05-11 お披露目されてしまうのも大変です (二)

「あー、二人とも聞いてくれ」


 オレはあえて少し大きな声でクテン・ジャニベグとクロイトノット・アシックネールに話しかけた。


「二人はオレと婚約する、事になったのだと思う」


 何故かパーティー会場が静まり返る。

 良く分からんが、皆がオレ達に注目しているらしい。

 なんでだ?

 だが、今更、止める訳にも行かない。


「二人とも、これまでは色々とあったのだと思う。

 オレの方もそれなりに色々とあった。

 だが、オレたちは正式に婚約という形になる。

 過去をとやかく言う事はしない。

 未来を見つめよう。

 オレは今後、公的な関係以外の女性と交わる事はしないと約束する。

 だから、二人も今後はその様にして欲しいんだ」


 周囲からの目線が少しだけ暖かくなった気がした。


「うむ、良く分かった」


 ジャニベグが首を縦に振る。

 うれしい。

 周囲からもホッとしたため息が聞かれる。


「つまみ食いをする時はオープンにしろということだな。

 分かっている。

 必ず其方に報告しよう」


 あー、いや、それはー。


「ジャニベグさん、キョウスケが言ってるのは事故って妊娠しないかって話だと思いますよー」


 アシックネールさん、あの、・・・ビミョーにずれている気がするのですが。


「ほら、どっかの第一正夫人みたいに、夫以外の子を孕んじゃって子供まで生んじゃった方がいたでしょう」


「ああ、あの方か」


 はーっとジャニベグが息を吐く。


「あれは極端な例だがな」


「極端な例?」


 反射的にオウム返ししてしまったオレにジャニベグが説明を始める。


「さる第一正夫人、まあ、我が父上の第一正夫人の事なのだが、魔力量が低いから父上とは当分の間子供は作らない約束で嫁いできたわけだ。

 だが、若い男を引き入れて妊娠してしまい、まごまごするうちに時が過ぎて、結局生んでしまった、という話だ」


「おい、ちょっと、まて、・・・」


 ここ、パーティー会場のど真ん中なんだが。


「生まれたのが女子だったから、父上も大事にはせずにしておる。

 まあ、それからは厳重監視態勢になったのだが致し方あるまいて」


「ジャニベグ、その話、ここでしていいのか?」


 クテン侯爵の第一正夫人が不義の子を産んだって話だよね。


「思うんだけど、なんで、途中で堕ろさなかったのかなぁー」


 冷や汗のオレの横からアシックネールがどうでもいい質問をする。


「それだな。

 マリセアの正しき教えで堕胎は禁止されているから、というのが建前だが、実際には単なる知識不足で自分が妊娠していると気が付いていなかったらしい」


「うわ、無知にも程が有るでしょー」


「本人も、そして彼女の側近の乳兄弟も、そちらの知識がさっぱりだったのだ。

 相手が未成年なら妊娠しないと思い込んでいたらしい」


「あー、君たち、今のはパーティー会場で大声でして良い話なのかな?」


「こんなの、カゲシンの半分は既に知っているだろう」


「実際、私は聞いてましたしねー」


 ・・・ダメダこいつら、早く何とかしないと。




「うーむ、今の話は本当なのか?」


「私も噂としては聞いていたが、関係者から断言されるとは驚きだよ」


 向こうでは、セヴィンチ君とアフザル君が驚愕の表情だ。


「カンナギ、其方、一体何を話している!」


 いきなり背後から声を掛けられた。


「いや、話しているのは私ではなくて、あなたのお姉さんですが」


「おう、ムザッファルか。何を慌てている?」


 息急き切って現れたのはクテンゲカイ・ムザッファル。

 クテンゲカイ侯爵継嗣にしてジャニベグの同母の弟だ。


「いや、姉上。

 その、我が家の第一正夫人の話を、今、ここでする必要はないのではないかと、考えまして、・・・」


「あるぞ」


 弟の指摘に胸を張って答える八九式露出狂。


「私は第二正夫人の長女で、父上の娘の公式の序列では第二位になるが、実質は第一位だということだ。

 あの娘は父上の娘ではなく、我らの兄弟でもないからな」


 ジャニベグの宣言にパーティー会場がざわめく。

 何だろう、オレ達の周囲にできていたドーナツ型の空間が更に広がった気がするのだが。


「カンナギ、其方の妻であろう。あの発言を止めよ」


 ムザッファルがオレの耳元で囁く。


「いや、まだ、正式な婚約にすら至っていません。

 本人に直接言って貰えますか」


「其方、もう、姉上とヤったではないか。

 侯爵家の娘と関係したのならば結婚するのが当然ではないか」


「オレの前に、五六人程、同様な方が居られたようですが」


「頼む、姉上は私のいう事は全く聞かないのだ。

 其方が制御してくれなければ大変なことになる。

 これ以上何か言う前にここから連れ出して欲しいのだ」


 大変なことになるって、・・・もう、手遅れだよね、・・・・。


「話を戻すと、私はあの第一正夫人のようなへまはせぬ。

 避妊技術には自信が有るからな。

 そういうことでキョウスケは安心していてよいぞ」


 何がどう安心なのだろう。

 話が根本的にかみ合っていない気がする。


「ジャニベグさん、キョウスケはそもそも、そのような可能性が有る行為はするなって言ってるんですよ。

 避妊方法は色々とありますが、医学的に見ればどれも絶対ではないのですから」


 赤毛のブローニングな女が一見まともなことを言い出す。


「テクニックを維持するためには日々の鍛錬が重要だぞ。

 それに、確かにキョウスケは極上だが、極上ばかり食べていては飽きが来る。

 時々、安い肉を食べることで、極上の味が再確認できるというものだ」


 オレ、理路整然とした変態って嫌いだ。


「確かに女にだって自由に生きる権利はありますからね。

 その場のノリと勢いは大事にしないと」


 オレ、ノリと勢いだけの変態も嫌いだ。


「そもそも、私は魔力が多いからな。

 そこらの男なら何人とやっても平気だろう。

 実際、以前、気の向くままに十人ほど連続で中出しさせたが妊娠しなかったからな」


 オレ、気の向くままの変態も嫌いだ。


「カンナギ、頼む。

 早く連れ出してくれ。

 これ以上は我がクテン侯爵家の名誉が、威厳が、・・・」


 涙目で、しかし、小声でオレに囁くジャニベグ同母弟。


「だから、自分で言えばいいじゃないですか」


「私では姉に勝てぬ。

 以前、同様なパーティー会場で姉に意見した時は、会場内で素っ裸に剥かれて放置された。

 其方は姉に勝ったと聞いたぞ!」


 弟、勝てないのか、・・・。


「うーん、前回大丈夫だったからって次も大丈夫だって保証はないですよね。

 私は結婚したら他の男の子供を孕む様な危険は冒すべきではないと思うんです。

 キョウスケの言いたいのもそこでしょう?」


 いきなり同意を求めて来るブローニングな女。

 しかし、まあ、間違いではない。

 取りあえず頷く。


「ですから、私は結婚したら、他の男には後ろの穴にしか挿させない、中出しさせないことにします。

 ですから、キョウスケは心配しなくて良いですよ」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・えーと、・・・・・・・・。




「沈黙しているが、カンナギはアレで納得しているのか?」


「してるのかもしれないね。

 彼も重度の変態だから。

 男一人愛同盟では指導的会員だそうだよ」


 セヴィンチ君、納得しているのではない。

 どう言い返すべきか分からないだけだ。

 アフザル君、指導的会員ってそれどこで聞いたのかな?

 ああ、それにしても、本当にどうしよう。

 基本的常識の差異が大きすぎる。

 オレ、引退しようかな。

 気力、体力の限界。

 どこか人のいない所に行きたい、・・・そう、ム〇ト岬みたいなとこ。

 カナンにもないかな、ムロ〇岬。




「何か揉めているようですね」


 突然、颯爽と現れる黒髪の美女。


「あら、シノノワール様」


「うっ、センフルールの黒髪姫か」


 この人、インパクト強いからな。

 シノさんは例によって、Fカップの形がくっきり分かる体にビッチリした上下である。

 完璧な美人にブローニングも八九式も無視はできないようだ。


「話は聞かせてもらいました。

 キョウスケとしては婚約者二人がコントロールできない、自分の命令に従ってくれないという事ですね」


「命令しているつもりはないのですが、・・・」


「解決策は簡単だと思います。聞きたいですか?」


 そんなに簡単なんだろうか?


「一応、教えて頂けますか?」


「一か月ほど監禁・調教して、あなたのモノと精液無しでは生きていけない、あなたの命令を忠実に守る雌犬にしてしまえばよいのです。

 キョウスケの能力なら十分に可能でしょう」


 表情が素に戻るという表現があるが、今のオレがまさにそれだと思う。


「何で、シノちゃんに、こーゆーこと聞くかなぁ」


 何時の間にか後ろにいた小型高性能金髪美少女シマがボソリと言った。

 うん、そうだね。

 そーゆー人だった。

 シノさんって見た目は完璧だから、つい忘れちゃうんだよな。

 繰り返して言うが、ここはパーティー会場だ。

 広間中央部にいるのはオレ達だけで、他の数百人の参加者が壁に張り付いているという、いささか、変わった状況だが、祝賀会の真っ最中、・・・の筈だ。

 何故か一人だけ目を爛々と輝かせてる人がいるが、・・・って、ネディーアール様、なに、わくわくしてるんでしょう?




「監禁調教って、・・・流石に犯罪じゃないのか?」


「ああ、完全に犯罪だ。

 買ってきた奴隷なら好きにすればよいが、侯爵家の令嬢を監禁調教とはね。

 それも実弟の前で宣言するとは恐れ入るしかないな」


 セヴィンチ君、アフザル君、ちゃんと聞いてたのかな?

 その発言、オレじゃないからね。


「一か月間、監禁調教ですって!」


 アシックネールが絶叫する


「本気で言っているのか!」


 ジャニベグも驚いた顔だ。


「ええ、そうです。

 一か月間、昼となく夜となく、体中ドロドロにされて、何も考えられなくなるぐらい、イカされ続けるのです」


 ドヤ顔で、宣言するタイプF91。




「カンナギの奴、酷すぎるぞ。衛兵を呼ぶべきじゃないのか?」


「本気ではないと思うが、念のため呼んでおくべきかも、・・・」


 オイ、そこの二人、だから、オレじゃないだろ!




「そんなことが、可能なの?」


「す、すごいな」


「キョウスケなら、勿論、可能でしょう」


 シノさん、なんで断言してるのかな。


「そ、そうね。試しに付き合ってあげても良いわ」


 何故か顔を赤らめている赤毛のブローニング。


「待て、最初はどう考えても私だろう」


 早速、服を脱ぎだす露出狂。

 ちょっと、待って、君たち、・・・どうして、こーなってんだ?




「えーと、あれは、最初から合意の上での話だったのか?」


「セヴィンチ、聞かないでくれたまえ。

 平凡な僧都家の息子としては理解できない世界だよ」


 セヴィンチ、アフザル、お前ら、後で絞めてやるからな。




「良く分からないが、セックスなら場所を移した方が良いでしょう。

 そういうことで、姉上、カンナギの家に移動するのが良いかと考えます」


 何が何だか分からんうちにジャニベグ弟が姉に帰宅を促し始めた。

 帰るのはいいよ。

 できれば君の家に引き取って欲しいのだが。


「いや、私は、今ここで、直ぐに始めたい。幸い、観客も多いしな」


「一か月やり続けるとしたら、それが出来る場所に移動すべきかと」


 ジャニベグ弟、その説得は、なんだ?


「それも、そうか」


 恐らくはクテンゲカイ家の使用人なのだろう。


 ジャニベグ弟の合図に十人近くの男女がオレ達を包み込み、玄関へと誘導する。

 外には馬車が待っていた。

 手際いいな、オイ。


「ちょっと待って、私も行きますから」


 赤毛のブローニングが強引に入り込む。

 その後ろからは何故か、側近筆頭の手を振り切ったナディア姫が走ってきて、そして、シマにトラップされていた。

 何やってんのかね?


 気が付いたら、オレも馬車に乗せられていた。

 ・・・良く分からんが、まあ、あのまま、会場にいても、どーにもならんかったから、良いのかもしれない。

 良しとするしかない、だけかもしれないが。


 後日聞いたところでは、祝賀会ではいろんな発表が行われていて、オレは少僧都から権僧都に昇進していたらしい。

 何時、どこで、そんな話してたんだろう?

 そう言えば、オレ、お披露目されるって話だったような、・・・お披露目されてたのかな?

 お披露目されちゃったのかな、・・・深く考えるのは辞めよう。




 夜中になって、また、センフルール屋敷の鍛冶小屋に行った。

 無心に鉄を叩いていると心が洗われる気がする。

 あの後どうしたかって?

 結局、ヤリました。

 あーそうだよ、ヤッたよ、ヤリましたよ。

 だって、ヤラないと話がまとまらなかったんだから仕方がないじゃないか。

 家に帰った途端に脱ぎだした女と、馬車の中で既に脱いでいた女。

 オレがしっかりヤリきるまでは帰れないと宣言するジャニベグ弟と御一行様。

 恥じらいとか、デリカシーとか、ムードとか、・・・何と言うか、セックスってもっと、こう、秘められた興奮みたいなものだと思うのですよ。

 スパーンと脱いで、ヤルゾーとか気合でやるものではないと考えるのですよ。

 ヤリ終えるまでは部屋から出さないと、見張られながらヤルものでもないと思うのですよ。

 女をイカせて、失神させて、・・・完全に作業です。

 いや、まあ、それなりに欲望発散には、・・・なってる、・・・のかもしれないけど。

 しかし、ヤル前に目を瞑って、心頭滅却して、脳裏にエロい光景を思い浮かべて、自らを奮い立たせるって、まるで修行だ。

 考えてみれば、タージョッの時はまだムードはあった。

 婚約解消は早まった、・・・あの引き締まったバストとふくよかなウエストには、未練は全然ないけど。


 考えてみると修行堂で修行していた間は平和だったな。

 また、修行もいいな。

 修行、・・・登山も良いかもしれない。

 登山靴、高いの買ったんだよな。

 あれ、どこにやっただろう?

 山の頂上とかいいよな。

 エレベーターが付いている所が良いな。




「何で、また、鉄を叩いているのですか?

 切り上げるのが早すぎませんか?」


 無心に剣を叩いていたら、シノさんがまたやってきた。


「完全に屈服させるのでしたら、イク寸前の状態を何時間も続けるのが効率的でしょう。

 発狂寸前まで追い詰めないと」


 この人、オレに何を求めてるんだろう?


「でも、あの状況で、あの女たちと出来るって、あんた、やっぱり変態よね」


 シマ君、少しはオレの苦悩を、・・・もう、どーでもいいか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る