はマリセアの正しき精霊の御加護を最も受けられるお方でもある。
どんな難病もマリセアの正しき精霊により治癒する望みはあるのだ」
フサイミールの言葉にバャハーンギールが沈黙する。
マリセアの正しき精霊による治癒、建前ではあるが宗教国家の中枢でそれを否定できるものはいない。
シャイフとタージョッも微妙な顔で頷く。
「現状で摂政と言えばフサイミール殿下ですな。
先代のエディゲ宰相閣下もそう言っておられました」
「うん、私は摂政などという面倒な仕事は嫌だぞ」
ピールハンマドの言葉をフサイミールがあっさりと流す。
「しかし、その様な取り決めと聞いておりましたが」
「本職もそのように承っております」
ピールハンマドの言葉に護衛騎士団長ラーグンが加勢する。
「それは、直ぐに即位できる候補者がいない、または複数いて調整が出来ていない場合の話だ。
私は長くても六か月と期限を切っていた。
宴会もブンガブンガも制限される職など、それ以上はやるつもりはない」
「では、六か月だけでも、・・・」
「だから、現在は候補者が一人だけではないか。
そういうことで、どうだ、バャハーンギール、摂政を引き受けぬか?
次期宗主として帽子に羽が付くし、その練習にもなるであろう」
「叔父上の推薦を頂けるのであれば、喜んで」
「フサイミール殿下、お言葉ですが、宗主猊下が退位される前に次期宗主について言及するのは時期尚早ではありませぬか?」
「その通りでございます。
猊下はまだ退位されておりません。
後継者を指名できるのは猊下だけです」
笑みを隠し切れないバャハーンギールにピールハンマドとラーグンが抵抗する。
「うん、其方ら不服なのか?」
男一人愛同盟の精神的指導者は、何を言っているという顔だ。
「言っておくが、シャールフは宗主にはならぬぞ」
フサイミールの言葉に図星を突かれた二人が絶句する。
ピールハンマドは未成年のシャールフを教育して宗教修行を行わせ、自分の理想の宗主に育て上げる考えだ。
姉であるネディーアールが百日行を達成しているのだから、同母弟であるシャールフも可能と信じ切っている。
ラーグンは心身ともにシャールフに心酔している。
二人はシャールフを次期宗主にという一点で協力関係にあった。
「シャールフの後ろ盾であるクロスハウゼン・カラカーニー、そしてその孫のバフラヴィーは共にシャールフを宗主にするつもりはないそうだ。
諸侯でもない自分たちに宗主を支える力はないとの考えだ。
そして、シャールフ自身も宗主になる気持ちはない」
フサイミールの言葉に愕然とする帝国宰相と護衛騎士団長。
「先日、シャールフが西部から東部に移動する際にカゲクロで会ってきた。
シャールフは帝国の危急存亡の秋に無用な跡目争いはするべきではないとの考えだ。
マリセア宗家は年長者のバャハーンギールが継ぐべきと。
自分はシュマリナ太守として兄を支えたいと。
ヘロンでそのように言ったそうだな?」
「その通りでございます。
我が弟ながら、長幼の序を心得た殊勝な心掛けと感じ入っております」
バャハーンギールは得意満面だ。
「確かに、シャールフ殿下であれば、そのようにお話しされるかもしれません」
勝ち誇るバャハーンギールに対して、護衛騎士団長ラーグンが不承不承と言った態で頷く。
ラーグンとしてはシャールフの宗主就任が最善と考えるが、シャールフ自身の意向には逆らえない。
そして、フサイミールの言うシャールフの言葉は嘘とは思えなかった。
ピールハンマドは焦った。
彼が考えるマリセア正教ニクスズ派主導による宗教改革、そして帝国の改革のためには同じ思想を持った宗主が欠かせない。
バャハーンギールではダメだ。
バャハーンギールは、名目上はニクスズ派だが、宗教修行に全く興味を示さない。
その取り巻きも宗教修行を殆ど行わないエセ宗教貴族ばかりである。
ピールハンマドが最も排除したいと考えている者たちだ。
ピールハンマドは未成年のシャールフを自身で養育し、宗教修行を完遂させ、自身と同じ信仰至上主義にするつもりである。
「いや、しかし、宗主猊下のご意向もあるかと考えます。
まずは猊下のご意向を確認するのが宜しいかと」
ピールハンマドの必死の抵抗にバャハーンギールはいらだった表情を見せたが、フサイミールは「それもそうだな」とあっさりと頷いた。
「シャイフ、猊下は、話はできるのだな?」
シャイフが後ろのタージョッに目をやる。
「猊下はまだか細い声でしかお話しできません。
私か、乳母のサライムルク殿が間に入れば意思疎通は可能です」
「ふむ、では、このまま移動しよう。
猊下が素直に応じて下さればよいのだが」
フサイミールの一言で、会議のメンバーが揃って宗主居室に移動する。
案の定、宗主は抵抗した。
主として話したのはフサイミールである。
通訳はサライムルクだ。
フサイミールは譲位の話から始めた。
当然、宗主は拒否である。
幾度もの押し問答の後、フサイミールはバャハーンギールを摂政にとの話に切り替えた。
だが、これも宗主は拒否する。
たまらずバャハーンギールも横から口を出したが、宗主の意向は変わらない。
だが、フサイミールは粘り強く交渉を続ける。
最終的に、宗主は半年、六か月間だけフサイミールを摂政に立てる事を認めた。
一時間余りの交渉の結果がこれである。
正式な書類が用意され、宗主が乳母サライムルクに手を副えられて署名した。
摂政はフサイミール。
期間は六か月。
ただし、宗主の意思が確認できない場合は自動的に六か月延長される。
思いがけない展開にバャハーンギールは真っ青になっていた。
対照的にピールハンマドとラーグンは笑みを隠し切れない。
だが、二人の笑みは宗主の部屋を出た途端に消えた。
フサイミールはたった今署名された書類を室外に待機していた従者に渡すと、代わりに一通の書類を受け取り、確認してバャハーンギールに渡す。
それは、バャハーンギールを『摂政代理』に任命するとの書類であった。
「まあ、こんな所であろう。
猊下が渋るのは分かっていた。
だが、盲目では仕事にならぬ。
用意しておいて正解であった」
摂政代理の書類を受け取ったバャハーンギールをはじめ全員が呆然としている。
「叔父上は最初からこうなると考えてこの書類を用意されていたのですか?」
「まあ、そうだ。
其方らよりも猊下との付き合いは長いからな」
変人と呼ばれる宗主補は平然と答える。
以前からフサイミールを知るシャイフとラーグンは平然としているが残りの三人は驚きを隠せない。
「そんなことで、私は今から病だ。
バャハーンギール、ピールハンマド、其方ら二人で頑張ってくれ。
ラーグンは猊下の護衛を頼むぞ。
分かっているとは思うが誰も近づけるな」
バャハーンギールは頷くと横のピールハンマドを見やって意味ありげな表情をした。
ピールハンマドも負けずに睨み返す。
「あー、其方ら、いがみ合っている暇はないぞ」
そんな二人にフサイミールが再び口を出す。
「其方ら二人ともカゲシン内部、それも宗教系貴族にしか基盤を持たぬではないか」
マリセア摂政代理と帝国宰相が顔を見合わせる。
フサイミールが言ったことは事実であったが、少なくとも二人はそうは考えていなかった。
「私はシャーラーン猊下が退位したら一緒に引退するつもりだ。
私の年金と邸宅はそのまま頼むぞ」
「承りました。
叔父上を困らせるようなことは致しません」
「私も殿下の生活を保障する事をここに誓います」
二人は共に心の底ではフサイミールを軽蔑していた。
だが、ここ数か月のフサイミールの行動は予想外である。
少なくとも軍部が、特にクロスハウゼン・カラカーニーがフサイミールを支持しているのは確実だろう。
現時点で敵に回すべきではないと二人は考えていた。
フサイミールが満足げに頷いた時、闖入者があった。
「兄上、猊下が危篤とお聞きしましたが」
一同がいたのは宗主居室前の廊下である。
カゲシン正堂の奥とはいえ廊下であることには変わりない。
従って正堂の奥に入ることが出来る人物であればここに来ても不思議ではない。
やって来たのはマリセア・ユースフハーン。
現宗主シャーラーンの異母弟である。
シャーラーンの『正嫡』の男兄弟は、シャーラーンを入れて四人。
シャーラーン、フサイミール、クチュクンジ、そしてユースフハーンである。
ユースフハーンはかつてカンナギ・キョウスケが『ねずみ男』と評した貧相な容貌と体格の男だ。
セリガー共和国の使者に賄賂を貰った人物でもある。
「おお、ユースフハーンではないか。
カゲシンから逃げていたと聞いたが何時、戻ったのだ?」
「逃げていたとは心外です。
私はクチュクンジ討伐のためカゲシンの外で兵を募っていたのです。
些か遅れましたが、本日、戻った次第」
ユースフハーンはエディゲ・アドッラティーフ宰相暗殺とクチュクンジの政権掌握の直後にカゲシンから脱出していた。
クチュクンジのライバルであった彼はクチュクンジに粛清される事を恐れたのだ。
実際にはクチュクンジはユースフハーンを脅威に思っておらず、粛清の予定もなかったのだが。
そもそもその存在を忘れていたのが実際だ。
ユースフハーンにはその程度の勢力しかなかったのである。
ユースフハーンはアナトリス郊外で逼塞していたが、情報伝達が遅く、クチュクンジがカゲシンを離脱したことを知ったのも数日前であった。
バャハーンギールの凱旋式があると聞きつけてそれに便乗しようと考えたのだが、到着は遅れた。
彼がカゲシンに戻ったのは凱旋式の二日後、宗主が倒れた翌朝である。
そこで、宗主が倒れたとの話を聞きつけた。
「宗主猊下が危篤との事であれば、次の宗主を決めねばなりませぬな」
ユースフハーンは乱れた息を整えて居住まいを正す。
「そして宗主が代替わりすれば宰相も交代するのが通例。
よって宰相の選任もあります。
フサイミールの兄上は宗主にも宰相にも興味はないとお聞きしております。
不肖ユースフハーン、この国家の危機に国家に奉仕する準備はできております」
バャハーンギール、ピールハンマド、そしてラーグンの冷ややかな視線を無視してユースフハーンは話し続ける。
これがユースフハーンだ。
ユースフハーンは現宗主の異母弟。
母親はアナトリス侯爵系であり、正夫人の子としてマリセア宗家の継承権も保有している。
「帝国の現状では、カゲシンにとって最も頼りになる諸侯は我が母の故郷であるアナトリス侯爵家でありましょう。
ウィントップ家、ゴルデッジ家は没落し、トエナ家、シュマリナ家は敵対中。
クテンゲカイ家も当主が死んで混乱中です。
地理的に遠方のボルドホン家は頼りになりませぬ。
これからはアナトリス侯爵家の時代でありましょう!
その意味でも私の存在は帝国にとって重要かと考えます」
ゴルデッジ家が没落したとの話にバャハーンギールがムッとする。
確かにユースフハーンの分析は正しい。
だが、ユースフハーン自身の能力は低く、その取り巻きも質が悪い。
カゲシンでの勢力は微々たるものだ。
本人はそう考えてはいないが。
現実を言えば、アナトリス侯爵はこの男を気にも留めていなかった。
アナトリス侯爵は、以前はバャハーンギール派であり、現在は軸足をシャールフに移している。
ユースフハーンが政権に入るかどうかとアナトリス侯爵の協力は関係が無いだろう。
「あー、ユースフハーン、言っておくが猊下は亡くなられてはおらぬ。
暫くは静養だが、退位するわけでもない。
死んでもいないのに、後継を論議するのは不敬であろう。
そもそも、猊下の子がいるのだ。
継承順から言っても私や其方の出番はない」
「それは建前でありましょう。
そこのバャハーンギールはゴルデッジ家、自分はアナトリス家、どちらが優位なのかは明らかです。
直ちに、主要な貴族を集めて決を取れば自分が支持されるかと」
護衛騎士団長ラーグンは目の前で必死にしゃべり続けるユースフハーンを見て、何故この人はこんなにも自信があるのだろうと思った。
「ああ、取りあえず、其方のカゲシン帰還を祝って宴会を行おう。
丁度、今夜のブンガブンガに空きがある。
クテンゲカイ・バヤズィトがテルミナスに戻ってしまったのでな。
ユースフハーン、其方には酒の手配を命じる。
ああ、金だけ出してくれれば下の者が購入するから問題ない」
フサイミールはそう言うと、強引にユースフハーンと肩を組み歩き出した。
バャハーンギールはその様子を複雑な表情で見送っていたが、少しして我に返った。
「宗主執務室に向かう。
摂政代理として遅滞している業務を片付けねばならぬ」
バャハーンギールが側近と共に動き出す。
「バャハーンギール殿、勝手に執務をされるのは困りますな。
宰相たる自分を通して頂きたい」
ピールハンマドが慌ててその後を追う。
取り残された、ラーグン護衛騎士団長とシャイフ主席医療魔導士は黙って業務に戻った。
それを確かめてモローク・タージョッも自室に戻る。
タージョッは宗主侍医主任補佐に就任してから正堂奥に居室を与えられている。
部屋に戻って一息つこうとした彼女だが、居室の前で待ち構えていた者がいた。
「宗主侍医主任補佐のモローク・タージョッ殿ですな。
私は大僧都のミズラ・インブローヒムと申します」
男は『大僧都』というのを強調して話した。
タージョッが知るところではミズラ家は宗教系の僧都家だったはず。
何時の間に昇進したのだろう。
「実はバャハーンギール殿下がモローク殿の働きを高く評価されております。
若く美しく聡明な女性であると。
ついては、今後の宗主猊下の治療などについて、あるいはバャハーンギール殿下ご自身の健康について、モローク殿のお話を伺いたいと仰っております。
今夜にでも夕食をともにしながら、宜しければ夕食後もデザートを楽しみながらお話ししたいと」
高位貴族の男性が独身の女性貴族に対して『夕食後も共に』というのは、夜の相手をしろとの意味である。
タージョッは素早く計算した。
バャハーンギールは貴族としても男性としても能力は高くはない。
一個人としては魅力を感じない。
尊敬もできない。
だが、彼は宗家の一族であり、次期宗主の最有力候補なのだ。
「今夜伺うのであれば、上司であるシャイフ主任医療魔導士に許可を得る必要があります。
許可が得られれば是非とお伝えください」
ミズラ・インブローヒムは満足気に頷いた。
「シャイフ殿には私からも口添えしましょう。
では、後ほど」
そう言って、バャハーンギールの使者は去っていった。
タージョッはその後姿を見送り、その姿が消えたところで従者に指示を出した。
「コニ、至急家に戻って、父上と兄上にバャハーンギール殿下について知っていることを全て聞いてきて。
特に性癖は念入りに。
あと、一番いい下着を持ってきてちょうだい」
モローク・タージョッは勝負をかけた。
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