第31話 森蘭丸
─…?おかしいな?
近江屋とか言う商人は帰ったはずだが、まだ話声がする…。
─「なんだ、お前が化け猫の正体だったのか!」
「そんなのはどうでもいい!信長、覚悟するでありんす!」
「待て待て!ちょっと待て!とりあえず服着ろよ!」
がたっ…がたがた!
と、どこかで聞いたことある声と魔王が言い争っている
しかも何やら物音も聞こえてくる。
俺は廻縁の障子を開けて、魔王がいる部屋の中を覗くと、後ろ姿だったが間違いなく猫耳がある裸の男が魔王に襲い掛かろうと構えている!
「!!」
─ミケじゃねぇか!!!
俺は色々驚いて言葉を失う。
─えっ?!なんでミケここにいんの?!
どうやってここまで来た?!
んで、なんで裸?!
どうやってこの城に入り込んだ?!
えっ?!なんで?なんでだー?!
正直パニックだった。
が、そんな俺をよそに、魔王めがけて振り下ろしたミケの猫の爪は空を切った。
「おい!待て!」
と、言ったが、ミケは後ろに俺がいるのに全く気付いていない。
─あ、ミケのヤツ、怒りで周り見えてねぇな…!
なら…仕方ねぇ!
魔王が慌てて
「だからー!とりあえず服を着ろー!!」
と言うが、ミケはやめない。
「問答無用!」
ミケは再び魔王に向かって爪を振りかざし…た、所を俺はミケの首根っこを「ガシっ!」っと掴んだ。
「え?」
ミケは何が起こったのか分からずにゆっくりと俺の方を振り返ると同時に
─ぽん
と、猫の姿になった。
「ふぅ…おめぇさん…何やってんだよ?」
俺は猫掴みされて身動きが取れずに「ぶらーん」とぶら下がっている猫ミケに言った。
「…ヴィリーさん?あれ?何でここにいるんすか?わっちはあの町で顔を洗ってたらあの商人に捕まっただけでありんす。そしてここに連れてこられただけでありんす。」
猫掴みされて頭に上った血が瞬間冷却された猫ミケは、俺の顔をじっと見ながら言った。
それを聞いた俺は察した。
コイツ、『左手』で顔を洗って『信長に会う人』を『招いた』な。
しかも、自分じゃ気付かずに。
「あー、うん、だいたい見当はついたわ。」
と、ため息交じりに俺が言うと、魔王が猫ミケの顔を覗き込んで
「なにそれ!おもしれ!!」
と、猫ミケの頭をナデナデした。
すると、猫ミケが届きもしない猫パンチを魔王に向かって繰り出しながら
「触るな!お前さんなんかに撫でさせてやらんでありんす!」
と、ジタバタした。
魔王は猫ミケの釣り上がった目と尖った耳を見て
「猫の怒ってる顔って超カワイイ…。」
と、デレデレだ。
「はいはい。だから落ち着けよ…!」
俺は猫ミケの頭をわしゃわしゃ撫でた。
「ヴィリーさん!何をするでありんすか?!せっかくの毛並みが台無しになるでありんしょう?!」
猫ミケは俺に向かって猫パンチをしたが、届かない。
そこへ
「あれ?なになに?もめ事?」
と、中身が吸血鬼の秀吉がにゅっと顔をのぞかせた。
「なんか良く分からないんだけど、この状況、何?」
と、冷静に散らかった部屋を指さして言った。
あ、こりゃ怒られると悟った魔王が
「いや、化け猫に襲われたんだよ。しかも、どうやらヴィリーの飼い猫みたいだぞ?」
と、猫ミケを指さして言った。
コイツ、俺に責任押し付けやがったな!
「わっちはヴィリーさんの『飼い猫』になった覚えはないでありんす!『同居人』でありんす!」
と、猫ミケがまたジタバタし始める。
その様子を見ながら吸血鬼が冷静に
「ふーん?そんなのはどうでもいいよ。君は何しにここに来たの?」
と、猫ミケの顔を覗き込んだ。
「仇討ちでありんす!コイツがわっちのおっかさんと幸を殺したんでありんすから!」
猫ミケがそう吸血鬼に言うと、吸血鬼はニヤニヤしながら
「お!いいねぇ!仇討ちしていいよ。そうすれば僕の『魔界の仕事』がやりやすくなるから。」
と、猫ミケの頭をポンポンした。
おいおい、お前今のコイツに変な『ワード』を吹き込むんじゃねぇよ!
「吸血鬼、話をややこしくすんな!」
俺は吸血鬼を咎めると
「状況良く分かんないけどさ?どうせ君の事だから、この子に何も教えてないでしょ?僕たち『魔族』に『神気』は見えないからはっきりとは言えないけど、『化け猫』って言うくらいだからこの子『天界の住人』でしょ?」
と、さらに猫ミケを混乱させるような『ワード』を並べる。
案の定、猫ミケが
「ちょ…ちょっと待つでありんす…魔族とか、魔界とか天界とか?どいう事でありんすか?」
と、ついに自分が理解できる範疇を超えたらしい。
俺は「はぁ…」とため息をついて猫ミケを下ろした。
「いいか、ミケよく聞けよ?」
と、言うと猫ミケが俺の方に顔を向けた。
「分かったでありんす。」
「まず、織田信長だが…おめぇさんが比叡山延暦寺で見た織田信長はこんな顔してたか?」
俺は魔王を指さして猫ミケに聞くと、猫ミケは魔王の顔をじっと見て
「…いんや、こんなイケメンじゃありんせん。それにこんな
と、俺の方を向きなおして答える。
すると、魔王がちょっと「むっ」として
「おい、三毛猫。俺の髪は「シラガ」じゃねぇ、「
と、言い返してきたが、俺はそれを
「魔王、お小言は後だ。」
と、遮って猫ミケに話を続ける。
「いいかミケ。おめぇさんが延暦寺で見たのが『本物の織田信長』。延暦寺焼き討ちは『魔王召喚の儀式』のために『本物の織田信長』がやった事だ。そして、『召喚』されたのがコイツ。『魔界の支配者』で本物の『魔王』なんだよ。」
と、親指で魔王を指さした。
本物の織田信長はもう人間界で存在しない事。
魔王は召喚されて織田信長のふりをして居る事。
『人間界不可侵条約』で人間界で『特殊能力』は使えない事。
だから『病をまき散らす』のは魔王の仕業ではない事。
俺は猫ミケに説明すると、猫ミケは俯いて申し訳なさそうに耳を垂れた。
そして、魔王と吸血鬼も『ミケの事情』を把握した。
「そうだったんでありんすね…。て、言うか…ヴィリーさんは何でそれを先に教えてくれなかったんでありんすか?知っていたらさすがのわっちも…。」
と、猫ミケがしょぼくれながら聞いた。
俺は手のひらからキセルを出して
「あん時のおめぇさんに何を言っても聞かなかっただろうが。落ち着いたら話すつもりだったのに勝手に家出しやがって…!コマやコン、桃太にも心配かけやがって!」
と、言って煙を吸って、そして吐く。
「そうで…ありんすね。確かにそうでありんす…。」
猫ミケが自分の早とちりを反省する中、腕を組んで首をひねらせた魔王が急にしゃべりだす。
「つか、なんで『病をばら撒いてる』のが俺ってことになってんの?そもそもそんな力ねぇし。」
と、言うと吸血鬼が
「そうだね、魔王の『力』はそんな回りくどい力じゃないからねぇ。でも確か『疫病を操る能力』持ってて魔界に派遣されてる種族が天界にいたよね?」
と、言ったとたん、猫ミケが前のめりになって吸血鬼に問う。
「誰でありんすか?!どんな種族でありんすか?!」
すると、吸血鬼が首を捻りながら
「えっとー…確か…。」
と、言いかけたので、俺は吸血鬼に向かって慌てて「シーッ!」と、人差し指を口の前で立ててから両手を合わせて合掌した。
それを察した吸血鬼はしばらく黙っていたが、何か思いついたらしく
「…忘れちゃった。でも、君が『病をばら撒いたやつ』を探したいなら、魔王のそばで仕事してみたら?」
と言った。
猫ミケはちょっと嫌そうな顔をして
「どうしてでありんすか?わっちがこんな所で仕事してたら、探せないでありんすよ。」
「探せるよ?多分君が一人で探すよりもよっぽど楽だし見つかりやすいと思うけど。」
吸血鬼はにっこりしながら言う。
「このご時世、織田信長のフリをしてる魔王は、あちこちこの国を回ってるんだよ。君が魔王の側仕えの仕事をするなら、魔王についていろんな所へ行けるから探すのも楽なんじゃないかな?」
猫ミケは少し考えて
「…確かに!」
と、顔を上げた。
「この前『森蘭丸』って言う側仕え小姓の一人が病で死んでね?こっちも人手が足りないんだよ。君は人の姿になれる。だから、人前に出るときは『人の姿』で『森蘭丸』として、人がいない時には『猫の姿』で魔王が仕事さぼらない様に監視してくれるとこっちも助かるんだけどなぁ?」
吸血鬼がそう言う。
なるほど…、と言うかさすが吸血鬼だ。
『効率厨』は伊達じゃねぇな。
それを聞いていた魔王は
「猫がそばにいる生活…良い!」
と、顔を綻ばせる。
すると猫ミケはキリっとした目つきで
「やるでありんす!わっちは魔王が仕事をさぼらない様に監視するでありんす!」
猫ミケは吸血鬼の口車に乗せられたと微塵にも思ってない様子でやる気満々になった。
「そりゃ助かるよ!よろしくね、ミケ!」
と、吸血鬼は猫ミケの前足を握って握手した後、急に俺の肩に腕を回して耳打ちしてきた。
「君がこっそりやってる店の事は知ってるよ。だからこれは貸し一つだからね。」
と、微笑んだが、逆に俺は背筋が凍り付いた。
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