第2話M王子と化した彼女とS姫様

「キラリ様素敵!」

「キラリ様今日も美しい!」

「キラリ様抱いて!」

などのキラリに降りかかる黄色い声を益恵は横目で観察した。

(学生の間だけのアイドルね……。こいつら卒業と同時に志多キラリのことを忘れるんだろうな)

益恵はひねくれた考えを持っているが、何も知らない彼女達を内心で笑ってもいた。

「高倉さん、おはよ」

「おはよ。志多。今日も、モテてることで」

「ああ。嬉しいよ。彼女達のことは本当に好きだ」

「……志多、私のことは?」

「大好き」

「ならば、よし」

キラリと益恵の交際は水面下で行われていたが、お互いを好きだ、大好き、愛してるなど日常的に飛び交うほど平和な女子達が集う場所では仲良しの上を行ってるのか、友達なのかなんて判別しようがない。

水面下と言いつつ堂々としたものだ。

ただ、確実に水面下な関係であるのは間違いない。

なぜなら……。

「高倉さん……ビンタして……」

「は?」

キラリの謎の頼みに益恵は思わず、買ったばかりのパンを落としかけた。

「今日、僕、生理で元気ないんだ。だから、ビンタして」

「お、お前な……」

男装の麗人気取りで学校内でファンを持つ志多キラリはM気質の持ち主だ。

サディスティックに目覚めたての益恵にはキラリのMにまだ対応出来ていなかった。

「痛みに痛みをプラスしてどうするんだよ……」

「痛みを上回る痛みを与えれば痛みは和らぐよ」

「あー……ビンタの痛みに気を取られて、生理の痛みを忘れると……」

「そう!」

「やだ」

「な、なぜ!」

「志多を叩いてるところ見られたら私が悪者じゃない」

「そ、それは……」

「んー……あ、顔じゃなければ、いいか」

「う、うん!」

「尻なら遊んでるように見えるね」

益恵はニヤリと笑い、キラリは少し怯えていた。

「お、お尻……それは、その……」

「何? ビンタしてって言ったの志多でしょ? 私がどこを叩いても良いのよね?」

「え、あ……う」

 キラリの返事は言葉になっていなかったが益恵はその様子すら楽しく思えた。

「曖昧な人はキライだからお仕置きをしてあげよう。尻を出しなさい」

益恵は言うと同時にキラリの尻を叩いた。

「ひッ!」

制服と下に穿いている体操服の短パンで痛みは無いに等しいが、尻を同級生に叩かれるという行いに屈辱という痛みがキラリの心に突き刺さり、思わず胸を抑えた。

「どうしたの? 叩かれているのはお尻でしょ?」

「その、胸がちくりと痛んで……ひッ!」

益恵はキラリの言葉を聞かずに叩いた。

「尻を叩かれて喜んでいるキラリ様を見て、ファンの子たちはどう思うかなー?」

「う、ううう……」

「って、そもそもアンタが叩いてっていったのになんで私がイジメてるみたいになってるのよ」

「いや、だって、その……益恵さんは、私のS姫様だから……」

「ヘンな呼び名つけるな。M王子って呼ぶぞ」

「益恵さんが、S姫様で、私がM王子……なんて淫靡な響き……ひゃッ!」

「何回叩けばその口はふさがるんだ? Mだからふさがらないのかな?」

「はぅ……益恵さま……」

これがS姫『益恵さま』とM王子の誕生の瞬間である。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る